二〇二四年・秋クール
第33曲 鹿児島のアニソン・イヴェント:綾野ましろ・イン『りなかる!』
十月最初の週末の五日から六日にかけて、書き手は一泊二日の予定で本州最南端の都道府県、鹿児島県を訪れていた。
二〇二四年現在、自主企画で神社の〈一の宮巡り〉をしている書き手の五日・土曜日の鹿児島来訪の目的は、〈大隈國〉の一の宮である「鹿兒島神宮」の参詣であった。とまれかくまれ、神社に関する雑感は、神社参詣を題材にした別稿にて語る事にしたい。
さて、そんな書き手の六日・日曜日の目的は、前日の神社参詣とは打って変わって、鹿屋市の市民交流センターである「リナシティかのや」で催されるアニメ関連のイヴェント「りなかる! vol.8」への参加であった。
というのも、鹿屋で行われる、このアニソン・フェスに、書き手の〈最推〉である「綾野ましろ」さんが出演する事になっていたからである。
実は、書き手にとって、アニソン・フェスへのましろさんの出演というのは意外な話であった。
というのも、二〇二一年の年末に、それまで所属していた、ソニーのアニソンのレーヴェル『SACRA MUSIC』を抜け、その後、約二年の休業を経て、二〇二四年の四月に復帰を果たした、ましろさんがアニメの主題歌を担当したのは、四年前の二〇二〇年初の『ダーウィンズゲーム』のED「ALIVE」が最後で、それ以来、新たなアニソンのタイアップは無く、復帰後、たとえこれからも歌を歌い続けるとしても、アニソン特化の大型レーヴェルを離れ、持ち歌に最近のアニソンが無い現状を鑑みると、しばらくは国内のアニソン・フェスへの参加は難しいのではなかろうか、と書き手は考えていたからである。
だがしかし、これは全くもって書き手の浅慮であった。
再帰したましろさんを招いてくれた運営が九州の鹿児島に存在したからである。
だから、これまでの冬から秋に開催時期を変更した「りなかる!」の出演アーティストのラインナップを夏に知った時、書き手は、ましろさんのアニソン・フェスへの出演に驚くと同時に、一も二もなく、フェスへの参加を決意し、発売日の発売時刻と同時にチケットをポチり、さらに、チケが確保できた直後に東京・鹿児島間の往復の飛行機の手配を済ませたのであった。
ところで、先に述べたように、今のましろさんの状況を鑑みると、ましろさんが、次にいつアニソン・フェスに呼ばれるか全くもって分からない。そういった次第で、たしかに開催地が東京から遠く離れた本州最南端とはいえども、このような機会を逃す事など書き手にはできはしなかった。つまるところ、〈最推〉が歌うのならば、イヴェントの開催地が、北海道であろうが鹿児島であろうが、そんな空間面の問題は、ヲタクにとっては些細な事態に過ぎず、それは、〈イヴェンター〉という存在のやむにやまれぬ業のようなものなのではなかろうか。
そもそもの話、地方のフェスは非常に楽しいもので、例えば、出演者が多く、一人あたり二曲ないしは三曲しか歌えないような大型フェスの場合、次から次に出てくる多種多様な演者を味見できる〈立食パーティー〉のような楽しさがあるのは確かなのだが、しかし、一組一組のパフォーマンスに関しては、率直にいうと、もう少し聴きたかった、という物足りなさを覚えがちなのだ。
これに対して、首都圏以外で開催されるアニソン・フェスの場合、そもそも出演者の数が然して多くない、という出演者数の事情もあるのだが、結果的に、一人当たりの持ち時間が比較的長く、だいたい三十分程度あって、さらに、その持ち時間をどのように使うかもアーティスト側に委ねられている場合さえある。
だから、かつて北海道で開催された『きたまえ』であれ、二〇二四年現在開催された(る)長野の『アニエラ』であれ、京都の『京プレ』であれ、そして、この鹿児島の『りなかる!』であれ、多くの場合、持ち時間の長さとその自由度の高さゆえに、一組一組のアーティストのパフォーマンスに飽きや物足りなさを覚える事なく、それぞれの歌唱を十分に味わう事ができるのだ。
その顕著な事例が、今回の「りなかる!」の二日目のトリを務めた「angela(アンジェラ)」さんのターンで、とにかくパフォーマンスが楽しいのだ。それはフェス向けに選曲された秀逸なセットリストや、演者の歌唱が素晴らしい、それだけが楽しさの理由ではなく、観客を煽って一体感を作り出すステージングもまた秀逸で、適時、こうゆう風にノッてちょうだい、といった〈煽り〉を入れてくれるので、あまりアンジェラさんのライヴを観た事のない観客や、一見さんでも楽しめるような工夫が為されているのだ。
加えて、angelaさんの独自性は、三十分の持ち時間の多くの部分を〈トーク〉が占めている点である。
これが下手なMCだと、つまらない話をする暇があるのならば、一曲でも多く歌え、と文句の一つも言いたくなるのだが、アンジェラさんの話はいつも非常に面白く、少なくとも書き手は、これまでそんな不満を抱いた事はない。
さてさて、肝心の書き手の〈最推〉のましろさんなのだが、今回のフェスでは、ライヴのトップバッターとしてステージに登場し、計〈六〉曲を歌い上げた。
トーク・パート多めのアンジェラさんのケースは括弧に入れるとして、概して、持ち時間三十分の場合、曲間にMCを挟みつつ、歌唱するのは〈五〉曲というケースが多いようだ。この定型に照らし合わせてみると、今回のましろさんの歌唱数は一曲多い。おそらくそれは、鹿児島でのステージが初めてで、九州においてもイヴェントを数回行っただけのましろさんが、彼女の生歌を初めて聴くかもしれない九州のアニソン・ファン達に少しでも多くの曲を聴いてもらいたい、という想いを抱いたからかもしれない。
ちなみに、その六曲とは以下の如くであった。
一 ideal white
二 infinity beyond
三 FLAVOR.(GUM)
四 衝動
五 愛のかくれんぼ
六 vanilla sky
セトリの内訳をみてみると、アニソンではないものの、二〇二四年に出した新曲二曲を入れているのは、復帰後の新たな自分の自己紹介を意図しての事であるように思われる。
そして残りの四曲は、全てアニメ関連の曲であった。
ガチで推しているヲタクではない観客一般にとって、曲を知っているかどうか、つまり、単純な話、音源で聞いた事がある曲を生で聴ける、というのは存外重要なポイントなのだ。
そういった意味において、六曲中四曲を〈アニソン〉にしたのは、地方のフェスにおける最適解であるように思われる。
さらに、だ。
今回のアニソン四曲のうち三曲は最初期の表題曲で、これらはBPM速めの激しい曲ばかりで、ライヴのヴォルテージをぶち上げる時に歌われる、神器のような三曲なのだ。
〈現場〉にまで足を運んでアニソンを聴きにきているヲタクの多くは、ライヴでぶち上がりたい、と思っている人が多い。そういった点において、今回のフェスで、ぶち上げ神曲三曲を歌ったのは、九州のヲタクにとってのサービスであったように思われる。
特に最初の一曲目に歌ったのは、デビュー曲にして代表曲でもある「ideal white」であった。この曲は、盛り上がった状態でライヴ本編を締める為にラストにもってくる事が多い。その伝家の宝曲を、今回頭に持ってきたのは、盛り上がる曲で、自分のターンのみならず、このフェスそれ自体に勢いを付けよう、という想い故の事だったのではなかろうか。
〈参考資料〉
〈WEB〉
『りなかる!&りなメロ』、二〇二四年十一月二日閲覧。
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