11「連絡」

それから、お盆も終わり、夏休みも終わった時である。

春樹は、頭を抱えていた。



「依頼が、去年より多い。」



口コミや評判は、ネット上で良く、マフラーや手袋の依頼が増えていた。

仕事が入るのはいいけど、この量は学校行きながらでは辛い。

時間が足りない。

それを聞いた夏也は、少しでも時間が取れるように、貢に働きかけた。


「義父さん、春樹、三日ほど休みできませんか?」


貢も、依頼の量を聞くと、作るのが早い春樹でも時間がないと見積もった。

休ませるとなると、誰かが一緒にいないといけない。

春樹を一人に出来ない。

夏也を休ませるのは、緑沢夫妻が判断する。


「自分が休むしかないか。」


貢は、有給を使って休む。

春樹と話をして、何時頃がいいかを聞いた。


出来れば、体育祭のある日がいいらしい。

怪我をしたくないと思った。


体育祭の担当競技が、今日、発表された。

春樹の担当は、綱引き。


「今日、練習で綱を持った時、痛かったです。血は出てなかったから大丈夫だと思うけど、血が出てくると厄介ですし、仕事に支障が出ますね。」

「綱引きの綱は、少しだけボサボサな所があるな。」


春樹と夏也の会話を聞いて、その日にし、仕事を調整した。


体育祭は、十月十日で、予備日は、十月十一日と十月十二日である。

だから、十月十日から十月十二日まで休む計画を立てた。

十月十日は、とても天気が良く、体育祭日和だ。

夏也は、お昼のお弁当だけ作った。


今度は絶対に春樹を無理させない気持ちで、タイマーをかけて、休み時間を春樹に伝える約束した貢は、朝、スマートフォンを取り出し、学校に連絡をした。

貢はとても緊張をしていたが、担任はまだ学校へと来ていなく、伝えてもらう。


「俺は、学校へ行くけど、手伝いが欲しければ連絡くれ。早退するから。」


夏也は、お昼ご飯と休憩などを、もう一度確認して、学校へ行った。


貢は、春樹の部屋でまた寝てしまうといけないと思い、春樹の部屋には入らず、居間にいた。

居間を見ると、仏壇が目に入る。

仏壇の前に、正座して座る。


「きつめ様、貴方のご子息は、本当にいい子です。しかし、無理をし、危ないと思う部分があります。私は、今では父親でいられますが、どうやって春樹君と向き合えばいいのでしょうか?」


答えてくれないが、言葉にしたら、閃いた。

見て、触れて、会話して、相手を知る。

きつめだったら、どうやるのか?を想像してみた。


「春樹君。休まないか?」


春樹の部屋へと、お茶を持ってきた。

春樹は、毛糸を操っている。

すさまじい位の集中力で、マフラーを作っているのが分かる位、長く編めていた。


貢が入ってきたのが分からないほど、集中していたから、貢は、持ってきたお茶を机に置いた。

そして、自分の手を叩いて、鳴らす。

春樹は、その音に気付き、手を止めた。


「春樹君、休むよ。」


言い方を変えた。

聞くのではなく、決定した。


「ありがとうございます。お義父さん。」


お茶を受け取り、貢に仕事の状況を伝える。

貢は、仕事の段取りが良くないのを伝えた。

スケジュールを見ると、とてもきついのが分かるが、順番を変えると余裕が出来た。


「なるほど、こうすれば、少し楽になりますね。」

「ここの依頼が、きついと思うけど、今の依頼が終われば、手を付けると良い。簡単な依頼を先にするより、きつい仕事を先にすると、終わった後、簡単な仕事だけでよく、気持ちに余裕が持てると思うぞ。」


