3「客人」

自分の通う県立流石さすが高校は、この地域に一つしかない高校で、大体の子供は通っている。


定員も、この地域の子供の人数に合わせているからこそ、落ちる事が少ない。

だが、外部からの子供が受験しに来る時期もある。

そんな時期もあるからこそ、真剣に勉強をして受験するのである。

自分が受験した時は、外部生は居なく、ほとんど中学からの持ち上がりだ。

他の地域に受験する子供も居るから、人数は少し減っている。


一般的な高校だが、変わっているシステムとしては、校門に入る為には生徒カードが必要だ。

生徒カードを校門に備え付けてある機械にタッチすると、登校したのが記録される。

職員用の出入り口にも同じシステムがあり、同じに記録される。

もちろん、学校を出る時も同じに、機械にカードをタッチするシステムだ。

このシステムにより、何時、学校に来ていて、出て行ったのかが分かる。


カードを誰かに渡して、出席日数を誤魔化す生徒もいたが、直ぐに分かる。

カードには、指紋を照合する設定がされてある。

見た目は、流石高校のエンブレムがあり、その下に丁度親指が掴む所に四角い黒色のパネルがあった。

黒色のパネルに親指が来る様に掴み、カードを機械にタッチする。

指紋とカードが、二つとも情報が合っていれば記録される。

間違っていれば、警報が鳴る。


それに、許可の無い人が入ろうとすれば、上からしかないが、防犯カメラが数台、狙っている。


この学校のシステムは、入学したての頃から今までは面倒で、そんなに警備を万全にするほど侵入者なんて現れないと思っていたが、今の自分からすると、このシステムはとても助かる。

