第12曲 ライヴの定義、そして、コンサートとリサイタルの違い

 歌い手がステージに上がって、聴衆の前で歌唱するような行為を言い表わす場合、ライヴ、コンサート、リサイタルといった幾つかの呼び方が為されている。


 そういった、歌が歌われる〈現場〉にあまり行った経験がない、いわゆる〈一般人〉だけではなく、比較的頻繁に、お歌の〈現場〉に通っている〈イヴェンター〉においてさえ、これらの用語の本来の意味をきちんと理解している人は存外多くはないように思われる。そして例えば、次のような使い分けをしている人を時折みかけさえするのだ。


 立って参加するケースが多いライヴ・ハウスで行われ、演者も観客も激しく盛り上がるのが〈ライヴ〉で、椅子が固定されているホールで催されるのが〈コンサート〉だ、と。

 ここからさらなる誤解が生じ、椅子ありのホールで行われるコンサートは、クラシックではなく、たとえ、ジャンルがポップスであったとしても、座って大人しく聴くものだ、と。

 しかし、こうした区分は、本質的には完全なる誤解で、ホールやライヴ・ハウスといった会場の規模や性質の違いは、本当は、コンサートやライヴの区別とは無関係なのである。


 それでは、ライブとはどういった事を意味し、コンサートは何を指すのであろうか。


 実は、最近、ホールで行われるコンサートは、座って大人しく聴くもので、立って盛り上がってはいけない、といった極端な意見をSNSで目にする事があったのだが、こうした意見に違和感を覚えた書き手は、ライヴ、コンサートの違いを改めて調べてみよう、と思い立った次第なのである。


 そもそも、ライヴは、英語の〈live〉という形容詞ないしは副詞から来ているカタカナで、英和辞典を引いてみると、そこに、〈生の〉〈実演の〉といった意味を確認できる。

 つまり、〈ライヴ〉とは、会場の性質や規模の大小とは完全に無関係で、簡単に言ってしまうと、観客の前に演者が存在し、その時・その場で実際に〈生〉で歌唱、ないしは演奏されるものは、すべからく〈ライヴ〉という事になろう。


 ところで、会場で催されるのに、〈生〉ではない歌唱・演奏ってあるのか、という疑問が湧くかもしれない。

 現代では考え難いのだが、かつて音楽プレイヤーが高額であった時代、レコードなどの鑑賞会をホールで行う、つまり、そのような〈生〉ではない〈レコード・コンサート〉が会場で催される事もあったそうなのだ。

 だが、観客が同一の空間に集っているのに〈生〉ではないエンターテイメントといえば、撮影した物語を流す映画は〈非〉ライヴで、これに対して、実際に役者が目の前で演じる演劇はライヴに相当しよう。


 さて、これに対して、〈コンサート〉とは、語源的に言うと、ラテン語の〈concertare〉に由来し、これは〈一致させる〉という意味の動詞であったそうだ。

 この動詞は、やがて、〈協調・調和〉を意味する、イタリア語の名詞〈concerto(コンチェルト)〉、あるいは、フランス語の名詞〈concert(コンセール)〉となり、この語は、英語や日本語の外来語においては、〈concert(コンサート)〉と発音されている。

 そして、コンチェルトであれ、コンセールであれ、コンサートであれ、音楽用語としてのこの単語は、協奏曲や、二人以上の演奏者による合奏の事を意味している。

 もちろん、二人以上の協調がコンサートなので、大規模な演奏を為すオーケストラも、無論、コンサートで、このような大人数の楽団による演奏は、ホールで行われる事が多いので、おそらく、こういった理由から、ホールで行われる生演奏こそが〈コンサート〉だという、一般的な誤解が生じてしまったのであろう。

 だがしかし、生演奏である以上、コンサートもまた〈ライヴ〉である事には変わりはなく、正確に言えば、二人以上による調和的な演奏は〈ライヴ・コンサート〉と呼び、やがて、コンサートが省略され、〈ライヴ〉と呼ばれるようになったのである。


 とゆう事は、オーケストラではなく、ギター、ベース、キーボート、ドラム、そしてヴォーカルなどの少人数によるバンド編成の演奏もまた、二人以上で行っている合奏である場合、これもまたコンサートであり、さらに言うと、例えば、会場が小さく、営業形態が飲食店であるライヴ・ハウスで演奏されようとも、二人以上の合奏でありさえすれば、それもまた〈コンサート〉である事に変わりはないのではなかろうか。


 だから、繰り返しになるが、ライヴ・ハウスでやるものが〈ライヴ〉で、ホールでやるものが〈コンサート〉というのは完全なる誤解で、生演奏・生歌唱は、そもそも〈ライヴ〉であり、その演奏が二人以上ならば、それがバンドであれ、オーケストラであれ、本質的には〈コンサート〉なのである。


 それでは、もしも、演者が一人で行う場合は何と呼ぶか、というと、つまりそれが〈リサイタル〉なのである。


 リサイタルは、英語の〈recital〉をカタカナで表記したもので、元々は、聴き手に向かって〈詩〉を朗読・朗誦する事を意味していた。だが、ここから派生した音楽用語としては、〈独唱会〉あるいは〈独奏会〉を意味している。

 この日本語訳に〈独〉という文字が入っている事からも分かるように、リサイタルとは、つまるところ、独り、つまり、〈ソロ〉で行う歌唱や演奏の事を指し、歌唱や演奏の別は問わず、ピアノ・リサイタルなど、楽器の演奏ならば独〈奏〉会、歌手による歌唱ならば独〈唱〉会という日本語を当てている分けなのだ。

 

 ちなみに、独奏会の場合、原則、楽器の奏者は一人なのだが、これに対して、独唱会の場合、メインとなっているのが歌い手でありさえすれば、伴奏者やバックバンドの存在は特に問題視されないようだ。


 とゆう事は、〈バック〉バンドが〈サポート〉に入り、歌い手を輝かせるような、ワンマン・ライヴが〈リサイタル〉で、これに対して、歌い手と楽器奏者の音が響き合い、そうした調和を目指したライヴこそが〈コンサート〉という事になるのではなかろうか。


〈参考資料〉

〈WEB〉二〇二四年五月二十日閲覧

 「演奏会、コンサート、リサイタルの違いは何?」、『エクストリーム・ラボ』

 「『コンサート』『ライブ』『リサイタル』の違いをご存知ですか?」(二〇一八年二月二十五日付、二〇二三年十二月三十日最終更新)、『ニッポン放送NEWSONLINE』

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