13「聖夜」
十二月二十四日
今年のクリスマスイブは、日曜日だ。
クリスマスを、堪能する事になった。
夏也が、張り切ってクリスマス料理を、昨日から用意して作っていた。
チキンにシチューにパン、それとケーキ。
それらが、台所の机に並べられる。
貢は、春樹と夏也、それと緑沢夫妻に夏也から上げてくれとプレゼントを用意していた。
春樹と夏也には、今時珍しい、電子手帳だ。
スマートフォンのアプリでもあるが、勉強する時、スマートフォンのアプリを使おうとして触った時、他のアプリが気になって、ついでに操作し、集中が出来ないケースを知ったからである。
紙の辞典をと思ったが、既に持っているかもしれないと思い、電子手帳にした。
貢は、春樹の父親になってから、子供の情報を子持ちの人やネット、数々の書籍、教育関係のサイト等を参考にし、調べた。
それだけではなく、小学一年生から高校三年生までのドリルを一通り取り揃え、自分でも解いて見た。
子供とは、どういう勉強をし、どういう考えをし、どういう能力を持っているのかを知りたかった。
しかし、春樹と過ごす内に、子供と話し、接し、一緒に共にするが、少し離れた所から見守り、困った時に対応する。
それ位が丁度良いと確認した。
「電子手帳って、義父さんらしいな。」
「そうだね、電子関係をくれるなんて、お義父さんらしいです。」
春樹と夏也は、とても喜んでいた。
緑沢夫妻には、手袋であった。
春樹も夏也と貢に、プレゼントを差し出す。
包装は、シンプルだったが、綺麗に施されていた。
丁寧に開けると、コートが入っていた。
春樹が説明をする。
「このコートは、内ポケットが左右どっちにもあります。マジックテープで蓋も出来ます。外のポケットは、二重構造になっていて、ポケットの中にポケットがあり、鍵とか小銭を入れて置けます。マジックテープで蓋が出来ます。走った時に、ポケットの中身が飛び出さなくし、外ポケットにはファスナーで閉められます。」
そこまで話すと、夏也と貢は着て、ポケットを確認する。
小銭、鍵だけではなく、スマートフォンに小さいペットボトルは余裕で入る。
ハンカチやティッシュだけではなく、ウェットティッシュも入りそうだ。
色々な用途が出来そうだと、考えた。
「さらに、コートの内側はフリース素材、取り外し自由で、熱くも寒くもない仕組みにしてあります。背中と腰、首のあたりに、収納があり、カイロを入れて温かく出来ます。フードは二重構造になっていて、防水加工が表には施し、二構造目の内部は、フリース素材。もちろん、フードだけではなく、コート自体も防水加工をしてあります。」
一度脱いで見ると、これだけでも十分温かいが、カイロ入れられる所も入れやすく、落ちない様にマジックテープで蓋が出来る。
「裾部分には、ゴムで調節出来る様になっていて、足回りを広くしたり、狭くしたり出来ます。前は、上下ファスナーで調節出来、ボタンはゆったりとして欲しいから、木で出来た細い形をしたトグルボタンを採用しました。トグルボタンは、紐の調節出来るから、大丈夫だと思うけど、胸辺りが狭かったり、余る様だったら直すから言って下さい。」
もう一度着て、トグルボタンをはめて見たが、丁度いい調節だ。
「腕の所は、あえてボタンなしです。手は良く動かす部分だから、引っ掛けると怪我をするかもしれないから。……どうかな?」
その説明で、コートを着たり脱いだりして、細かな所を見る。
「これ、春樹君が全部?」
「はい、僕が全部、デザインして作りました。」
「身体にピッタリだね。どうやって採寸を?」
貢が訊くと、春樹は口元を上に反り、目元に手を持って来た。
「見れば、その人のサイズ位分かります。」
貢は、暖かいコートを着ているが、とても寒気がした。
それほどまでに、春樹の視線と能力が怖かった。
不正は許さないという目力である。
「なんて、ちゃんと貢さんの普段着ている服を見てですよ。」
「そ……そうだよな?」
流石にそうだよな。と思いながら、コートの暖かさを感じていた。
一方、夏也は、真実を教えるべきかと、迷った顔をしていた。
実際に、春樹は、人を見ただけでサイズが分かる。
服を着こんでいたとしても、一番上に着ている服の中は、どれだけ着こんでいるのかが分かるのである。
以前、夏也は寒くて、普段の恰好に一枚薄い下着を着て学校に来たが、春樹に見破られてしまった。
「体調悪い?」
「え?」
「だって、一枚多く着ています。」
あの時は、本当に怖いを通り越して、すごいに変わった。
どうやって見ているのかを、聞いた事がある。
でも、科学的根拠はなく、感覚的だと説明された。
実際に、聞いた時には小学六年生。
丁度、担任の先生が近くにいた為、先生のサイズを当ててもらった。
担任の先生を見て、紙に首回り、胴回り、腕周りのサイズを書いて、春樹の能力を説明した後、先生に見せた。
先生は、正解をくれたが、注意をした。
「この能力は、黙っておきなさい。先生が男だからいいけど、女性はサイズを知られるのは、大変恥ずかしいからね。」
春樹は、先生の言う通り黙った。
夏也もサイズ当てゲームは、封印し、言葉にしなくなったのである。
思い出していた夏也は、コートを着て嬉しがる貢を見ていた。
「同じデザインなんだな。」
「そうです。お揃いは、嫌がる家族いますけど、僕は好きです。っていっても、間に合わなくて、自分の分、これから作ります。」
春樹が嬉しがる姿を見ると、まあいいかと思うようになった。
「後ね、夏也、これ…夏也の両親に渡して下さい。」
袋を渡された。
中身を聞くと、セーターっぽい物だという。
「調べたら研究室って結構寒いみたいですし、このセーターぽい物は作業着の下に着られます。一般的には、セーターって、上着の上に着る物だと思うけど、研究しているなら埃とか舞うといけないですよね?だったら、上着の下に着られる物って思って、あっ、静電気が発生しない素材で作ってあります。」
「今の俺がカッターシャツを着ているけど、この下に着る物ってことか。」
「下着と上着の間に着ると、想像して下さい。」
「なるほど、暖かそうだ。説明しておく。」
一般的にサイズがピッタリで、どうやって測ったのかを聞いてきそうだと思うが、両親は聞いてこないと夏也は思った。
プレゼント交換が終わった所で、今度は夏也のプレゼントを食すことにした。
とても美味しすぎて、全て三人で食べきってしまった。
「パン、おいしかったな。どこのパンなんだ?」
チキンとシチューとケーキは、夏也が作った物なのは見て分かる。
貢が、聞いた瞬間、その言葉を引っ込めたい位だった。
「まさか。」
「はい、そのまさかです。俺が作りました。」
「夏也君は、パンも作れるのかい?」
夏也は、先ほど春樹もやったと同じく、口元を上げた。
春樹と夏也を、まだ、保護者が必要な子供とは思えない位の能力がある。
二人の行く末が楽しみになった、貢だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます