第74泳
「私はとびきり大きく育った。他の生き物を助けるためだ」
ナンデモオコルはまっすぐにグリンを見つめて、それからリムもじっと見て続けた。
「大きくなれたのは理由があるだろう。そういう風に育ったからには、できることをやらなくちゃね。」
やがて避難の群れは、大都市リュウキューウに着いた。何人もの人魚はそこに定住するか、当面の住みかにした。
「でもここは、豊かなサンゴがないだろう? 大きくなりたい赤ちゃんたちは、育たなきゃいけないからね。大都市リュウキューウではたくさんの情報があって、ここより南に人魚の街があることも分かった」
ナンデモオコルたちは赤ちゃん人魚たちを連れ、光るサンゴから出るミルクを目指して、さらに南下することに決めたのだ。
クジラやイルカは疲れ切ってしまって、自分の食事をしに行ってしまった。ヒレの大きな人魚たちが二十人ほど集まって、大都市リュウキューウで手に入れたロープを編んで、一つの巨大な網を作った。
赤ちゃん人魚たちはそこにひっかけられ、不便な旅の続きをしたのだ。もちろん、後のユキ、そのときはワルワーラもいた。ワルワーラは緑色の澄んだ瞳で、網の中から外を見ていた。
二十人ばかりの大きな人魚たちの先頭にはナンデモオコルがいて、不快そうに泣く赤ちゃんたちを人さらいみたいに南の人魚の街に連れていったのだ。
「それから、私はしばらく人魚の街で暮らしたよ。赤ちゃん人魚たちの面倒を見てもらえるか分からなかったからね」
しかし人魚の街は心配するほどよそよそしくもなく、元々たくさんいた人魚の赤ちゃんたちと同様に受け入れられたのだった。
リムがふと疑問に思って聞いた。
「どうしてあの街に残らなかったの?」
「私は正義の両手を持って生まれてきたんだ。裁判官として治安を守るのが使命だからね。大都市リュウキューウでやり切ることにしたのさ」
そう言うと、指の太くて短い両手をげんこつにして、ぐっと突きだしてみせた。
「グリンの左手と同じ手だね。正義の手っていうの?」
「僕、この手が正義の手っていうのも知らなかったんだ。同じ手の人魚に会ったこともなかった」
グリンがぽつりと言うと、ナンデモオコルは豪快に笑った。
「この手は力強いだろう? 悪を捻り潰す手だ。あんただって、それでレミュウからリムを助けたんじゃないか。正しい使い方だよ」
グリンは左手を自分の前に出して、よくよく眺めてみた。五本の指はちくわのように短く、太い。リムもよくよく眺めて、チラリとグリンの左手を見た。
確かに正義の手には違いないのだが、グリン自身が「悪を捻り潰すタイプ」とはどうも思えないのだった。
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