第2話 AI内見って何だ?
引き戸の中は3m四方ぐらいの狭い事務所だった。手前に来客用の、4人掛けの簡素な応接セットが一つ置いてあって、奥に事務机と椅子が一つずつあるだけだ。事務机の横が簡単な給湯スペースになっていた。
事務机では、眼鏡をかけた若い男がパソコンを熱心に操作していた。事務所の中には、その男しかいない。男は僕たちを見ると、満面の笑みを見せて立ち上がった。なんだか、くたびれた黒の背広を着ている。
「いらっしゃいませ。どうぞ、こちらへ」
男に導かれるままに、僕たちは応接セットに座った。座ると、座面のバネが僕のお尻に当たった。なんだかゴツゴツして、お尻が落ち着かない。美雪もお尻を動かしながら、変な顔をしている。これはまた、ずいぶん古い応接セットのようだ・・・
男が奥の給湯スペースからお茶を持ってきて、僕たちの前に置いた。それから、僕たちの前に座って、慣れた手つきで、背広の内ポケットから名刺を二枚取り出した。男が名刺を僕と美雪に差し出した。
名刺には『株式会社AI不動産 営業部 AI内見コンシェルジュ 高井聡一』と書かれていた。
高井が言った。
「
僕は顔の前で手を振った。ちょっと、しどろもどろになりながら、高井に言った。
「僕たち、家は探してはいるんですが・・・今日は、そうではなくて・・・表の張り紙の『AI内見』というのを見たんです。・・・それで、AI内見を・・・」
高井が笑った。
「ああ、そうでしたか。AI内見は当社のとっておきのサービスでございまして・・・他社では絶対に真似ができません。ぜひ、お試しになってください。お客様のご希望を紙に書いていただきますと、当社のAIがバーチャル空間に、その家を作り出します。AI内見は、お客様にそのバーチャル空間に入っていただいて、自由にその空想の家を内見していただくというものなんです」
僕は高井の話に合わせて言った。
「AIがその家をバーチャル空間に作り出すんですか? AIってすごいですね」
高井は僕にうなずいて見せた。
「そうなんです。もともと、このAI内見は・・・家を建てたいと思っていらっしゃるお客様から、工事に取り掛かる前の図面段階に、その家をバーチャルで内見して、いろいろと中身を確認したいというご要望がございまして・・・それで、当社が独自に開発したシステムなんです。で、当社では、建設を前提にした、そういった本来の使い方の他に・・・お客様が空想で作った、建設を前提にしない家も、AI内見ができるようにシステムをさらに作り替えたんです。こうして、このAI内見というサービスをご提供できるようになったんです」
ここで、僕は一番気になることを高井に聞いてみた。なんでも気になることは最初に確認する主義なのだ。
「でも、建設を前提にしないと言っても・・・AIにバーチャルで作ってもらった家って・・・最終的には、その家の本物を購入しなければならないのでしょう?」
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