学校の中に居れば、自分の血を狙っている人は入れないからだ。



ちなみに、自分が、この一週間休んでいた日も、記録で残っている。




その校門で、担任が待っていた。

昨日、午後六時に担任から電話がかかってきた時、半日だけ登校する情報を伝えていた。

担任が、自分を登校する生徒の中から見つけると、駆け寄ってきた。


「おはよう、顔色は良くない様だが、大丈夫か?」


顔色を見てきた。

担任とは、同じ背丈で、顔も普通に立っていて合う。

自分は、身長、百六十センチ位で、男子の中では小柄だと認識している。


「はい、これからの事を考えていましたから…でも、大丈夫だと思います。」

「そうか、手伝いが欲しい時は、言ってな。」

「気にしてくれるだけでも、嬉しいです。」


担任と少し会話をして、別れ、校門の機械にタッチしてから教室に親友と向かう。


親友は、小学生の頃からクラスが分かれてない。

自分は生まれた時から、母と二人暮らし。

親友は、両親は共働きで、自分の母と仲良し。

この情報は、先生にも伝わっていたと思われる。

だから、先生の会議で、二人は一緒が良いと判断がされていたのかもしれない。


教室に入ると、クラスメイト達が、心配してくれた。

とても多くの言葉をかけてくれたから、とても助けられる。


「大丈夫です。これからは、登校出来ます。」


すると、「手伝い必要だったら言ってね。」「無理するなよ。」というセリフも聞こえてきた。

本当に、ありがたいし、心が温かくなった。



その日は、昼まで授業を受けて、帰る。

本来なら、午後四時まで授業はあるが、開けるなファイルを読み返したかったのと、仕事が溜まっている。


「帰るのか?」


親友は、弁当を渡しながら確認した。


「帰ります。ありがとうございます。」

「今日も、夕ご飯届けに行くから、家で待っていろよ。鍵、締めろよ。」

「言われなくても…待っています。」


自分は、心配してくれる親友と話をして、上履きと歯磨きセットを持って帰った。

上履きは良いとしても、歯磨きセットは口に入れるには辛い状況だ。

帰ったら、先に片付けなければならないと思った。

帰り道にコンビニに寄り、コンビニ限定デザートを購入して、家に着いた。





家に着いた時、一台の車が家の前に停まった。

車は、配達業者だ。

車から、人が出てきた。


「あっ、ここの家の人ですか?荷物、あります。」


自分に宛先と名前を確認して、渡した。

自分は、サインをして受け取った。


「それと申し訳ないんですが、この辺り、届ける荷物がありますので、ここに少しだけ車を停めさせて貰えますか?」

「はい、家の前は少しだけ余裕がありますので、どうぞ。この辺り、駐車場少ないですからね。荷物ありがとうございます。道中お気をつけて。」


家に帰り、歯ブラシを処分した後、荷物を見ると、自分宛で、名前は知っていた。

そういえば、依頼者がこんな名前をしていたと思う。

確か、ぬいぐるみの服を作る依頼だったと記憶している。


一度、自分の部屋に丁寧に置くと、母の遺品整理を始める。

本当に細かに物を仕分けして、整理整頓がしてあったから、仕分けるに面倒ではなかった。

一番処分するのに多いのは、服だ。

だが、母は器用に着まわしていたから、数が少ない。

自治体が決めた古着を出す袋に丁寧に畳んで詰めて行くが、二袋で終わった。


服を作るのが好きな自分は、一度、母へ服を作ってプレゼントしたのを思い出した。

その服を探しているが、見つからない。


「母さん、あの服、好きじゃなかった?」


捨てられたのか、と少しだけ寂しくなった。

瞬間、目から涙が出てきた。


「あれ?」


拭いても、拭いても、あふれてくる涙。

止まらず、声を上げて、身体を両手で覆い、泣いた。








少し経ち、目を覚ました。

泣いて、疲れて、寝てしまっていた。

壁に備え付けてある時計を見ると、丁度、午後三時を指している。

帰ってきてから、二時間経っていた。


「そういえば、お弁当。」


お腹が、空いた事を知らせてくれた。

コンビニで買ってきたデザートを開け、冷蔵庫からペットボトルのお茶を用意して、お弁当を食べる。


おいしい。


お腹が膨れてくると、溜まっている仕事のメールを確認していた。

沢山依頼が入ってきていたが、急ぎの仕事が二件ある。


先程届いたぬいぐるみの服を作って欲しいと、服の袖を短くして欲しいとの依頼だ。

ぬいぐるみは、「退院する友達に祝いとしてあげたい」で、時間がない。

届いた箱を開けると、ぬいぐるみとどんな風な服が良いともイラストを付けられている。

それらを素に、制作する。


服の袖は、簡単な物だったが、期間が明日であり、服だけ、昨日、送られてきた。

だから、今日中に服の直しだけでもしてしまいたかった。

この後の仕事になった。


母の遺品整理は、目途が付いたから、ゆっくりでいい。

それよりも、生きている自分の事をやらなくてはと、意識を変えた。


母が亡くなってから、忙しくて、泣く暇がなかった。

泣いた事で、少しは心に余裕が持てたかもしれない。




遅い昼食を食べ終わった後、手を洗い、服の直しに取り掛かった。

一時間もすれば出来上がり、アイロンをかけた後、袋に入れて手紙を添えた。

一応、完成した時には、メールを送信する。


メールを送信して、十分後。

家のチャイムが鳴った。


時間的に、学校が終わっている頃だ。

親友が、お弁当を届けに来てくれる時間と思い、どんな弁当か楽しみな気持ちのまま、誰かを確認せずに玄関の扉を開けた。


「はい………はい?」


そこにいたのは、身長が百八十センチ位の男で、黒服を着ていた。

髪はオールバックで、細長い形の眼鏡をかけていた。

自分は、その男を上から下、下から上にと見てから、少し警戒した。


「私、こういうものですが…。」


男は、服の内ポケットから名刺を出してきた。

名刺を丁寧に受け取ると、そこに書かれていたのは「白田貢しろたみつぐ」という名前が見える。


「あの、白田?さんですね。どんなご用件でしょうか?」


怪しげに疑い、警戒心を持ち、いつでも逃げられる様、逃走ルートと、何かされた時の対処法として武器を部屋の中を思い出し、頭の中で計算をしていた。

すると、白田は自分の前で、膝を折り曲げて頭を下げた。


「申し訳ありませんでした。」


いきなり謝ってきたのである。

何の事か分からないままの自分は、思考停止していた。


「葬儀に出られませんでした。あんなにお世話になったのに…。」

「ストップ!」


長い話になるかもしれないと思った。

それに、玄関で大きな男がこんな格好をして謝られるのは、近所迷惑になりかねない。

とりあえず、仕事で使っている客間に招いた。

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