4「引継」

白田は、自分の言う通りにしてくれた。

お茶とお菓子を出して、落ち着いてもらう。

お茶といっても、ペットボトルから注いた物で、お菓子は小袋毎に販売されている市販の物だ。


「落ち着きましたか?」

「はい。」


白田は、一度、自分を見た。

自分は、営業用の顔で答え、微笑む。


「えーと、母の葬儀は別に気にしないで下さい。私としては、家族葬で済ませたかったですし、他にも助けてくれる人はいました。それよりも、あなた…白田さんは、母とお知り合いだと思いますが、もしかしたら……血が関係しています?」


自分でも驚くほど、スラスラと出た言葉だった。

血の事、言ってもいいのか?と思ったが、白田が何を目的で自分の前に来たのかを知りたかった。

今までの情報の中で、それっぽい単語を出した。


それに、この白田って人は、母が言っていた血を欲しがる人かもしれない。


考えたら、家にあげても良かったのかと思ったが、近所迷惑になるよりはマシだと考えを改めた。

それに、玄関を開ける時に確認をしなかった自分にも落ち度はある。

白田の様子を見ると、顔が明らかに驚きを隠せてなかった。


「どうして、その事を……。」


白田は、言葉を震わせながら聞く。

自分は、先日、開けるなファイルを印刷した紙を見せた。

紙を見ると、納得した顔になった。


「こうやって残されていたのですね。きつめ様は。」


とても、大切な物を見る顔になっていた。


印刷物で、刷れば何部でも出来るけれど、渡した紙を愛おしく、指で文字をやさしく撫でながら、何回も何回も読んでいた。




読み終わったのか、紙を両手で丁寧に持ち、自分に返そうとする白田。

その状況を見て、自分は仕事用の袋に入れて、白田に渡した。

受け取れないと態度を示したが、それでも、自分は白田に持って貰いたいと思った。


「母を好いていてくれていたみたいだし、白田さんがお持ち下さい。」


白田は、両手で受け取ると、持って来ていたカバンに入れた。

カバンから入れ替えるみたいに、封筒を出した。

封筒から、ファイルを一冊出して、差し出してきた。


「ここには、きつめ様の能力について書かれていますが、この様に残され伝えていたのなら、必要ありませんね。今、全て書かれていたのを確認しました。」


白田の態度を見ると、自分は、普段の自分で対応する。


「母さんの能力、血を一滴でも与えた人物は、能力を強化させる。だけど、与えられた者は、引き換えに、寿命が縮まり半年後に亡くなる。そんな血の能力は、僕にも引き継がれていて、大変になるから、白田さんが来てくれた。」

「本当に飲み込みが早く、想像力も観察眼も推理力も鋭いですね。」

「仕事に必要ですからね。」

「確かに。」

「白田さんに、僕、仕事の話ししましたか?」


白田は自分のスマートフォンを取り出し、操作した。

その画面を、自分に見せてくると、納得した。


「服の裾を直す依頼者は、白田さんでしたか。」


確かにメールした後、白田が来た。

依頼者の名前は、黒田明くろたあきらだった。


「で、白田さんは、この資料を届けに来ただけではない。」

「はい。」


白田は、立ち上がり、自分の傍に来た。

正面を向く形で顔を合わせられる高さになり、自分の右手を取り、改めて膝を曲げて座った。


「これから、あなた様の血を狙う者からお守りするべく、私、白田貢は参りました。傍にいる許可を下さい。」

「僕としては、許可してあげたいですが、。」


自分は、白田の顔よりも上を見た。

上ってよりも、後ろ。

白田も同じく後ろを見ると、そこには、四角い箱と鍋を持った男が居た。

自分の親友である。


「チャイム鳴らしたけど出なかったから、入らせて貰った。見慣れない靴があったから、客かなって思ったけど、何をしているんだ?」

「お帰りなさい。夕食持ってきてくれたのでしょ?この人は、白田貢、母の能力を知る人で、これから僕の血を狙ってくる者から守ってくれる為に来たって言っていました。実害はないですし、話をしてみましたが、母の事、好いていてくれたみたいだから、許可しました。」

