第65泳

 真っ暗闇の牢に戻る前に、グリンは髪の中まで棒をつっこまれて精査された。透明な小瓶が取り出され、牢に戻っても、自分の置かれた状況を意識するたびに泣いた。それで、ほとんどの時間を泣くか、寝るかして過ごしたことになる。

 寝るといっても、ほとほと疲れてしまって他になにもできなくなったために、意識が薄れるといった類のもので、すっきりした睡眠とは質が異なるものだ。


 一方、リムは独房にいた。グリンの弁護についておしゃべりをやめないので、誰ともやりとりできない場所が選ばれたのだった。遠くに、誰かの声が振動だけを残してかすかに伝わる感じはするものの、内容まではとてもはっきりしない。

 こうも暗いと眠くなってしまうが、リムはだんだん力の抜けていく体をどうにか奮い立たせて、起きていようとした。

 誰かの、内容の分からないおしゃべりさえが何かヒントになる気がして、まさに溺れる者が藁をも掴んで助かろうとする、必死極まる状態だった。

 友人が自分を助けようと窮地に陥っていると捉えていたが、リムは自分もそうであるとは考えていなかった。それはいつもグリンの背に守られていたからであり、安心がリムの根底に編み込まれていたせいでもある。


 そして、グリンは再び、法廷に呼び出されたのだった。

 そこにはリムの姿はもちろんなく、なんと傍聴者の一人もいなかった。審議の妨害になるとして、グリンの傍聴は取り止めの命令が出たのだ。

 そこには以前と同じように、裁判官のナンデモオコル、裁判官のデッドとアライブが座っていた。


 アライブも相変わらず、目玉をグリグリさせながら聞くのだった。

「イソギンチャクが友人を飲み込んだのは本当か?お前は友人を助けようとしたのか?」

 グリンの緊張は聴衆の配慮のおかげでいくぶんか楽になったので、難なくうなずくことができた。


 意思の疎通ができると踏んで、アライブは続けた。

「婦人の家に入り込んだのはなぜだ?」

「リムを、友人を介抱しようと思いました」

 答えた本人も驚いたのだが、話せるのだった。一度それが分かると調子づいて、落ち着いてきちんと説明しようというつもりになった。もう、頭が真っ白だった前回と同じではない。


「落ち着くところがなくて、何も考えずに入りました」

 眉根を寄せて懇願するように話すグリンに、不気味にやさしい微笑みのデッドも聞いた。

「それで何か盗ったかえ?」

「いいえ」

 きっぱりと、グリンは言った。


 裁判長のナンデモオコルは目を伏せて書き物をしていたが、デッドとアライブに聞きたいことがあるかと問われると、ひし形に金の瞳が爛々と輝くサメの目をグリンに向け、手元から一枚の肖像画を取り出した。

「これは誰だ?」

 グリンはうっと息をのんだ。シャチホコのポーズをとって頬杖をつき、赤い髪留めと化粧の映えた、ユキの肖像画だった。

「ユキという、友人です」

「名前はユキというのか?」

「はい、ユキです」

 ナンデモオコルは、金髪の女の人魚がおしゃれに尾をそよがせているそれを味わうように、じっくりと目を細めて見ると、質問はそれだけだった。


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