内見するならAIよ💛
永嶋良一
第1話 不動産屋が出来ていた
「
美雪が
ここは、下町の古い商店街の一画だ。僕と美雪は同い年の夫婦。結婚してまだ1年も経っていない。子どもはまだいなかった。よく晴れた日曜日の午後、僕たちは、こうして、のんびりと買い物に出てきたのだ。
僕は『のぼり』を見ながら、美雪に言った。
「なんだか不動産屋みたいだね」
美雪が店の前で立ち止まった。入り口がガラスの引き戸になっていて、そのガラスに何か張り紙がしてある。美雪がその紙を覗き込んだ。
「晃司。AI内見ですって?・・・」
「えっ、AI内見? 何だ、それ?・・・」
僕も美雪の後ろから肩越しに、その紙を覗き込んだ。その紙にはこう書かれていた。
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僕はその紙を見ながら、つぶやいた。
「AI内見ねぇ・・・聞いたことがないなぁ」
美雪が僕の腕を取りながら言った。
「きっと、今、
僕たちは、今、古いアパートに住んでいる。新しい家に引っ越すのが、僕たちの夢だ。それでさっき歩きながら、『引っ越すならどういう家がいいか』を二人で話し合っていたのだ。新しい家には、明るくて大きなリビングがあって・・・こういうベランダがあって・・・キッチンは・・・と、二人で夢を語っていたところだった。
だから、美雪が住宅の内見に心
僕は美雪に言った。
「でも、AIを使った内見なんて、なんだか怪しいなぁ? 本当に大丈夫なのかな? きっと、このAI内見ってさぁ、騙されて、無理やり高い家を買わされることになるんだよ」
美雪が笑った。
「晃司、そんなの大丈夫よ。買わされそうになったらさ、断ればいいじゃん! それに、私たちに家を買うお金なんてないんだから、お金を払えと言われても払えないわよ。だから、内見だけでもやってみようよ。きっと、将来の参考になるからさぁ」
そう言うと、美雪はさっさと入り口の引き戸を開けた。
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