内見するならAIよ💛

永嶋良一

第1話 不動産屋が出来ていた

 「晃司こうじ。あんなところにお店があったかしら?」


 美雪が頓狂とんきょうな声を上げた。美雪の指差す方向を見ると・・・果物屋と雑貨屋に挟まれた狭い隙間に、何やら小さな店舗らしきものが出来ていた。店の前には派手な『のぼり』が出ている。その『のぼり』には、赤地に白文字で『AI不動産』と書かれていた。


 ここは、下町の古い商店街の一画だ。僕と美雪は同い年の夫婦。結婚してまだ1年も経っていない。子どもはまだいなかった。よく晴れた日曜日の午後、僕たちは、こうして、のんびりと買い物に出てきたのだ。


 僕は『のぼり』を見ながら、美雪に言った。


 「なんだか不動産屋みたいだね」


 美雪が店の前で立ち止まった。入り口がガラスの引き戸になっていて、そのガラスに何か張り紙がしてある。美雪がその紙を覗き込んだ。


 「晃司。AI内見ですって?・・・」


 「えっ、AI内見? 何だ、それ?・・・」


 僕も美雪の後ろから肩越しに、その紙を覗き込んだ。その紙にはこう書かれていた。


********


 今、話題のAI内見!


 AIを使って、夢のおうちを内見してみませんか?


 ハリウッドスターが住むような豪華なおうちに憧れたことはありませんか? 

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 AI不動産は、そんなあなたの夢を可能にしました。

 あなたの理想のおうちを紙に書いてください。

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 そして、あなたは、バーチャル世界で、そのおうちを自由に内見することができるのです。


 詳しくは、当『AI不動産』のスタッフにお尋ねください。


********


 僕はその紙を見ながら、つぶやいた。


 「AI内見ねぇ・・・聞いたことがないなぁ」


 美雪が僕の腕を取りながら言った。


 「きっと、今、流行はやりの生成AIを使った、新しい住宅サービスなのよ。ちょうどよかったわ。晃司。ちょっと入ってみましょうよ」


 僕たちは、今、古いアパートに住んでいる。新しい家に引っ越すのが、僕たちの夢だ。それでさっき歩きながら、『引っ越すならどういう家がいいか』を二人で話し合っていたのだ。新しい家には、明るくて大きなリビングがあって・・・こういうベランダがあって・・・キッチンは・・・と、二人で夢を語っていたところだった。


 だから、美雪が住宅の内見に心かれるのは分かるのだが・・・でも、僕は気乗りがしなかった。AI内見だなんて、なんだかコンピューターを使って、強引に高い家を買わせるインチキ商法のような気がしたのだ。


 僕は美雪に言った。


 「でも、AIを使った内見なんて、なんだか怪しいなぁ? 本当に大丈夫なのかな? きっと、このAI内見ってさぁ、騙されて、無理やり高い家を買わされることになるんだよ」


 美雪が笑った。


 「晃司、そんなの大丈夫よ。買わされそうになったらさ、断ればいいじゃん! それに、私たちに家を買うお金なんてないんだから、お金を払えと言われても払えないわよ。だから、内見だけでもやってみようよ。きっと、将来の参考になるからさぁ」


 そう言うと、美雪はさっさと入り口の引き戸を開けた。

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