『それじゃ緊急配信はここまで』

『またねー』

「うわあああああ！」

　理空は四つん這いになって咽び泣いた。コンビニの真横である。

　理空の推しバンドの「ChaoS DIVA」が、19時から緊急生配信をすると告知がされていた。理空はそれを視聴するために帰路を急いでいた。その途中で呼ばれた。

　時刻は19時30分を指していた。

　理空はSNSで検索した。

　生配信で全国ツアーの発表がされたこと、新曲を含めた3曲のミニアコースティックライブがあったこと、そしてそれを視聴したファンたちの歓喜の声が溢れ出てきた。

「うううううう……」

　涙が、どうしても止まらなかった。

　近くを通った人間は、一様に驚く。女子高生が路上に這いつくばって号泣しているのだ。

　思えば、今回の異世界攻略は無駄が多かった。透明化魔法と攻撃力増加魔法のコンボにもっと早く気がついていたら、攻略までの時間は格段に短くなっていただろう。

　だが、今回の攻略において一番の致命的な失敗は、睡眠魔法だ。もっと吟味して使えば、あのような失敗は無かった。

　理空は立ち上がり、無理矢理に口角を上げた。悔やむ時間は短ければ短い方が良い。次回以降の攻略に活かせば良いのだ。

過去は変えられない。しかし、未来は変えられる。

「とりあえずアーカイブを観るか」

　理空はスマホの上で指を滑らせる。

「なお、今回の放送のアーカイブはございません」の一文が見えた。

　理空はもう一度泣いた。

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。（ログインが必要です）

新規登録で充実の読書を

マイページ: 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる; 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める; フォローしたユーザーの活動を追える
通知: 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴: 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい