9「盆1」

その間に、夏休みがあった。


夏休みは、宿題が多く出た。

仕事がある春樹は、一つだけ残して、八月になる前に終わらせた。

一つ残した宿題は、英語の宿題である。

英語で日記を書くという物で、その日が来ないと出来ない。

英語の先生から英語ノート十三段を渡され足りなくなれば、職員室の前に予備を置くから、取りに来る。


「英語、苦手なんですよね。」

「何を言っている。春樹は、学年五位の人だろ。」

「テストと日記は、違います。」


春樹と夏也の成績は、二人とも学年十位以内には入っている。


テストも定期的になく、抜き打ちない。

ただ学期末に、全教科一度あるだけだ。


この学校は三学期制だから、年に三回あるだけ。

その時だけ自分の学力が分かる為、緊張感はある。

今まで自分がどの程度わかっているのか、途中で知れない。


テストは、それぞれの先生が手作りで、優しい時と厳しい時の差が激しい。

テスト作りには、先生の質を試されている。

だから、この県立流石高校は、先生の質も、生徒の質も、レベルは高いと言える。


春樹は、簡単な単語を使い、一日一ページで終わらせる。

だが、夏也は、沢山綴っていた。


「夏也は、どうしてそこまで書く事あるのですか?」

「全て、朝昼晩の献立を書いて、今日はこれだけ作りました。で終わらせている。最後の一文は、同じだからな。」

「英語の先生、読んでいてお腹空きませんか?」

「空くだろうな。」


春樹と夏也は、想像して笑った。


その時、貢が仕事から帰ってきた。

明日からお盆で、貢もこの一週間は休みだ。


「明日、お墓参りにいくぞ。」


手に、菊の花と、買い物袋を持って来ていた。

菊の花をバケツに水を入れて、玄関に置いた。

買い物袋を夏也に渡すと、中身はおはぎが作れる材料が入っていた。

ただ、あんこは豆ではなく、加工された物だ。


「今から、おはぎって作れるか?」

「任せてください!」


夏也は、早速、準備し始めた。


「そういえば、宿題はどうだ?」


進み具合を聞いて来た。

全て話をすると、英語の日記は大変だと思った。


「おはぎって、英語でなんていうんだ?それに、あんこを英語でどうやって表現をすればいいんだろうか。なんだか、春樹君も夏也君もすまないな。面倒くさい単語になる物を持って来てしまった。」

「大丈夫です。おはぎは、そのままおはぎだし、あんこも同じですから。」

「そ、そうか。そうなのか。」


貢は英語が苦手である。


春樹も夏也も、通知表を見せてもらったが、好成績であった。

春樹は仕事をしながら、学校へ通っている。

夏也は春樹と貢、両親の生活の手伝いをしながら、学校へ通っている。


勉強する時間は、少ないにも関わらず、ここまで好成績を残せるのは、学校の授業を良く聞いていて、それを自分の物にしているからだろう。

家での勉強は、宿題をしながら、今日の授業を思い出し、記憶に定着させる。


本当の所、きつめが二人に「好きな事と学校を両立させる為」の助言し、その通り実行しているだけである。


「それよりも、せっかくの夏休みですし、お義父さんと出かけたいです。」


台所から、話を聞いていた夏也も、賛成の声が届いて来た。


「出かけるにしても、今からじゃホテル取れないし…。」

「別に泊りじゃなくていいですよ。簡単に、近くの道の駅までドライブでどうですか?」

「それなら、いいかも。この辺り、まだ、分からない道があるし、春樹君と夏也君との交流も必要だ。ついでに、大きなショッピングモールがあれば、寄ろう。足りない物の買い出ししよう。」


貢は、計画を立てるといって、自分の部屋に向かった。

夏休みのこの一週間、楽しみである。





一日目は、お墓参りとなった。



お墓は、車で二時間の距離、赤野家と黒水家のお墓に来た。

ここで、きつめと貢は再会し、きつめが襲われた場所である。


「ここまで、母さんは自分の誕生日に来ていたのですね。」


春樹は、車から菊の花を持って出た。

暑かったが、黒服を着て、墓まで貢に案内された。

夏也も一緒でおはぎを入れた箱を持って来ている。


「お墓、多いんですね。」

「ここのお墓は、この土地の人達がいる。ああ、春樹君、ここが、赤野家のお墓で、隣にあるのが黒水家のお墓だ。」


春樹は、墓の前に行くと、一礼した。

墓掃除を始め、貢が教える通りにお参りした。


春樹のお参りしている姿を夏也は見ると、貢とお墓で使った道具を片付けると言って、春樹をお墓の前に残した。

春樹は、夏也と貢が見えなくなると、二つの墓の間に入って座った。


「ねえ、母さん、父さん、僕は、今、とっても幸せです。父さん、緑沢夏也っていって、料理がすごくうまい親友がいます。後、父さんも知っている白田貢さん、今は僕のお義父さんです。母さん、母さんが亡くなってから、色々大変な事があって、血の能力も厄介。でも、母さんも、こんな気分で過ごしていたと思うと、……本当に大変…。」


