異世界03.爆速で異星人の兵器を殲滅する【無限距離】光弾を連射しまくり女子高生

 西暦2999年、それは突如として天空そらから降りて来た。

 機械と生物の特徴を併せ持つ殺戮兵器「シウナウス」。

 その猛攻は凄まじく、50億の人類がその命を奪われた。

 人類は反撃の一手を打つため、鹵獲したシウナウスを素体に兵器を開発する。

 そして人類は完成させた。

 シウナウスと科学技術、そして人間の脳を併せて造られた、対シウナウス決戦飛行兵器「キロウス」を。


 今、人類の反撃が始まる。







 地球を、背にしていた。

 光学兵器レーザーの鋭い光が、宇宙空間を埋め尽くすほどに飛び交っている。

 地球と火星の中間地点、通称「エリアA」は地球人と異星人の永く続く戦争の最前線だ。地球軍の宇宙艦隊と、無数のシウナウスが、入り乱れていた。

 地球軍は押されていた。鼠型ヒーリと呼称されたシウナウスが、じりじりと前線を侵している。

 兵器の性能には差が無かった。むしろ、地球軍の方が上回っているといえた。侵攻されてから数年、地球人の科学力の発展は目覚ましい。

 しかしながら、敵機シウナウスには、地球人の兵器を凌駕している点がふたつあった。

 恐怖心を持たないことと、無尽蔵に発生することだ。


 宇宙空間に、黄色に輝く球が発生する。

レイケ」と呼ばれる現象だ。この光り輝く空間から、シウナウスが次々と飛び出す。

 戦場は、再び異星人優勢になる。


「お前が最後の希望だ。リク、頼んだぞ」


 「船長」は祈るように言った。

 宇宙空母から、一機の戦闘機が飛び立った。

 鋭く尖る銀色の機体は、暗殺用の短剣を思わせた。

 対シウナウス決戦飛行兵器「キロウス」である。


 パイロット、すなわち地球の救世主として選ばれたのは、龍造寺りゅうぞうじ理空りくだ。


 作務衣さむえをベースに作られた制服を着て、胸に「りく⭐︎(新人です! よろしくお願いします!)」と書かれた名札をつけ、両手で5つのビールジョッキを持っていた。

 注文されたビールジョッキを客席まで運ぼうとした。今回はそのタイミングで


「バイト中は勘弁して欲しいのだが」


 理空は、表情を変えずにビールジョッキを右手にまとめ、操作盤に左手を乗せる。

 中世ファンタジー的な異世界じゃなかったのは不幸中の幸いか。肉弾戦が伴うとなると、どうしたってビールジョッキは守れない。


 【無限距離】


 それが、今回与えられた異能チートだ。

 理空が行う弓射、投擲、魔法、銃撃など、ありとあらゆる遠隔攻撃が、どこまでも減衰せずに飛んでいくというものだ。

 それは、キロウスに搭載された光弾兵器「ヴァロア」も例外ではない。弾は、何かに当たるまで無限に飛んで行く。

 理空は光弾を連射する。とにかく連射する。

 ヴァロアは、光を固体化して発射する技術を用いている。寝室灯ほどの僅かな光でも、光弾を精製出来るので、宇宙中から恒星が消滅しない限り、ずっと発射し続けられる。

 理空は、左手でボタンを連打し続けた。側から見たら、動いていないようにすら見えるかもしれない。秒間64回、ボタンを押していた。ビールの水面が、微かに揺れていた。


 光弾が、次々と宇宙空間に放たれる。それを見て、母艦の搭乗員クルーたちに動揺が走る。


「ば、馬鹿な……」

「いったい、どうしちまったんだよ!」


 敵の数はおおよそ一万。放たれた光弾はおおよそ千発。光弾のすべてが、敵機に


「リク、ちゃんと狙ってくれ! 敵機がどんどん増えるぞ!」


 オペレーターは絶叫する。返事は無い。マイク越しに、ボタンを連打する音だけが聞こえた。

 黄色い光が走る。宇宙空間に歪みが発生する。レイケが、再発動していた。敵機が、わらわらと飛び出てくる。

 理空の連打速度が、秒間256回まで上がる。硝子の破片を思わせる光弾が、敵機の群れをすり抜けていく。命中は無かった。当てないことの方が遥かに難しいはずだ


 空間が、振動した。

 母艦が、大きく揺れる。

 月が目前に出現した。いや、巨大なレイケであった。天体と見紛うほどのサイズだ。

 そこから、巨大な兵器が出てきた。


「ロ……龍型ロヒカルメだ……」


 人類に、の記憶が蘇る。

 母なる星を蹂躙された、あの日の記憶が。

 龍型ロヒカルメと呼ばれるこの機体が放った光線は、イギリスを丸ごと吹き飛ばした。


 理空は動じることなく連打を続けていた。光弾は、目の前の巨大な敵にすら当たらない。

 連打速度だけはどんどん速くなる。


「よしっ! これで終わり!」


 理空は、連打をやめると、右手にまとめていたビールジョッキを再び両手で持った。眼前に、敵機がある。


「リク! 避けろおおおおお!」


 船長が叫ぶ。理空の乗るキロウスは、一切の回避動作を見せぬまま、敵機に当たり爆発した。

 母艦に絶望の声が響いた。船長は膝から崩折れる。


「もう、終わりだ」


 龍型シウナウスが、母艦に視線を向ける。真紅に光る眼が、モニター越しにこちらを見る。巨大な口を開け、エネルギーを溜め始める。赤い光の本流が、口元に収束する。

 船長は、目を閉じた。端から、涙が一筋流れ落ちた。


「……ん?」


 攻撃は、来なかった。船長は、おそるおそる目を開く。龍型シウナウスが、固まったように動かなくなっていた。


「船長! 全てのシウナウスから生命反応が消失しました!」

「……え? どゆこと?」


 理空はただ闇雲に撃っていたわけでは無かった。

 シウナウスが発生させるレイケに向かって撃っていたのだ。

 レイケは、全てのシウナウスの「母」の元に繋がっており、理空はそれを狙って連打していたのだ。

 キロウスからは65280発の光弾が発射されていた。そして、その全てが1発も外れることなく「母」に命中していた。





 それから10年が経った。

 青海島。一番宇宙に近いとされる島。その島の岬に、墓碑があった。

 地球を守った英雄、龍造寺理空の墓碑だ。


「もう10年か。振り返るとあっという間だな」


「船長」は、墓碑に手を合わせた。

 夜空に散りばめられた無数の恒星は、今日も優しく地球を照らしていた。











「生5つでーす!」


 理空は、テーブルの上にジョッキを起き、すぐにキッチンに戻る。


「理空ちゃん! 3番席さんと5番席さんに料理持ってって!」

「了解です!」


 料理長が鉄鍋を振るいながら叫ぶ。

 理空は、両手にトレーを持って走った。

 今日は金曜日である。客の入りは多かった。


「お待たせいたしました! 刺身盛り(竹)と山盛りフライドポテトとラーメンサラダです!」

「あ、注文いいっすか?」

「はいどうぞ!」


 客がメニューを差しながら注文を述べる。理空は左手で端末に入力する。呼び鈴。2回鳴った。12番席と9番席だ。

 理空は注文を取り終えると、すぐさま次の席に向かう。そうこうしてる間にも理空を呼ぶ声が聞こえる。

 忙しい。だが、理空はそれ以上の充足を感じていた。


 理空は、さっきまでいた異世界のことは、すっかり忘れていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る