5「白田」

白田は自分の事から話し始めた。


きつめがいた地域に、両親の仕事で転校して来た。

慣れない土地を慣れさせてくれたのが、同じクラスで、隣の席になったきつめだった。

親切にしてくれて、一緒に学校や地域を案内してくれて、慣れさせてくれた。

白田が、きつめの後をついて回ったというのが正しい。


転校生を独り占めしている図だったが、周りはきつめに対する信頼度が高く、邪魔をしていけないと思った。


思わされていたが正しい。


きつめが色々な大会に出場した時にも、必ず同伴し、優勝すれば一緒に喜んだ。

バレンタインや花見、クリスマスなどの各イベントも、一緒に過ごした。

白田は、きつめが好きで、いつも応援をしたし、喜怒哀楽も共にした。


きつめが十六歳の誕生日に、告白をしようとした時、逆に告白された。



そう





「私の許嫁、黒水秋寺くろみずあきじ。十八歳。今日、入籍するの。と。」





そこまで聞いた自分は、白田の気持ちがとても伝わってきた。


「母さん……。」

「もう、あの時の絶望感は、君にもわかるか?」

「そうですね。白田さんの立場を考えると、分かります。」


白田は、自分が知りたい情報も教えてくれている。


「黒水は、きつめ様の家を守る役目があった。きつめ様のお家は裕福であり、財産も沢山あった。黒水は、裕福ではなく、きつめ様の家から援助されないと生活が出来ない。援助の条件が、きつめ様と結婚をすること。それが決まったのは、きつめ様が生まれて、直ぐだった。」


話を聞いていくと、母の両親は嫌な人だと感じた。

自分からすると、祖父母に当たるから、とても居心地良くない。

白田も言い辛そうにしていた。


「えーと、父…いや、黒水秋寺の気持ちはどうだったのですか?」

「逆らえなかったらしい。だが、その黒水の気持ちを受け取り、癒したのが、きつめ様だ。きつめ様が、優しく接するから、次第に黒水もきつめ様を好きになっていった。」


きつめは、黒水の立場を理解していたし、両親の気持ちも理解していた。

二つの間で、いかにどうやったらいい方向へいけるのか?を考え、行動し、言葉を選んで、自分の立ち振る舞いを決めていた。


「きつめ様のご両親が、黒水家と繋がりたがったのかは、わかる。きつめ様は、生まれてから直ぐに血液を交換……輸血をしている。その輸血が今の君…、赤野春樹あかのはるき君に起こるんだ。」

「輸血。」


春樹は、自分の手をじっと見た。

皮膚から見える血管の中に、母、きつめと一緒の能力があるのかと疑ったが、開けるなファイルにも触れられていたから、真実を受け止めるしかなかった。

開けるなファイルに書かれていた内容を思い出した。



「……私が、生まれた時に輸血しないと危険な状態だった。その土地では、生まれて直ぐの子に輸血をするのは前例がなかった位、医療が発達していなかった。輸血しようにも、違う土地に行って、知識がある医者に頼るしかなかった。頼った土地にある病院に連絡をすると、直ぐに輸血の準備をしてくれた。輸血に参加してくれたのは、当時十六歳を迎えて献血に来ていた男の子三人。調べてみると、三人とも私と血の相性が良かった。直ぐに輸血の準備が始まった。…でしょうか。」


言葉にしてみると、生まれてから直ぐの出来事だと感じた。

両親にとっては、生まれた子が命の危機で、気が気でない。


「きつめ様が助かったとしても、知らない土地の医療がどれだけ信用出来るかわからないし、きつめ様に何かあっても守ってくれる存在が欲しかった。きつめ様が生まれる前から、黒水家を調べていて、狙ってはいたんだろう。」