貢は、春樹を初めて両手を広げて包んだ。

春樹の身体は、男でがっちりとしていたが、どことなく頼りない。


一方、春樹は、驚いていた。

抱きしめられるとは思わなかった。

抱きしめてくれた両手を、身体に感じると、なんだか久しぶりな感覚。

落ち着ける。


きつめと貢は違うけど、自分を思う温かさは同じなのが感じた。


春樹が休憩を終えて、仕事に戻るのを確認すると、今度はお昼ご飯の時間に声をかけると言って、部屋を出た。

夏也が帰ってくる頃には、一つの仕事が終わり、梱包作業をしていた。


郵便ポストから、春樹宛ての郵便物があり、春樹は受け取る。

中身を空けると、手紙と折り紙で作ってある花が輪っかになっている物と鶴に家、手裏剣などがいっぱい入っていた。


「はちまき、ありがとう。」とのメッセージが、まだ字を習いたてのたどたどしい字体に鉛筆で手紙に書かれていた。

それと、長い文章で書かれた、漢字が使われ、綺麗な字体で読みやすい手紙も入っていた。

一年生と六年生が書いたものだと、想像出来た。


折り紙は、この手紙を書いた人以外の人が作ったものだろうと思い、その様子を春樹は想像すると、微笑んだ。

この郵便物の中身を、夏也と貢にも見せると、とても喜んでいた。




それから、いつものように過ごした。




十二月一日である。


その日、貢はきっちりした格好をしていた。

いつもスーツで、きっちりしているが、それ以上に身なりを整えた。

春樹は制服を着ていた。


今日は、貢が春樹の学校へ出向き、担任に挨拶をする日だ。

予め、担任の予定を聞いてある。


玄関に行くと、三人で決めたルールで、玄関にて充電できる指輪のケースを置いて、家を出る時ははめて、帰って来たらケースに戻す。

充電を忘れないようにする為だ。

以前、何度か、充電を忘れた事により、充電不足で居場所がずれ混乱したからである。


指輪のケースは、正四角形で中央に浅い丸の溝がある。

溝に指輪を当てはめると、充電が出来る。

指輪を学校に装着していくのは引けた為、春樹と夏也は制服で見えない位の長さに作った紐に通しネックレス型にした。

チェーンではなく紐にしたのは、理由がある。


簡単に、充電が出来ないからだ。

紐なら、少しばかりへこんでも、充電ケースに紐を通したまま充電が出来たのである。

このネックレスを作ったのは、春樹であり、布の強度と素材、厚さを厳選した。




車で、学校へ着くと、来客用の入口に向かった。

入口には、看守が三人いた。

その一人が声をかけてきた。


約束と、車のナンバーと、生徒カードの提出を求められた。

それらを済ませると、指定の駐車ナンバーに車を停める整理券を渡される。

帰る時には、整理券を提出する。

学校を出る許可が得られるシステムだ。


この学校は、出入りに関しては厳しく、それ以外は緩い。


学校は、校門には、生徒が通る門と、来訪者が通る門がある。

今、通ってきたのは、来訪者の門だ。

裏手には、教員用の門がある。


来訪者の門からは、駐車場まで一本道である。

駐車場は、グラウンドの地下にある。

駐車場からは、階段で職員室前まで繋がっていて、直接、先生に会える。


職員室は、一階だ。


学校の間取りとしては、校門から入ると、即グラウンドがある。

グラウンドは、二つに分かれており、右にサッカーが出来るゴールが設置してあり、左には野球が出来る。

それらには、ボールが飛んでいかせないネットが張られている。

体育祭には、ゴールとネットを退かし、全部使用出来る。


その間を通ると、玄関がある。

玄関を中央にし、右が職員室や会議室、特別教室、保健室、購買、学食がある。

一階が職員室、会議室、保健室、生徒会室。

二階が購買、学食、調理室、被服室。

三階が、音楽室、理科室、美術室。

左が、各教室である。

一階が一年生、二階が二年生、三階が三年生。


校舎裏には、体育館がある。

体育館は二階建て。

一階はバドミントンとテニス、二階はバスケットとバレーが出来る。

それぞれにも、ネットが張られていた。


夏也は授業に出る為、教室に向かった。



会議室に入ると、早速、担任が待っていた。

担任は椅子から立ち上がり、出迎えると、準備されていた椅子へと案内する。

貢は、椅子に座り、春樹も隣に同じように座る。


「早速ですが、担任の青山真冬あおやままふゆです。赤野春樹君の担任を務めています。この度は、ご足労ありがとうございます。」

「あっ、こちらこそ、大変な中、予定を組んで頂きましてありがとうございます。赤野春樹の義理ですが、父の赤野貢です。」


近頃、先生の仕事時間が増えているのを、貢は知っていた。

県立流石高校は、学校内で運営されている時間以外は、先生の仕事ではない判断がされている。

運営時間は、午前八時から午後五時までである。


朝練や部活は、外部から依頼された人が来て、何かあればその人の責任となる。

生徒が犯した事件に関しては、親の責任となる。


それらの時間は、先生の責任でないのを、入試の時に入学案内を説明された。

合格した時には、入学資料の書類に同意するサイン欄があり、サインがないと入学取り消しになる。


それだけ、きっちりしている学校だ。


だが、今回は例外である。

生徒の保護者が亡くなり、親戚もいなく、天涯孤独になった生徒がいる。

そんな生徒を気にかけない先生はいない。

知らせを聞いた時は、午後五時を過ぎていたが、緊急の職員会議が開かれた。

生徒一人について真剣に話し合っていて、午後七時過ぎるまで話し合った。


結果、今も、これからも担任が全力で支えていく。

もちろん、担任だけでは難しい問題は、他の先生が助ける。

それもあるのだけれど、先生の時間以外で、赤野春樹個人が心配で、毎日連絡をくれた担任。

その担任が、今、目の前にいる。


貢と青山先生が話をしていると、いつの間にかきつめの話になり、好印象があった。

春樹は、二人のやり取りを聞いて「母さんは、愛されているな。」と確認したのである。

それからは話がしやすくなっていた。


「春樹君が一人になった時、私の家で春樹君を迎えようと思っていたのですよ。でも、春樹君には、一番の親友である緑沢夏也君がいまして、もしかしたら緑沢さんにお世話になるかもと、様子を見ていました。」


やはり、先生の中では、春樹と夏也は一緒にするのは、決定されていたようだ。


「そうでしたか。お気遣いありがとうございます。」


貢は、お礼を言う。

春樹は、ありがたさを感じた。


貢と青山先生は、話が終わり、握手をした。



会議室を出て、貢は仕事に向かう。


「気を付けて下さいね。お義父さん。」

「春樹君こそ、気を付けて帰ってこい。今日は、夏也君に渡されたメモの物を買ってから帰るから、少しだけ遅くなるよ。」

「いつも、買い物ありがとうございます。」

「車、出して欲しい時は言って欲しい。布とか、重いだろ?」


二つ、三つ話をしてから、貢を見送った。

この半年一緒に生活し、話をし、行動をしたが、貢は本当に頼りがある。


「僕には、勿体ないですね。」


感想を持った。


それに、どうして母は、この貢と結婚をしなかったのか。

黒水と結婚しなければ、母は、貢を選んだのかと、もしもを考えた。


教室へ向かう時、お腹が空いて来た。

お腹が空く事は、とっても元気な証拠。

夏也の料理が食べたいと思い、教室へと向かった。

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