7「提案」




「春樹、俺達、結婚しないか?」




いきなりの提案に「今の状況で何をいっているのか?」と、春樹も白田も思った。


「は?」

「能力を強化出来る血の能力を持っているのは、春樹だけで子孫を残せば、春樹はその子供が十六歳になった次の日に亡くなる。だったら、子孫を残さない、相手を同性同士にすればいい。薄くなっているとはいえ、きつめさんみたいに、襲われるのも、襲うのも、可能性があるなら、守り防ぐ人が必要だ。白田さんに確認するが、襲われた時、きつめさんは、黒のスパッツみたいなの、服の下に履いてなかったか?」


白田は、記憶をたどることなく即答する。


「履いていた。」

「きっと、その時、きつめさん、血を流していたんだよ。」


女性特有の生理現象を、スラリと話す親友に尊敬をしてしまった春樹。


「母さんも良く、一か月に一度一週間は、黒いスパッツを履いていた。同じのを何着も買っていて、その期間履いているし、夏でも暑そうに履いていたから、聞いてみた。詳しく教えてくれたよ。そのおかげで、きつめさんがその期間に入った時には、家に行かず対処出来たから母に感謝だな。きつめさんが襲われたのは、襲った人が能力を強化したい気持ちが、血に惹かれたと思う。開けるなファイルには、怪我をしないのをフォントサイズを少し大きくし、太字で二重下線に、周りと違う字体で強調し、記載されていたからな。だから、春樹、俺と結婚しよう。良い事しかないぞ。」

「だからといって…。」


春樹は、顔を赤く染め、あきれた顔をさせながら、親友、緑沢夏也みどりさわなつやに反論をしようとした。


夏也は、春樹の首を片手で軽く覆った。


「それに、春樹のこの喉は、俺の料理しか通らない体になっているだろ?」


自分の顔を春樹の顔に、鼻と鼻がくっつきそうな位まで、近づけてくる。


春樹は、夏也の目を見た。

いつもの顔ではない。

まるで、獲物が大人しくなるまで、離さないと言っているようだ。


首が冷える。

けど、夏也の手は温かく、この手でいつも料理を作っている。

実に頼りがいがある手だ。


確かにそうだ。

春樹は、夏也の料理を食べていた。

夏也の料理は、母が伝えた物。

もう、この体は、母、または夏也の料理しか、おいしいと感じない。

外食したり、コンビニで買ってきたりする食料も美味しいが、自分が欲しいと思うのは、今は、夏也の料理だ。


「なあ、子孫を残す欲が、食欲に勝てるのか?挑んでやろうじゃないか!春樹。」


確かに、血が暴走しても、お腹が空いていれば動けない。

動けなければ、人を襲えないし、怪我さえしなければ襲われる心配もない。

家の中で出来る仕事を見つけたから、怪我をしても、家から出なければいい。


「夏也は、いいのですか?今まで、夏也を好きな女の子は居ましたでしょ?」

「春樹こそ、春樹を好いてくれる女の子は居ただろ?」


少し、沈黙があり。


「「でも、違うって感覚があったんだよな。」」


お互いに同じセリフを、同時に話して、ハモっていた。

顔を合わせると、笑った。


「ステータスが、親友から婚約者になるだけですね。」

「まあ、そうだな。俺のステータスも、変わるからな。お揃いだ。」


夏也は、春樹の首から手を離した。


「ってことで、白田さん。」


いきなり話を振られ、話の流れについていけない白田は返事をしていた。


「ついでに、春樹の保護者になってやってくれ。高校生だと大人扱い、世間はしてくれないんだ。その間に、大人の同意が必要な書類が出てくると思う。それを務めて欲しいし、やっぱり、この結婚を春樹側にも認めてくれる人が必要だ。俺の両親は、自分の好きな仕事をして、俺を赤野家に任せきりだったし、今更、俺に関与してこないだろ。報告はするけどな。」

「そうだね。夏也の両親は、二つ返事で了解ですね。」


夏也の両親は、本当にそういう人だ。

でも、考えた方を変えれば、夏也に好きに生きてくれて構わないと言っているようだ。


放っておかれるのはとても辛いけど、過保護なのも辛い。


それに、いつも、夏也が作る弁当を毎日持って、帰ってくると空になったお弁当箱を渡す。

それだけでも、緑沢家は、会話になっているし、愛情がある証拠だと思う。




夏也は、あくびをする。

時間を見ると午後八時を指していた。

午後四時から、結構話し込んだ。

緑沢は、食べ終わった重箱と鍋を持ち、家に帰る。


「では、俺は帰るけど、戸締りしろよ。俺の婚約者、今の所、赤野春樹。」

「しておくよ僕の婚約者、今の所、緑沢夏也。」

「は?お前が婿にくるんだろ?」

「夏也こそ、師匠の苗字受け継ぎたくないですか?」

「う!」

「勝った!」


夏也は帰っていった。

どうやら、二年後には、になるらしい。




春樹は、白田を客間に案内した。

白田も帰ると言っていたが、泊まるのを春樹が提案したのである。

理由は簡単、春樹の保護者になる準備をして欲しいからだ。


「もう、夜遅いし、白田さん…お義父さんが一緒にいてくれると助かります。」


白田は、いきなり身内扱いされ動揺した。


「だって、白田さん、母さんを好いていたみたいですし、僕の観察が正しければ、独身ですよね。それに、僕の親になるとなると、母さ…赤野きつめと結婚したってなりますよ。おめでとうございます。ようこそ、赤野貢さん。」


貢は涙を流した。

自分の気持ちが叶った気持ちになったからだ。


春樹は、客間から仕事関係を自分の部屋に移動させた。

そして、客間の押し入れから布団を出した。

よく夏也が泊まりに来ていたから、予備はある。


「今日から、ここをお義父さんの部屋にして下さい。」

「引っ越してこいと。」

「はい。今この時から、貢さんの帰る場所は、ここです。それに、明日から大変になりますよ。僕の引き取り主になる書類と、引っ越しするなら今の所の契約を解除する手続き、後、色々あるけど、一度学校へ一緒に行って報告をして貰いたいです。学校の先生…担任がとっても心配してくれていたので、安心させてあげたいです。」


貢は、自然と春樹の頭を撫でた。

いきなりの温もりで目を丸くする春樹。


先程まで、貢は自分を守る許可が欲しいと他人だったが、言葉にし、家族として意識をしただけで、本当に父からの愛情に伝わって来たからだ。


貢といえば、自然に手を出していた行動に動揺していた。


「お義父さん?」

「いや、その…きつめ様と似ているなって思って、その他人への気遣いとか。」

「お義父さん。……あっ、貢さんのご両親にも、俺、挨拶したいです。俺の祖父母になるわけですし…。」

「それは必要ないよ。私の両親も亡くなっているから。赤野家や黒水家とか関係ない亡くなり方だよ。安心してな。」


春樹が気にすると思った。


この一日で春樹が、どんな人物か分かった。


きつめと似ているけど、それ以上に受け身なのである。


とても、一人にして置けないと、感じた。


親友の緑沢夏也といい、担任といい、今日あったばかりの白田貢といい、赤野春樹と言う人物は、危なっかしいと思っていた。


血を欲しがる者に同調して、与えかねない。


それがなくても、人にしてあげたい気持ちが多すぎる。


今の仕事には必要だが、それ以外には発揮して欲しくない。


その日は、風呂に入り、眠った。

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