白田は、複雑な顔をしていた。

赤野家と黒水家の事情を知っているからこそ。


しかし、それとは別に自分が好きになった相手から、急に他の人と結婚すると告げられた時の気持ちは、違うのである。

だから、黒水の事は大変だと思っても、嫌いだ。


白田は続きを話し始める。




血の能力を受け継ぐ話は、血を提供してくれた三人の内、一人の家系が持っていた。


十六歳を迎えた日の夜に、能力の話をするのが掟。

十六歳になって能力は目覚めるのだが、もし、能力が目覚めなければ知る必要のない情報だ。

この能力は、当事者じゃないと知ってはいけないからだ。


その話を知らなかった血を提供してくれた一人は、誕生日の朝に献血しに病院に来ていた。

三人が十六歳になったら、一緒に献血しに行こうと、友達と約束をしていたのである。

三人の中で一番遅い、血の能力を持った者が十六歳を迎えた日だった。

その時、病院に献血に来ていたのと、同時に輸血しなければ助からない命があると知った三人は小さな命を助けられると思い、志願したのである。


直ぐにでも輸血をしなければ助からない状況で、適任者がいる場。

三人の保護者に許可を取る時間もなかった。

準備を進めて、血を提供したのである。


提供をした相手は、赤野きつめ。




春樹は複雑な気分になった。

助けてくれたのは嬉しいが、そんな能力を授かったのは嬉しくない。

だけど、提供してくれた人は、自分の血がそんな能力を持っているとは知らなかった。

献血をしてくれる、優しい心の持ち主である。

もし、能力を知っていたら、どうなっていたのか?

