10「盆2」

五日目は、夏也の両親が仕事の目途が付き、帰ってくる。


緑沢夫妻は、赤野貢に挨拶に行きたかったが、仕事が忙しくていけてない。

今回、挨拶にいけるかなと思っていた。

赤野の家に居るのを、両親に話をしていたが、その夏也が一度家へと帰る。


帰る前に、春樹と貢にお弁当を用意してからである。

この日は、春樹と貢だけで過ごした。

春樹は、仕事があるから部屋にいるが、貢は春樹の仕事を理解したかった。

邪魔にならない程度に、春樹に今日の仕事内容を聞く。


「今日は、夏休み開けるまでに仕上げる物で、体育祭で使うハチマキを作ります。小学校からの依頼で、今まで使っていたハチマキが、もうボロボロで汚れもあるし、洗濯しても綺麗にならないから、全校生徒全員分欲しいという内容です。」

「そんな依頼もあるのか。全校生徒って何人いるんだ?」

「少人数の小学校で、全校生徒六十三人です。平均、一クラス二十人程度らしいですけど、この学校は十人と聞いています。ですので、依頼を受けましたが、倍になっても頑張りますよ。全クラス一クラスで、三チームに分かれて競技をするそうです。一年生と六年生が紅組、二年生と五年生が白組、三年生と四年生が緑組となっていて、その色のハチマキは欲しいみたいです。」


春樹は、早速赤と白と緑の生地を出した。

そして、ハチマキの長さを決める。

小学一年生に合わせたハチマキの長さにするのを、メールにての打ち合わせで決めていた。

大きな机に布を広げ、測っていく。


その作業を、貢は黙って見ていると、大変そうだと思うが、楽しそうな雰囲気も伝わってきていた。

本当に手芸するのが楽しそう。

つい、その作業の音に心地よく、貢は寝てしまった。


貢が起きた時、ミシンの音がしていた。

どこまで出来上がったのかを聞くと、全ての布が切り終わり、ミシンを使って縫っていた。

それも、もうそろそろ終わる。


後は、これらを裏返して、両端を中に入れて縫って、アイロンをすれば、完成。


そこまで、説明を受けた後、貢は時間を見た。

辺りが暗くなってきていたからだ。


「午後四時半。」


午前九時に貢は春樹の部屋へきて、説明を受けた。

それからずっと休まずに、春樹は依頼された物を作成していた。


「ただいま。」


夏也が帰ってきた気配に気づくと、貢は慌てた。

夏也が指輪を置き、春樹の部屋に入ると、見た目で理解した。


「昼ご飯も食べずに、ずっと作業していたの?春樹。それに、義父さん?」


夏也は、少し怒っていた。

作ってあった弁当を食べてないではなく、休まず仕事を続けた事。

仕事をとめなかった事。


「ごめん。弁当食べるし、今から作る料理も食べるよ。」


貢はいうと、続けて


「今日は、仕事しません。食べ終わりましたら、お風呂入って洗濯して寝ます。」


春樹もいう。

春樹と貢は、本当に怖かった。


「よろしい、って、義父さんは仕事があり、この四日間は動いてくれたから、疲れて、寝てしまうのは分かるよ。でも、春樹は違うよな?」

「はい、仕事が楽しすぎて、休むのを忘れていました。」

「その間、寝てしまった義父さんに、掛布団をかけるのを忘れたのも?」

「いけない事です。」


夏也は、春樹の顎を指で持ち、自分の顔を見える形をさせた。

本当に反省している顔をしていた。


「ちゃんと休むなら、許す。」


夏也は、春樹から離れて、早速弁当を温めに台所へ行った。

春樹は、早速仕事場を整理整頓し、居間へ行く。

貢は、もう、居間にいて、食事を待っていた。


「はい、出来たよ。」


夏也は、うどんを出した。

中身は、ネギ、油揚げ、かまぼこである。

お昼ご飯用の弁当は、冷蔵庫に保管されていたから、今日中に食べれば大丈夫。

ご飯は炊飯器の中にあったから、梅干をいれたおにぎりにした。


「それと、義父さんは、これも。」


一つの袋を出した。

頭に貼る、ひんやりしたシートである。


「義父さん、少し、風邪をひき始めていると思う。頬が少しだけ赤い。だから、寝る時に貼っておいてくれ。」

「夏也君、私は大丈夫だよ。」

「でも、気を付けてくれ。」


心配をしてくれている夏也に負けた。


「わかった、張って寝るよ。それよりもうどんが冷めるから、頂くよ。」


いただきますをいい、食べ始める。

その後は、夏也に言われた行動する春樹と貢であった。





六日目

貢は、やはり、熱が少しあった。

風邪を曳いたかもしれない。


「ごめんなさい。お義父さん。僕が、布団をかけなかったから…。」


春樹は、顔が少し赤い貢を見て、反省した。


「いや、大丈夫。薬を飲んで、今日は、部屋で休んでいるからね。」


朝食を軽く食べた後、水分と薬を持って、部屋へと行った。

居間に残された春樹は、夏也と二人になる。


「夏也、お義父さん、大丈夫でしょうか?」

「大丈夫だ。義父さんの事は、俺に任せて、春樹は昨日の仕事完成させたいのだろ?今日は、義父さんも俺もいるから、安心して、時間気にせず仕事をしろ。休憩時間には、声をかけるから、その時には休む。」

