第13曲 〈オン〉故新曲と初の痛バ:綾野ましろ「Line of Fate」

 CDがリリースされる際には、しばしば、それを記念したイヴェントが行われる。そうした、いわゆる〈リリイヴェ〉においては、ミニ・ライヴでCD収録曲が歌われ、それに加え、〈接近〉と呼ばれている〈サイン会〉や〈握手会〉が実施されたりもする。もっとも、握手会は、感染症のパンデミック以降は行われる事が稀になっているのだが。


 さて、CDのリリイヴェには、ミニ・ライヴが為される事が多いのは確かなのだが、実は、アーティスト側の方針や、会場などの都合、その他、大人の事情などによって、歌が歌われない場合もある。

 そういった時には、ミニ・ライヴの代わりに、〈トーク・ショウ〉が行われる事が多く、実は、二〇二四年の三月初に発売になった、綾野ましろさんのニューEP『FLAVOR.』の発売記念として、五月に催されたリリイヴェは、トーク・ショウが行われるタイプのイヴェントであった。

 いやむしろ、サイン会の前にトーク・ショウが為されるタイプであった、と言う方が適切かもしれない。


 とまれかくまれ、CD発売から二か月が経過した五月中旬から六月頭にかけての毎週土曜日、東京の代々木、大阪の新大阪、神奈川の横浜、そして、(二〇二四年五月二十九日現在からみて)今週末の北海道の札幌も含め、全国四か所において、各会場一部・二部構成の全八回のトーク&サイン会が催されたのである。

 そして、かくゆう書き手は、その全てに参加(予定)したのであった。


 さて、トークの内容は、毎回異なっている、というか、ましろさんが自由に語っており、例えば、唐突に、参加者に質問内容を振る時もあれば、参加者の一人一人に好きな曲を尋ねたり、八月に開催されるFCイヴェントで聴きたい曲を訊く場合もあれば、四月に催されたワンマンについて演者自身が振り返る時や、また、今回の楽曲の一曲一曲について語る回もあった。

 直近の横浜でのトークの内容が、まさに、ニューEPの一曲一曲について語る回で、その語りの中で、ましろさんは、ニューEPに収録されている「Line of Fate」について語った際に、〈安田史生(やすだ・ふみお)〉さんについて言及した。

 今回、『FLAVOR.』に収録されている四曲のうち三曲は、今のプロデューサーである〈亜沙〉さんが作曲・編曲を担当しているのだが、「Line of Fate」に関しては、安田さんが作曲・編曲をし、さらには、ましろさんと共同で作詞にも携わっているのだ。


 安田史生さんといえば、ましろさんの以前のプロデューサーで、こう言ってよければ、綾野ましろの産みの親にして育ての親と言っても過言ではない人物なのだ。

 だから、事務所を移籍し、プロデューサーが変わっても、再起動の際の一曲は安田さんと一緒に作りたいという思いがあったそうで、それが「Line of Fate」なのである。


 仮に、今回の再起動によって、新たな綾野ましろというアーティストが再生し、たとえ、新たなプロデューサーによって新たなフレーバーが、綾野ましろという素材に付け加わったとしても、だからといって、これまでのアニソン・シンガー・綾野ましろというテイストが完全に消え去ってしまう分けではないだろう。

 つまり、古きと新しきが混交した、〈温故知新〉とでも言うべきか、新しい要素を取り入れつつ、かつ、これまで培ってきたものも捨てること無く活かしてゆく、という思いが、安田さんの曲がニューEPに入っている事実によって示唆されているように思われるのだ。


 この「Line of Fate」は、たしかに、アニメ・ソングのテーマ曲ではないものの、それでも、何かのバトル系のアニメのOPと言われても納得してしまうような激しい曲で、例えば、安田さんの作詞・作曲で、ましろさん三枚目のシングルである「infinity beyond」を想起させ、これぞ綾野ましろだ、と、そう古くからのましろのヲタクに思わせるような曲なのだ。

 さらに、これは書き手の勝手な印象なのだが、曲のタイトルに入っている「Fate」というタームによって、ましろさんのデビュー・シングルが『Fate/stay night[Unlimited Blade Works]」の第一期のオープニングテーマ・ソングであった事を思い起こさせはしないであろうか。


 なんでも、ましろさんは安田さんと頻繁に連絡を取り合っているらしい。この事実は、〈音〉を通じて繋がった安田さんへの〈恩〉にも似た感情を、ましろさんが抱き続けている事を示しているようにさえ思われる。

 だから、きっと、この先も、これまでの綾野ましろのフレーバーを活かしつつ、否、これまでの〈ましろ〉の香りを強めたような楽曲を、安田さんは提供してくれるに違いない、と書き手は信じている次第なのだ。

 そうそう、安田さんは、俳優の安田顕さんの実兄である事も、この論考の読み手さんの為に、言い添えておくとにしよう。


               *


 さて、様々な事柄を題材に語られるトークの後にはサイン会が催されるのだが、今回は、いわゆる〈私物サイン会〉なので、参加者は、何にサインをしてもらうかで頭を悩ませる事になり、かく言う書き手もそんな一人であった。

 しかも、今回は八回もサインをしてもらえる機会があるので、徐々にネタが無くなってきた。

 結果、書き手は、ワンマンの際に買いに買い捲ったランダム・缶バッジを使って、いわゆる〈痛バ〉を作り、それにサインをもらおう、と発想した。

 アニメショップには、痛バッグ専用の鞄や、缶バッジを取り付ける為の専用シートも販売されており、それらを購入した書き手は、生まれて初めて痛バを作成し、それにサインをしてもらった次第なのである。


 ちなみに、同じアイデアの参加者はいなかったので、書き手の痛々しい行為が、参加者達の注目を集めた事も、ここに言い添えておく事にしよう。


〈参考資料〉

〈WEB〉二〇二四年五月二十九日閲覧

 「綾野ましろNew EP『FLAVOR.』サイン会付BOOTH限定版 & 8cmCD通常版」(二〇二四年二月十七日付)、『ASIAN WAVE 公式EC』


〈曲情報〉

 「Line of Fate」、『FLAVOR.』、二〇二四年三月一日発売。

  作曲・編曲:安田史生・田口史也

  作詞:綾野ましろ・安田史生


〈グッズ情報〉

 ランダム缶バッジ、六〇〇円/一個(現金)

 痛バッグ、痛バッグシート:五二六五円(クレカ)、アニメイト池袋本店

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