友達との約束を破るか、それでも献血をするか、とても迷ったに違いない。


「で、その提供してくれた人は、今は?」

「親族全て亡くなっている。亡くなった理由は、分かるだろ?」

「あっ。」


分かっている。

今、自分が置かれている状態だ。


子供が十六歳を迎えた次の日に、親は亡くなるシステム。


だから、血の能力を引き継げるのは、一人だけ。

今は、赤野春樹だ。

きつめが生きていた時は、血の能力を持った人が二人いた。

例外であったが、何もなかった。


「親はって、両親なのですか?」

「人は、二つの遺伝子を持っているだろ?その遺伝子と繋がっている者が亡くなるんだ。血の能力の目覚めと共に。」


親友は、春樹の手を握った。

見た目受け入れているが、実際はとても不安になっている。

そう見えたからだ。


「大丈夫か?」

「大丈夫です。」


白田は続きを話す。


「提供してくれた人は、子孫を残さずに亡くなった。理由は、仕事での事故だ。」


提供してくれた人は、血を与えてから家に帰った。

重苦しい雰囲気で両親が迎えた。

てっきり、人の命を救って、明るく迎えてくれて、褒めてくれると思っていた。

血の能力について説明された時、後悔した。



次の日に両親が亡くなる。

とても一人では抱えきれないほどの絶望。

血の能力が無くなってはいけないから、子孫を残したいと意思が強くなっていく。

クラスの女子が、襲いたい気持ちが強くなっていた。


それではいけないと理性を持ち、高校を中退し、家の財産を持って、この地域を離れ、周りには男ばかりの漁師になった。

しかも、半年は海の上という過酷な仕事に就いた。


春樹は自分に流れている血を見て、ゾッとする。

今は、クラスの女子が普通に思えても、襲いたい気持ちへと変化するのか。


「白田さんは、この情報をどこで知ったのですか?」


白田は、とても良く知っていた。


「黒水に、調査してこいと、言われた。」

「は?」


きつめが十六歳の誕生日を迎えた次の日、きつめの両親が亡くなった。

きつめはショックを隠せなかったが、傍で支えたのが黒水だ。

黒水がきつめに、両親が残した仕事と財産を全て整理が先だと言った。

もちろん、黒水も手伝った。


終わり次第、自分の家へと招いた。

籍を入れた時、黒水が赤野の姓に変わった直後だった為、黒水秋寺は赤野秋寺となっていて、住む家は、黒水の家という状況だ。


黒水家は、赤野家が用意した家に住んでいた。

援助される前は、安いアパートを使用していた。

一戸建ての家に暮らせるのは、とても助かった。

それに今の黒水家は、援助なしでも暮らしていける財産がある。

紹介してもらった仕事が、自分の能力ととても合っていて、楽しく働けているのである。


しかし、助けてもらった以上、秋寺ときつめの結婚は確定であったし、秋寺の両親はきつめを気に入っていた。

きつめが、気に入ってもらえる態度をしていたのもあるが、それだけではない。


「今思うと、きつめ様は血に支配され始めていたと思う。血は、能力が無くなって貰っては困るから、子孫を残したがる。きつめ様を好いてくれる人がいれば、その人との邪魔は出来なくし、周りの意識を操作する。私が、小学生や中学生の時、周りが空気を読んでくれたのは、血がそうさせたのだろう。」


白田は続きを話す。


「黒水に調査してこいと言われたが、私は高校二年生だったし、学校へ通いながら休日に出向く程度だ。黒水は、自動車の免許も取っていて、高校も卒業した後で、自由に動けると思ったのだが、黒水自身が動けなかった。すでに、きつめ様のお腹には春樹君が宿っていたからだ。十六歳の誕生日を迎え、数々の手続き処理と生活が落ち着くまで、一年かかったらしい。この時は、高校一年だったが、きつめ様は自分の身体が落ち着かないほどになっていたから、高校を辞めている。十七歳の誕生日を迎えた時、身体が自分の意思関係なく、黒水に襲い掛かったらしい。」

「ああ…、その後はわかります。」

「すまない。この話は、後二年、早かったな。」


白田は、春樹の年齢を再確認して、詳しくは話さなかったが、両親のあれこれは聞きたくないだろう。


だが、春樹は思った。


黒水秋寺は、この白田貢を本当に信頼している。


自分達に起こった体験を、他人に話す位だ。

それを感じた春樹は、白田貢は信頼して良い人物だと認識した。

なんせ、自分の両親が信頼した人だ。


「だが、春樹君が生まれてから、次の日に黒水は亡くなった。」

「え?」

「それだけではない。黒水の両親も亡くなった。当時、黒水の家には、きつめ様は病院で産後経過を見る為と、赤ちゃんの育て方について学ぶ為、入院していたからいなかった。発見された経路は、きつめ様が黒水に連絡しても出なかったから、不安を持ち、病院の看護師に相談をした。その日は、嫌に外で飛んでいる鳥が多く発見されていて、異様な空の様子だったと、ニュースでも伝えられる位だった。看護師は直ぐに、自分の車で変わりに確認に行ってくれた。チャイムを鳴らしても出てこなかったから、外から家の中を見ると、倒れている三人を見つけた。」


看護師が理由を話し、警察が入り、鑑識や死亡解剖の結果、一酸化炭素中毒と判断された。

部屋に入るとガスが充満していた。

お湯を沸かしている時に、台所のガスが漏れて、順番に倒れたと想像された。

しかし、今思えば、血の能力が移ったから、口封じの為だろう。


「きつめ様は、また混乱をしたらしい。けど、生まれたばかりの春樹君を見て、落ち着きを取り戻し、きっちり体調を戻して、黒水の家に戻り、葬儀や書類を全て片付けた後、黒水の家を売却し、赤野家と黒水家の財産を持って、生まれ育った地域から引っ越した。引っ越した先が、この家だな。」


白田は、家をぐるりと見る。

とても綺麗に大切に使われているのを見て、ここがきつめ様の安息の地なのを感じた。


それに、春樹君を見ると、確かに落ち着ける。

血の能力が操作しているのだろうと思ったが、それだけではない。

春樹の傍は、こうやって話をしていても、心地よい。


「それだと、いつ、母さんは血の能力を知ったのですか?」


白田は、そこについても話をした。

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