春樹は、涙を目にいっぱい溜めていた。

頬を伝うほどではないが、目が痛い。

顔を両手で覆い、泣いた。





しばらくして、夏也と貢が良く冷えた水と、のど飴を買ってきて戻ってきた。

春樹は、墓の前に立って待っていた。


「今日は暑いな。飲んで。」


春樹は、何も言わず水を受け取り飲むと、喉が痛みを感じた。

喉が沁みる。

買って来てくれたのど飴を口に入れると、ようやく話始めた。


「ありがとうございます。」


すると、夏也と貢は、春樹を真ん中にし、右左を囲みながら、車へと向かった。

車へ入り、春樹が落ち着いた事を確認すると、貢は春樹に聞いた。


「もう、家は残ってないけど、赤野家と黒水家の家があった前、通ってみる?」


すると、家は別に興味ないし、今日は、帰って休みたかった。

本当に墓参りだけで、一日目は済んだ。





二日目は、春樹の気持ちを見てからとなったが、いつもの春樹に戻っていた。

だから、貢の計画の通りに、ショッピングモールに来ていた。

ショッピングモールは、家から高速道路を使い一時間半の所にある。


貢は、掃除道具を買いに来ていた。

赤野家には、掃除道具が基本的な物、箒とちり取り、雑巾、スポンジがあるが、もっと掃除が楽になるグッツが欲しかった。

マンションを借りていた貢は、汚さなく生活をしていた為、掃除が好きになっていた。

掃除以外にも、防災セットと害虫駆除スプレーなども揃えておきたかった。


春樹は、仕事で使う道具や小物を揃えておきたかった。

この夏休みを過ぎると、急にマフラーや手袋の冬物を扱った依頼が多くなる。

毛糸の色を一通り揃えるのと、飾りも揃えておきたかった。

それと、内緒だが、夏也と貢にコートを作ってクリスマスにプレゼントしたいと思っていた。

その生地を買いに来た。


夏也は、食料品と調味料、それと電子レンジを新しい物に変えたかった。

きつめが使っていた電子レンジは、オーブンがない。

緑沢の家は、電子レンジもオーブンも台所のキッチンカウンターと一体になっていて、持ってこれない。

だから、貢と値段相談をして、買う。


それぞれの買い物を済ませると、家へと帰った。

荷物を広げ、収納するのと、夏也が一緒に作りたいといって餃子の皮を買って来ていた。

夕ご飯は、ホットプレートで餃子パーティーとなった。

中身は夏也が作り、餃子の皮に入れていく作業は、春樹と貢が担当した。

春樹は、少し歪んだりしていたが、貢は初めから綺麗な出来上がりだ。

皆で作った餃子。おいしかった。





三日目は、ドライブをする。

近くの道の駅についた。

イベントがやっていて、この夏休み期間中に道の駅スタンプラリーがあった。

この県の道の駅を周り、用意してあるスタンプを、スタンプラリーノートに押す。

全てのページが埋まると、どこの道の駅でもいいので、提出をする。

すると、この一年、道の駅に売っている物が、全て半額で買えるチケットがもらえる。


「県の道の駅?どれくらいあるんだ?」


備え付けてある地図を見ると、軽くこなせるものではない。

夏休みという長い期間だからこそ出来るが、お盆の間では難しい。

数が五十を超えていた。


「義父さん、後七日で回りきれます?」

「無理をすれば何とか、でも、一般的には軽い気持ちでやるのは無理。」


断念をする。

でも、この道の駅のスタンプは欲しかった為、ノートの一ページ目に押した。

そして、道の駅を堪能する。

裏手に川が流れており、下りられる。

下りて見ると、川の流れが心地よく、聞いていると落ち着いてくる。

すると、川にある石に春樹が滑った。


「いたた…。」


怪我をしていないか、血が出ていないかを聞くと、転んだだけで血は出ていない。

夏也と貢は、帰る提案をした。

車に乗る前に、夏也が春樹に確認を取る。


「本当に大丈夫か?」


春樹は、手足を動かして見せ、痛んだ場所を見せると、赤くなっているだけで血は出ていなかった。

胸をなでおろす。


「でも、今日は帰ろう。帰ってゆっくりしよう。」


そう決めて、家へと帰った。

帰ると、夏也は、昨日買った豚肉を小麦粉、卵、パン粉をつけて揚げ、とんかつを作った。

それとは別にカレーを作る。

今日の夕ご飯は、カツカレーとなった。





四日目は、昨日の事もあり、出かけなかった。


家で大掃除となった。

普段出来ない所を掃除すると、埃が出てくる。

早速、貢が厳選して買った掃除道具が役に立つ。


「春樹君、洗濯機を掃除したいけど、いいかい?」

「はい、でもどうやって?」

「洗濯機に、この洗剤を入れて回すと、一時間ほどで綺麗になるんだ。」


貢が実践してみると、洗濯機の排水ホースから流れる水が黒い。

これだけ、洗濯機の中が汚かった。


「夏也君、換気扇を掃除するなら、このスプレーおすすめ。」


夏也にスプレーを渡して、早速、使ってみると、楽に油汚れが取れた。


「これ、すごいな。」

「見つけた時、すごく嬉しかったよ。」


綺麗になっていく物や部屋、家を見ると、とてもやりがいがあった。

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