第34曲 スターター・ブースト:綾野ましろ・イン『とまこす』

 十一月初めの三連休の中日、書き手は、北海道の苫小牧市に来ていた。

 というのも、十一月の二日から三日に渡って、この北の大地において『とまこまいコスプレフェスタ』、略称『とまこす』というコスプレ・イヴェントが催される事になっていたからである。

 そして、日曜日にして国民の祝日である三日の「文化の日」には、ゲストを招いて、アニメ・ソングのイヴェントが催され、そこに、北海道出身の二人のアニソン・シンガーが招かれていた。

 そのうちの一人が、「歌志内市(うたしないし)出身の「nonoc(ののっく)」さんで、もう一人が、「洞爺湖町(とうやこちょう)」出身の「綾野ましろ(あやのましろ)」さん、書き手の〈最おし〉その人である。


 nonocさんの出身地である歌志内市といえば、北海道の中部、「道央地区」に位置し、「空知総合振興局」に属しているのだが、その歌志内市といえば、令和六年現在、全国の都道府県、七九二の市の中で最も人口が少ない、〈全国最少の市〉として知られており、実は、この事については、今回のイヴェントのMCにおいて、nonocさん自身の口から語られていた。ちなみに、札幌の東に在る道央地区出身ゆえにか、彼女が苫小牧を訪れたのは、今回が初めてとの事である。


 そして、ましろさんの出身地である洞爺湖町は、北海道に中央南西部に位置し、行政的には「胆振(いぶり)総合振興局」に属している。この振興局は、西と東に大別でき、洞爺湖町は室蘭市と同じ「西いぶり地域」、対する「東いぶり地域」には、このイヴェントの開催地である「苫小牧市」が属している。


 ところで、「振興局」とは、本州の人間にはあまり耳慣れない単語なのだが、ざっくりいうと、北海道の地方自治法に基づいて設置されている行政区分で、市や郡を統括するカテゴリーと考えれば分かり易いかもしれない。


 とまれかくまれ、洞爺湖町と苫小牧市は、〈同じ〉振興局に属している分けで、そういった、広い意味での空間的近さや、苫小牧市に祖父母が住んでいたが故に、ましろさんは、中学生の頃までは毎週のように苫小牧に来ていたそうで、この事は、MCの中でましろさんの口からも語られていた。

 

 つまるところ、参加者である我々の印象として、今回のアニソン・イヴェントでは、御二方とも北海道出身であるからか、地元の事を題材にしてトークを展開し、だからなのか、気持ち、いつもよりもMCが多め、かつ円滑であったように思われる。


 さらに言うと、二人は、二〇二四年現在たる今でこそ、それぞれ別々の事務所に属しているものの、元々は、札幌に在る同じ芸能事務所に所属していた、先輩後輩の間柄で、久方ぶりに同じイヴェントに参加できた、そうした喜びも、MCでは話題に上がっていた。


 さて、二組のオープニング・アクトの歌唱の後ついに、メイン・ゲストの登壇となり、最初に登場したのが、旧事務所の先輩にして、書き手の〈最おし〉であるましろさんの方であった。

 かくして、メイン・ステージ始まりと同時に、書き手のヴォルテージは一気に最高潮になったのだ。


 さてさて、たしかに、出演者の数こそ異なるものの、アニソンの・イヴェントのスターターといえば、十月最初に南国・鹿児島で催された『りなかる!』の時にも務めていたので、ここ北の北海道において、二回連続という事になる。


 そして、イヴェントそれ自体の最初の曲もまた同じ、デビュー曲の「ideal white」というアゲアゲな曲であった。

 さらに、セトリもほぼ同じで、曲構成の中で異なっていたのは、「衝動」と「Lotus Pain」の交換だけであった。

 もしかしたら、対バンイヴェントでは、多少の変更があるとしても、アップテンポで、観客の盛り上がり必至の「ideal whitei」で始めて、「vanilla sky」で終える、というサンドウィッチが、イヴェントのスターターとして、場をブーストさせ、観客を熱くする上でのましろさんの最適解なのかもしれない。


 そして、さらにである。

 

 ましろさんがご自分のターンの最後の一曲である「ヴァニスカ」を歌唱していた際に、彼女自身のヴォルテージが振り切れてしまったのか、壇上から降りるや、観客と同じフロワにまで降りてきて、最前列のすぐ目の前、観客と同じ目線の高さで歌い出したのだ。


 書き手が知る限りにおいて、ましろさんが、こんな風に観客フロワにまで降りてくるようなパフォーマンスをしたのは、もしかしたら初めて、仮にそうではないとしても、極めて稀な行為であるのは間違いない。

 この事は、今回の地元でのアニソンイヴェンにおいて、ましろさんのテンションもアゲアゲであった事の証左なのかもしれない、と書き手は思ったのだった。


               *


 その綾野ましろさんのワンマン・ライヴが、実は十二月の一日に、東京都池袋の施設で催され、書き手は、今、開場を待っている〈ナウ〉である。

 


〈参考資料〉

〈WEB〉

 『第12幕とまこまいコスプレフェスタ』、二〇二四年十二月一日閲覧。

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