6「暴走」
黒水から調査を頼まれ…命令された白田は、輸血を行った病院を見つけた。
十六、七年前の記録が残っているのかを確認したが、残っていなかった。
病院のカルテ保存期間は、五年であるのを知ったからだ。
だから、違う方面から探った。
この地域から、突然、姿を消した人を探していると、聞きまくったのである。
すると、赤野きつめに血を分けたといわれる三人の内、二人と話が出来た。
白田を見て、二人は警戒した。
「確かに、僕も、白田さんが家に来た時、警戒しましたよ。」
「そんな人物を良く家にあげたね。」
春樹が心配になった。
「でも、赤ちゃんを助けてくれたお礼を言いたいと言ったら、話をしてくれたよ。」
三人が赤ちゃんに血を提供した話は、知っている人は少ない。
この地域では、当事者三人とその家族、輸血にかかわった医師や看護師位だ。
それに、個人情報になるから、話してはならなかった。
心の中で「良い事をしたな」位で留め、三人の秘密になっていた。
白田の一言で、三人とも献血しに行き自慢しなく秘密にする。
三人の一人が、誕生日を迎えるまで待つ。
優しい子達だと認識する。
そして、今もそうなのだろうと、春樹は感じた。
そんな優しい三人に、母は助けられたのかと、改めて感謝をする。
「それから、血の能力を持った一人を突き止めたのは、二人に居場所を聞いた。まあ、その一人の所に行っても、同じく警戒された。」
白田は落ち込んだ。
慰める様に、親友が作ってくれたおにぎりを白田の皿に置いた。
白田は一口食べて、ホッとした。
「二人と違ったのは、赤ちゃんを助けてくれたお礼を言いたいと言った時の反応だ。」
二人は「困っている人を助けるのは当たり前だ。」と言い、赤ちゃんの今を聞いて来た。
元気に過ごしているのを伝えると、とても喜んでいた。
しかし、血の能力の一人は、謝っていた。
「それから、全て、私は聞き出した。」
その時の様子を教えてくれた。
「知らなかったとは言え、大変な思いをさせてしまったと思っている。」
後悔している顔をしていた。
「今は、血の暴走は?」
「どうしてか、全くない。この一年ほど前から、女の人を見ても、襲いたい感覚がない。周りが同性ばかりだから、血が諦めたのかもしれない。その、血を受けた人は今、元気ですか?」
「はい、元気です。それに、今、お腹に子供が宿って…。」
そこまで話すと、眉間に皺を寄せ、目を開いた。
「それは、大変です。この血は、子供が十六歳になると、次の日に両親が亡くなるシステムです。もしも、子供を産んでしまった場合、その人は十六年後に亡くなります。」
「な!なんだと!!早く伝えに行かないと!!!」
その場を離れ、早く伝えに行こうとした貢の手を取って、追加で話した。
「もしも、子供が生まれた後、精神が混乱しても、異様に落ち着いた場合は、血の能力が移っている証拠です。それと、希望もあります。この十六年間、この世にはこの能力を持った人が二人いました。今は、魂的には三人居る事態です。歴史上、初めてです。ですので、違う状況になってくると思います。血は、子孫を残したがりますが、三人に分けたから、薄くなっていると考えます。ですので、暴走は少ないと思います。」
早口で、状況説明を簡単にしてくれた。
「わかりました。ありがとうございます。」
「いえ、血の意思に負けずにいられるよう、祈っています。」
続けて話をする。
「それから、連絡先を交換し、私が報告をしに黒水の家へと行くと、そこにはもう誰もいなかった。家は、売りに出ていた。近所の人に理由を聞くと、黒水の両親と秋寺が亡くなった事と、きつめ様が引っ越した事を教えてくれた。だから、私は待った。毎日、毎日、何年も、赤野家と黒水家のお墓に通って。そして、ついに、来た。そう、きつめ様にお会いする事が出来たのだ!」
白田は、興奮をしていた。
その状況と白田の立場を想像すると、気持ちは分かる。
「きつめ様は、首や袖、裾にピンクのフリルを付けた白いワンピースを着ていらっしゃった。」
その一言で、春樹は反応する。
「本当に、その服がきつめ様に似合っておられ…。」
「待って下さい!」
「ん?」
「その服についていたフリルって…。」
といいながら、自分の部屋に行き、戻ってきた春樹。
持っていたフリルを白田に見せた。
「これと同じでは?」
白田は、記憶が重なる。
「それ、僕が母さんに作った服です。」
作ったのは、小学校を卒業し、中学に入学する間の休み期間だ。
つまり、白田は十二年も血の情報を伝える為に、待ったのか。
「でも、母さんの部屋から、その服が見つからなかったですけど………まさか!」
春樹は白田を見ると、推理通りだといい、その時の状況を伝えた。
墓参りに来ていたきつめは、白田を見ると元気に言葉をかけた。
「元気そうね。貢。今、何をしているの?」
「仕事なら、セキュルティー会社に勤めているよ。このお墓を管理している人が、墓を荒らす人がいるから、監視カメラを導入して定期的に不具合がないかチェックしに来ている。」
「もしかして見ていた?」