「わかりました。」


夏也は、朝ごはんは簡単に何もつけていない食パンと、コーンスープ、卵焼きだ。

テーブルの真ん中に、イチゴジャム、バター、はちみつを置いた。

消化の良い物にした。


「そういえば、家はどうだったのですか?」

「ん?大変だった。仕事が終わったけど、終わってなくて、持ち込んでいて、食事の用意やら、服の洗濯やらで、家の事を全部やらされた。」


春樹は、夏也こそ、休んで欲しいと思ったが、その顔がとてもやり切った顔をしていた。

とても楽しかったらしい。

夏也が丁寧に入れた紅茶を、春樹は砂糖を入れて飲み終わった。


「ごちそうさまでした。」


春樹がいうと、夏也は食器を片付け、昼の用意をし始める。


「春樹、もうそろそろ、無くなる頃だろ?」


春樹に飴を渡す。

今回は、色んな色をしていた。


「昨日、家で作ってきた。一つの味だと、飽きがくるだろうと思って、色々な味にしてみた。感想聞かせてくれよ。」


飴を受け取ると、一つ口に入れる。

ピンク色をしていたが、味は酸っぱい。


「これって、グレープフルーツですか?」

「色と味は、結びつかない様にしたよ。」

「なんていう罠を。」

「楽しんで食べてくれ。」


春樹は、飴を食べるのが楽しみになった。

でも、一日一つの約束だから、今日、食べたのがこれだ。


「今日は、グレープフルーツの気分で仕事頑張ります。」


春樹は、夏也と話をした後、部屋へと向かい、昨日の仕事を続けた。

集中して出来た為、全部出来た。

数を数えて、間違えがないか確認し、一つ一つ丁寧に袋に入れて、赤、白、緑を分けて袋にいれた。

それらをまとめて、袋に入れて、段ボールに詰める。

いつものように手紙を添えて、送れる状態にした。


春樹は、全部終わった報告しに、貢の部屋へと入る。

貢は、元気になっていた。


「お義父さん、大丈夫ですか?」

「ああ、夏也君が全部やってくれたし、休んだからね。昨日の仕事は、全部終わったのか?」

「はい、終わりました。」


貢は、春樹を自分の元へと招いた。

近くに来た春樹の頭を何度も撫でる。


「お疲れ様。」


春樹は、とても嬉しくなった。


「それにしても、よく集中力が続くな。」

「仕事をしている時は、何も考えなくていいから、とても落ち着けます。」


春樹は、楽しそうな顔をする。

すると、貢はその顔を知っていた。

それは、数々の大会に出ていたきつめの表情に似ている。


周りの言葉は聞こえない。

時間も永遠な物で、自分だけの物。

前にある物だけが自分の世界。

もう、誰も邪魔はさせない。

この時間も世界も、支配しているのは自分だ。


そんな顔だ。


でも、そんな世界は、危険なのを貢は知っている。

上に立つ物は、打たれる。


きつめは、打たれても、打たれても、出てくるし、頑丈な意思があった。

頑丈すぎて、支えようと思っても、支えられない。

黒水ですら、やっと支えられる程度で、全部は支えきれなかった。


しかし、春樹はどうだろう。

春樹は、夏也、緑沢夫妻、担任の先生、クラスメイト達がいるが、唯一の支えであったきつめが亡くなった。

きつめの役割は、春樹にとっては土台だ。

土台が崩れると、上の飾りは全て崩れる。


だから、危険なのだ。


「春樹君、集中は程々に。」


一言だけ、注意をした。

夏也は、貢の部屋に入らず、部屋の前で訊いていた。

それから、夕食を食べ、お風呂に入り、全員早めに寝た。





七日目

お盆最終日であり、明日から貢は仕事。

春樹も、仕事。

夏也は、いつものように料理に挑戦だ。


「春樹君と夏也君は、一緒に出掛けたりしないのか?」


貢は、聞いた。


「せっかくの夏休みだ。プールとか行かないのか?」


春樹は嫌な顔をさせた。

夏也は、言い辛そうにしている春樹の代わりに説明する。


「春樹、泳げないんだよ。」

「え?」


きつめは泳ぎも得意で、とっても軽やかに泳いでいた記憶がある。

てっきり、きつめが泳ぎを教えていて、春樹も泳げると思っていた。


「春樹は、手芸に熱いれていたし、実は俺も泳ぐのは苦手で、プールはな。」

「夏也は、料理に熱いれていたから、僕達、泳ぐのは…。」


二人とも、一学期の成績を見せてもらったが、体育も好成績だった。

高校生はプールが校舎内にないし、授業自体がない。

だからの成績。


実は、小学、中学は、一学期だけ体育でプールの授業が毎回あった。

成績は、少し悪かったのである。

授業態度は良いし、取り組みも良い、だけど、泳いで結果を出すのは出来なかった。


「なんか、身体が重いっていいますか。」

「手足を動かすだけで、前に進める仕組みが分からない。」

「顔とかは水に付けられるし、目を開けられるから、怖さはないのですけど。」

「浮くのは出来るし、もしもの時の問題はないけど、泳ぐってなると……な。」


春樹と夏也の話を聞いて、そういうものなのかと思った。

貢は、人並み位には泳げるから、泳げない人の気持ちを知った。

それと同時に、春樹に謝らなければならないと思った。


貢は、きつめに出来る事は、春樹も出来ると思い込んでいた。

きつめの子だから出来ると思っていたが、それは違う。


親と子供は、繋がってはいるが、それぞれ違う人間だ。

親だからといって、子供の事を全部分かっている訳ではないし、子供だからっていって親が出来た事が出来る訳ではない。


「なんだか、すまないな。」


貢は、改めて思い直した。

親と子は、親子だけど、違う人間。

話さないと、実際は分からない。


「何を、謝っているのですか?別に、僕が泳げないのは、お義父さんのせいではないですよ。」


春樹は言うと、話を変えて、今日は、夏也のお弁当を持って、近くの公園まで散歩しようと提案した。

夏也は、その言葉を待っていたという顔をしていた。

貢も、この近所を歩いた事がない為、いい機会だと思った。

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