第2話 『僕らの冒険』-工場見学1-

ここからはリウィウスに替わり俺アウグストが記す。

この冒険はオヤジの工場見学から始まったと言えるだろう。


 俺は世界中に散らばった覚者様の八人の子供である「八つの子」の末裔であり、右手の手のひらには車輪のような紋章が幼い頃からあった。また俺は人の心を読むことができた。俺の心を読む能力は親しい人を中心に詳細に感じることができるが、赤の他人に対しては怒ってるなとか悲しんでるなぐらいの認識しかなかった。母親は俺のこの力を「覚者様の賜物たのもの」と呼んだが、大した力ではないし、むしろ人が自分のことをどう思っているからわかるから気持ちが悪い。


 ただ人の本心が見えることでいいこともあった。いいやつとわるいやつがはっきりわかるから、ゴビンダとリウィウスという本当に唯一無二の友と出会うことができたからだ。あの二人の心は常に穏やかだ。

 

 813年10月

 夕日の丘を登った後の夕食で父ガイアスは

「明後日工場に来てくれ、父さんの仕事場を案内してやる」

と言った。

「ああ、行くよ。」

正直そこまで行きたくもなかったが、襲職ジャーティを継ぐことは当たり前であるから行かざる得なかった。


 オヤジは食肉加工の工場の経営者であった。食肉加工はボトムの仕事であり、父親はミドルでありながらボトムと関わることが多い珍しい職種であった。


明後日

オヤジが工場に向かう7時に父と共に家を出た。歩いて30分ぐらいした所に立つ工場は築50年は超えそうなボロボロの大きな倉庫のような施設だった。


入る前にオヤジは俺にこう忠告した。

「ボトムに同情するんじゃないぞ。あいつらの前世は人殺しや母親を犯したような糞野郎かあるいは前世で得を積んだハエやゴキブリ程度の野郎だ。」

「まずはボトムどもをボロ小屋から起こさなきゃな。」


オヤジは家ではみせたこともないような気持ち悪い感情を秘めながら、工場の隣にある強風で吹き飛んでしまいそうなボロ小屋の方へ向かってこう叫んだ。

「おい!ゴキブリ同然の糞野郎ども!起きろ!今日もお前たちより何倍もお利巧さんな牛さんたちの肉を捌くぞ!起きないやつは牛さんみたく逆さまに吊り下げたまま俺が丁寧に捌いている!」


するとボロ小屋からぞろぞろとボトムたちが出てきた。皆着ている元は白かっただろう服は、食肉加工の過程で血が付いており、さらには何年も同じような服を着ているからかもうボロボロであり、一様に真っ黒な光のない目をしていた。

――サンダルから見える真っ黒に汚れた足の指。

――感染症にかかっており、斑点が見える手足。

――恐らくは鞭打ちをされて真っ赤ににじんだ背中。

――恐らくは夫とは関係のない男との子を孕んだ母親。


「ヴェェェェェ」

俺は朝食に食べた物を少し戻した。ボトムたちの様子も衝撃的だったが、それより俺の気持ちを揺さぶったのは彼らが抱いていた感情だった。


「憎悪」「憎悪」「憎悪」

彼らの中には「憎悪」以外の感情しか感じ取れなかった。その憎悪は彼ら自身も含めた自らを生んだ大地にまで及ぶほどのものだった。







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覚者の海馬 冨澤寛太 @summermount2004

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