12「検査」

家では、料理担当が夏也。

洗濯とお風呂掃除担当が、春樹。

買い物とゴミ出しに近所付き合い担当が、貢。


それぞれの部屋は、それぞれが掃除をする。


それ以外の場所掃除担当は、台所と居間が夏也。

脱衣場とトイレ、廊下が、春樹。

玄関と家の周り、屋上が、貢。


お風呂の順番は、夏也、貢、春樹。

朝早く起きる夏也は、夜は早く寝る。

春樹は、お風呂に入った後のお湯で洗濯をし、お風呂の水を落として、風呂を洗う。

だから、二番目は、貢になった。


担当について思い出しながら、教室に入ると、夏也が春樹を発見した。

今は、二時間目が終わった後だ。


「終わったのか?」

「はい、お義父さんは仕事へ行きました。」

「そうか。」


夏也は春樹に包みを渡した。

開けると、クッキーが入っていた。


「緊張してお腹が空く時間かなって思って、昨日、作っておいた。」

「本当に魔法みたいですね。」

「クッキー位、CMなし、OP、EDなしのアニメ二本分で作れるぞ。」

「アニメ時間で数えないで下さい。」


夏也は、アニメが好きだ。


台所に充電器をコンセントに刺し、タブレットと繋いで、動画サイトアプリを入れて、アニメを見ながら…聞きながら、料理をしていた。

それには、夏也の一日を知れば分かる。




夏也は午前四時半に起きている。


起きてから、身支度をして、自分と春樹と貢、それに両親の朝食と昼食の準備をする。

赤野家の台所で準備し終わると、一度、自分の家へと行く。

両親の朝食とお弁当にした昼食を、居間のテーブルに置くと、赤野家に帰る。


赤野家へ行くと、貢が起きている。

夜遅くまで、仕事をしている時もあり、朝が弱い春樹が起きてくるまでに、暖かい朝食を用意が終わっている。


朝食を片付けて、貢と春樹に弁当を渡すと、学校へ向かう。

学校から帰った後、夕食を作る。

また、夕食が出来た後、自分の家に戻り、両親が出した洗い物を片付け、夕食をテーブルに置く。


赤野家に帰ってくると、貢が仕事から帰ってきていて、夕食にする。

洗い物を片付けて、明日の準備をし、自分の事をする。

自分の事は、宿題と風呂、歯磨きである。

それが終わるのが、午後八時で、寝る。




だから、料理中にアニメを見ている。

それに睡眠時間を削らないのは、体調管理を良くしておく必要がある。

自分の体調が良くない理由で、面倒をかけたくなかった。

それに、第一、自分の舌が味を安定して出せてないと困る。


夏也は、そんな一日だからこそ、好きな料理とアニメを同時進行出来る。

ただ、グッツとかは買わない、見る専門だ。

DVDやブルーレイも、買わずに動画サイトを契約して見る。

アニメを見始めたのは、何時頃かは忘れたが、料理をしながらアニメを見るのは、当たり前となっていた。


春樹は、母さんは、いつも、料理をしながらアニメを見ていたと思い出していた。



そんな事を思いながら、クッキーを口に入れた。

とっても美味しいし、口に入れた時に広がる甘さと、サラサラに溶ける舌ざわり。

喉を通る時に残り、また、身体に染み渡り疲労感を癒される感覚。


「本当に、おいしい。」


次々に口へと運ぶ春樹を見て、夏也は微笑んだ。


「お義父さん、貢さんね。もし、黒水…秋寺さんと母さんが結婚しなかったら、本当のお父さんになっていたでしょうか?」


春樹は夏也に、先ほど思った事を話した。


「ありえん。」


瞬間に否定をした。

夏也は、春樹に説明をする。


「もし、結婚の契約が無くて、きつめさんと貢さんが結婚したとしよう。きつめさんの暴走があったとしても、貢さんなら自分を大切にしようとか言って、一度病院へ連れて行くだろうし、今でも、様付けしている貢さんだ。きつめさんに触れて、もしも、怪我をさせてしまったらとか、色々考えそうだから迫められないだろ。だから、子供を作るには、とっても時間がかかると思うぞ。」