「だからといって、俺、鍵かけろって言ったよな?」


親友は、自分の眉間を、人差し指で付いた。


「すみませんって、今度からはしますよ。」


親友は、その一言で台所へと向かった。

鍋に熱を通す為だ。


「白田さん、今の人、僕の親友です。料理が得意で、大会で何回も優勝をしている経歴を持っています。毎日、僕に食事作ってくれに来てくれるほど、とても気にしてくれる人です。今でも、僕の言葉で納得はしてくれたと思いますが、すごく警戒していると思います。」

「はぁ。」


とても、不安そうな表情をする白田。

その白田に、先ほど仕上がった服を差し出した。


「この丈でよろしかったでしょうか?」


営業用の顔で白田に接する。


「切り替え早いですね。」

「母の賜物です。」


白田は、依頼した服を受け取った。

開けてみると、本当に丁寧で、丁度良い長さに仕上がっている。


「ぴったりです。」

「ありがとうございます。」


白田は、お金を払い、自分は会計を済ませた。


「きつめ様の言う通り、すごい技術だ。あの、きつめ様に手を合わせたいけど、いいですか?」

「いいですよ。」


客間から、台所と居間が一緒になっている部屋に来た。


仏間なんて言える部屋がない。

お供えするにも便利な為、居間スペースに、小さい仏壇を買い置いたのである。

小さいといっても、仏壇は五万から六万した。

けど、自分の稼いだお金で買えたのが、自慢だ。


仏壇の前に、白田はカバンからお饅頭を出して飾り、手を合わせた。

とても丁寧にするので、白田の作法に愛おしい気持ちを感じた。


この気持ちは何だろう?と、自分は思ったが、口が先に発していた。


「白田さん、貴方は、俺の父親を知っていますか?」


その一言で、白田は目を開いた。

自分がどうして父の事を訊いたのか、分からなかった。

白田が本当に丁寧に、優しく、愛おしく、母に接するから、母と仲が良かったのではないかと思った。


仲が良いとなると、父も知っている。

父を知りたいと思っている顔をしている自分を、親友は感じ取り、白田に、丁寧に茶葉からお茶を入れた。


「白田さん、作ってきた夕食、ご一緒しませんか?」

「えっ、遠慮…。」

「ご一緒、したいですよね?」

「だから、もう、帰りますから…。」

!」

「…は、はい。」


丁寧な誘いにより、親友が作ってきた夕食を、三人で食べる。



自分が、ちゃぶ台の真ん中に、夕食が入った箱を置き、人数分皿とお椀と箸を出した。


親友は、鍋に作ってきた汁物を温め、お椀に分けた。

おかずは、肉系・野菜系・箸休めが出来る漬物など、揃っていた。

それとおにぎりがあり、中身は鮭と昆布である。

鍋の中は、お味噌汁で、豆腐とネギの二種類だ。

とてもおいしそうである。


一口、白田は食べると、とても感動していた。


「おいしい……なんだか、きつめ様の味に似ている。」

「!」


今度は、親友が感動していた。

きつめから習っていたとはいえ、味がまだ出せてないと思っていたが、白田の一言で嬉しかった。

親友の反応を見て、白田は、微笑んだ。


「そうか、君は、きつめ様を受け継いでいるのか。」


箸を動かすのをやめて、白田は親友を見る。

親友は、少し泣きそうになっていた。

自分は、もう一度、白田に聞いた。


「で?父の話、聞かせて下さい。」

「この、空気でそれ訊くか?」

「母さんは絶対に話してくれなかったから、とっても訊きたいです。」


自分は、白田に視線を向けた。


「まあ、今だからこそいいだろう。亡くなったのは、十六年前だ。」


白田は、話し始めたが、表情はとても険しかった。


「私にとっては、嫌な人だったよ。」


とのセリフから、語られた話は、とても面白かった。

いかに、父が白田から嫌われていたかを知った。

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