「偶然です。」
本当は、毎日、カメラで確認し、きつめを探していたが、冷静に対応した。
心の中では、会えて嬉しい気持ちでいっぱいで、体中で表現をしたかったのだが、子供っぽいと思われたくなかった。
それに、なぜ、墓にて待ったのか。
きつめは、両親と好きな人が亡くなり、その人達の墓参りをしない性格ではない。
それに、赤野の家は、解体していて無いし、黒水の家は売りに出され、違う人が住んでいる。
家には寄り付かないだろう。
だから、赤野家と黒水家がある墓にて、現れるのではと待ったのだ。
実際に、そのお墓を管理している人から、依頼が来た時には、自分が担当をするといい、積極的に仕事を引き受けたのである。
「毎年、自分の誕生日、四月十五日にお参りにきていたのよ。でも、今回は、嬉しい事があって、早目に来てしまったの。見て、この服、息子が作ったの。すごいでしょ。この服を、両親と秋寺に見てもらいたかったから、気分が乗っちゃってね。」
「車をかっ飛ばしてきたと。気を付けてな。」
「ちゃんと、教習所で習った通りに運転しているわよ。」
「そうだと思うけど、ゲームや駆動四駆の操縦じゃないんだから、慎重に。息子さん乗せている時は、発揮しないでくれよ。」
「分かっているって。」
二つ・三つ話をした後、白田はファイルをきつめに渡した。
ファイルの内容は、先ほど、春樹に渡そうとしたファイルだ。
いつでも渡せる状態にしたかったから、毎日持ち歩いていた。
きつめは、ファイルを開いて読むと、半分は想像通りだと言った。
ただ、自分の身体に流れている血に何かあるのだろうと思っていたが、能力までは知らなかった。
真実を知ったきつめは、今、息子が十二歳で、十六歳まで、後、四年。
自分の命も後四年だと悟った。
「四年か。うん。何とか維持出来る。」
何か考えている。
その時である。
墓から蘇ったと思う位の形相をした男が一人、きつめに襲い掛かってきた。
急に、赤野家と黒水家の正面にある墓の影から出てきて、きつめの腕を掴んできたのである。
「血が欲しい。」
その一言である。
白田は、きつめを遠ざける。
その人物から逃げたが、襲われた時にきつめは腕から手を離すのに、急に動かしたものだから怪我をした。
血が白い服に沁みついている。
「きつめ様!」
「大丈夫、それよりも私の血を欲しがっていた。」
白田は、この墓から徒歩三分の所に白田が借りているマンションがある。
そこまで、きつめと走り移動した。
白田の住んでいる所は、セキュルティーが確りしているマンションだが、家賃は高くない。
マンションの入口には、パスワードと部屋番号を入力する機械がある。
機械に入力すると、入口の扉が開く。
扉が開くと、四角い部屋があり、入ると自動的に上へと移動した。
自動で部屋のある階層まで移動する。
部屋は、ワンフロワーで、台所も居間も部屋も一緒の空間。
トイレと風呂は、別々の部屋になっていたが、それだけの部屋だ。
一応、風呂には脱衣場がある。
脱衣場に、白田はきつめを誘導し、自分の服を出した。
「私の服で悪いが…。」
出した時、きつめは裂かれた所を見て、少し泣いていた。
「息子が作ってくれた服、壊してしまったし、汚してしまった。」
きつめは、着替えた後、お茶を出され飲む。
さすが、小学生の頃から一緒にいない。
こんな時のきつめが欲しい物がわかった。
落ち着かせる為に、白田はきつめの息子について聞く。
手芸が得意で、それを仕事にしたいと言っていると、白田が知ったのは、この時だ。
ワンピースを見ると、とても綺麗に作ってある。
縫い目が、真っ直ぐで、裏地も付いていて、春に着る服とはいえ、薄くないし、厚くもない、洗濯してもシワが付かないと思われる、丁度良い生地を選んでいる。
とても小学六年生、中学一年生の年齢で作れる代物ではない。
才能は開花させてこそだと、貢は思い、きつめに一言呟いた。
「手芸のホームページを作らせたら、どうだろう?」
きつめが、その後、どういう風に伝えたかは、分からなかったが、それを実行してくれたのは、依頼した白田は嬉しくなり、それをきっかけにこうして春樹と話が出来たので、言って良かったと思った。
大切にしてくれていたのは嬉しかったが、壊れてしまって落ち込んでいた春樹を、白田は見ると言い辛そうに言った。
「その時の…服は、私が…その…保管している。」
すると、春樹は顔が明るくなった。
「服、貢が持っていて。こんな風になったのを見ると、きっと、悲しむと思うの。」
その一言で、貢が持っていた。
「本当ですか?」
「もし、よかったら、今度、もってこようか?」
「是非!」
何が悲しむだ。
目の前に無いのが、悲しいのであって、この春樹の顔は手直しが出来る喜びだ。
きつめは、春樹を見過ぎているから、小さな変化に気づかない。
この感情は、親子間ではよくある。
春樹が今まで不安いっぱいであった顔が、明るくなったのを見て、親友は一言。
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