「確かに。」


夏也の説明に納得する春樹。


「それを考えると、秋寺さんは優しいな。」

「え?」


クッキーを落としそうになる位、春樹は驚いた。

いきなり黒水の話になったからだ。


「きつめさんが、暴走した時、きっちり受け止めたみたいだろ?だから、春樹がいるんだ。きっと、きつめさんの思い通りにしてくれたんだと、俺は思っている。」


春樹は、その一言で、血の能力は確かに厄介だ。

だが、関わった人は、優しい人が多いらしい。


現に血を提供してくれた人も、赤野の人も、黒水の人も、そして白田貢も、自分に出来る事で誰かの為になりたいと思っている人ばかりだ。

春樹も、誰か困っている人の役に立ちたいと思い、直す仕事を選んだ。


それに、今、目の前にいる親友兼婚約者である緑沢夏也も、春樹の為に料理を作ってきてくれたし、今も血の意思に負けない為、毎日、三食、手を抜かずに作ってくれている。


「夏也の言う通りです。しかし、原点はなんでしょう?」

「原点?」

「自然に目覚めたのか、または、呪いの何かと取引をして能力を得たのか。ほら、物事には最初がありますでしょ?」

「それこそ、優しい人が、辛くしている人を見て何とか自分に出来る事がしたい、と思って得たと思うぞ。資料も残っていないし、十六歳の誕生日、しかも夜に口頭で話す位だ。形にして残したのは、きつめさんが初めてだろうな。」


事実は分からないが、本当にそうだったらいいなと、春樹は思い、クッキーを食べ終わった。

それと同時に三時間目の時間が始まり、教室へと入っていく。



その日は、何事もなく学校は終わったが、帰宅した時、貢が「話がある」と言って、台所に春樹と夏也を呼んだ。


指輪を充電し、手を洗い、台所の椅子に座る。

夏也はお茶を用意した。

その間に、話は進める。


一通の手紙を、春樹の前に出した。

宛先は、赤野貢になっていたが、許可を得て中身を見ると、健康診断の紙が入っていた。

貢の会社では、年に一度、健康診断をする決まりになっている。


「お義父さん、体調悪いですか?」

「違う。まだ、二年先だが、会社に入ると健康診断がある。そこで、血液検査があるんだ。」


春樹と夏也は、そういう話かと思った。

血液検査は、血を採って、身体の状況を見る。


「春樹君の場合、このまま自分で稼ぐっていっても、やっぱり体調が優れなかった時、血液検査をする可能性がある。その時、春樹君の血に惹かれた人がいれば、複数人いる病院とはいえ春樹君が襲われる。きつめ様が襲われた時も、墓に設置した防犯カメラでチェックしたが、離れた時、襲った人は何が起きたのか分からない様子だった。」


春樹の血に惹かれる人がいない時に、血液検査をしなければならない。


「難しいですね。」


春樹は、口に手を当てながら、想像した。


自分に周り関係なく、血が皮膚から一滴でも溢れた瞬間、自分の力を強化したいと思いが重い人ほど、反応し襲ってしまう。

それも、自分の意思関係なく。


一般的に、血液検査をする朝は、食事はしてはいけない。

夏也の料理を、その時は体内に入れて置けない。

その説明を貢から聞いた夏也も、お茶をテーブルに置きながら、難しい問題だと考えていた。


「きつめさんは、どうしていたんだ?会社勤めだったんだろ?」

「わからないけど、良く行っていた病院は、この近くの個人経営の診療所です。丁度、かかりつけ医で、母さんが亡くなった時に来てくれました。」

「個人経営の診療所か。少し調べてみるよ。」


春樹は場所と診療所の名前を、貢に教えた。

きつめが利用していた所なら大丈夫だろうとは思ったが、一度、調べる。


セキュルティー会社勤めの貢だ。

診療所に営業で出向く様に資料を揃える準備をした。

貢は、頼りになる。


「本当に、僕には、勿体ないな。」


小さい声でつぶやいたつもりだったが、夏也に頭を少しはたかれた。


「そんな考えは捨てろ。親が考え、やってくれるのは、素直に受け取れ。」


貢は、スマートフォンで、資料があるか確認を同僚に確認を取っている。

そんな姿を見て、春樹は目を伏せた。

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