15「準備」

「五十メートル走、何秒?」

「は?」


春樹を抱えて逃げるのはいいとしても、追いつかれたら意味がない。


「確か、春に測った体力テストでは、七秒台だったと。」

「同じ位か。一度、競争がしたい。」


春樹は近所の市民体育館に、五十メートル測れる機械があると知らせた。


早速、今度の金曜日に出向く。


冬休み最終日である。

土曜日と日曜日は休みだから、冬休みではない認識だ。


「ここって、体育館だったんだな。」


球体の建物で、色が薄い赤色をしていた。

市民体育館を建設する時、火星好きの人がいて、設計図を作ったと、パンフレットに乗っている。

説明を得ると、確かに火星の色使いがされてある。

だが、建物の見た目だけで、中身は想像している体育館だ。


体育館の周りに駐車場があり、自由に停められる。

結構な数が停められる。


体育館に入り、受付に行く。

この体育館を使用するのは、三人とも初めてだ。

書類に必要な事項を記入して、写真を撮られる。

少し経つと、カードになってきた。


カードは、黄色で写真とバーコードが入っている。

裏には、体育館の詳細が記された項目が印字してある。


間違えがないか確認し、体育館の使用について案内の一人が来て、それぞれの施設を説明した。

一通り説明を聞くと、目当ての五十メートルが測れる部屋へと案内される。


部屋を見ると、五十メートル測れるレーンが、四レーンある。

スタート地点にある、足の形をした枠に両足を乗せると、レーンのゴールに設置してあるタイマーがゼロになる。

両足が離れると、ゼロからタイマーが作動する仕組みだ。


運動靴に履き替え、貢と夏也は準備運動をした。

それを見守る春樹。


「夏也君、全力で来なさい。」

「義父さんこそ、全力で走ってよ。」


タイムの競い合いとなった。

最初は、タイムが思ったより伸びず、二人とも八秒台だった。

体力が衰えていると思い、準備運動や筋肉を温めた。

二人とも真剣になって、タイムを競い合っているから、春樹は見ていて楽しい。


何度か走って測って平均を出すと、二人とも七秒台になった。

しかし、夏也がコンマ単位で言うと速い。


それを元に、春樹の実験工程を考える。




体育館を出ると、雪が降っていた。

積ると思われる。


「春樹君の作ったコートがあるから、雪かきも楽しく出来そうだ。」


貢が言うと、夏也もコートを着直す。


「雪だるま作ろう。」


夏也も楽しそうに答える。

春樹は、自分のコートが間に合い、お揃いで来ている夏也と貢を見ると、嬉しくなった。


「なら、雪が積もる前に、ネックウォーマー、編む。」


夏也と貢からは「休め!」と言われた。

確かに、春樹は仕事のし過ぎである。

この体育館に来るのが、少しの息抜きが出来ていると願うばかりである。


体育館を後にして、疲れているし、外食にしようとしたが、流石の夏也。

朝、家に料理を仕込んできていた。

疲れる前に、先を見て、用意する。




家に帰ると、早速、夏也が用意した。


用意されたのは、鮭と梅干のおにぎりに、予め材料を切っておいた野菜や豆腐に豚肉を鍋に入れて、醤油ベースの汁の中に入れて煮始めた。

寒い時には重宝される鍋である。



夏也は自分自身で、少し変えたいと思っていた。


弁当を作りすぎて、弁当に入れる料理ばかりうまくなっている。

確かに、共働きの両親に弁当、自分も弁当、春樹に弁当、今では貢に弁当である。

それに加え、自分の料理をもっとおいしく作り、春樹の血が食欲を求めてくれるまで、向上心が必要になり、それがいつしか、能力強化をしたい気持ちになっていたのは、驚いている。


よく貢は、夏也の気持ちを知る事が出来たなと思っていたが、それには、きつめが襲った人と同じ目をしていたと認識したからだ。


貢は何度も、あの時の映像を見て、研究をしていた。

どんな人が、どんな表情をしているか。

貢が勤務しているセキュルティー会社は、罪を犯す前の人を分析し、未然に防げる研究もしていた。

貢も研究チームの一人である。

だから、夏也を見て、なんとなく感じた。



「夏也、おいしすぎて、食べ過ぎちゃいますよ。」


春樹の言葉で、夏也は、困っていた心が癒される。


「春樹がこんなに食べるのは、食欲が勝っている証拠か。」

「そうかも、今、クラスメイトの女の子見ても、かわいい以外は何とも思えないし、それよりも、こうやって夏也とお義父さんが一緒にいて、食事出来るのが、とっても嬉しいです。」


春樹は笑顔で答えたが、教室にいる時には、この話題はして欲しくない。

気にしていないと思うが、クラスメイトの女の子を「かわいい」と言っている。

それを教室で、発言したらどうなるかは、想像がつく。


「恐ろしいな。」

「はい。」


夏也と貢は、春樹を見て感想を言った。

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