第32曲 四十二日間ずっとそばで:ASCAワンマン・ツアー、新曲リリイヴェおよびアニソン・フェス
二〇二四年八月、〈送り盆〉の翌々日たる八月十七日、アニソン・シンガー「ASCA」さんの二〇二四年の〈夏〉の全国ワンマン・ツアーが大阪から始まった。
今回のツアーは、いわゆる、〈≒東名阪〉(〈東〉は東京ではなく川崎)に北海道と九州を加えた全国五か所で催された。
しかも、ASCAさんは、このツアーの最中、八月三十日はアニサマに、九月二十一日はアニエラにも出演した。
さらに、八月二十八日には、最新シングル『FACELESS』がリリースされたので、それを記念したリリース・イヴェントもまた、首都圏を中心に五か所において六回催されたのだった。
以上、ワンマン間のイヴェントの情報を整理してみると、ワンマンが〈五〉、リリイヴェが〈六〉、フェスが〈二〉、合計〈十三〉ステージ、すなわち、ASCAさんは、四十二日でこれだけの〈現場〉をこなしてきたのである。
無論、二十曲近く歌うワンマン・ライヴと、基本三曲のリリイヴェのミニ・ライヴ、あるいはフェスを同じ一本のイヴェントとして等しく数えるのは公平さに欠けるように思われる。
また、日程に関しても、リリイヴェのように、CDのリリース週に集中的にイヴェントが行われたり、例えば、北海道では、ワンマンにリリイヴェを合わせたりもしているので、必ずしも等間隔でイヴェントが規則的に行われていた分けではないが、とまれ、ワンマン開催の間、平均すると三日から四日に一回のペースで、ASCAさんは観客の前で歌唱してきた勘定となる。
ちなみに、ASCAさんは、海外でのイヴェント出演も多く、書き手は、彼女が出演する全てのイヴェントに参加できている分けではないのだが、国内のライヴ・ツアーが行われた、この四十二日間に限って言うと、中止されたものを除き〈十三〉イヴェント、その全てに参加できたのであった。
それにしても、である。
〈四十二〉日間といえば、小中高の生徒の夏休みの日数とほぼ同じだけの期間で、別の言い方をすると、〈夏の間〉三日に一度はASCAさんと遊んでいた分けだ。
ぶっちゃけ、この数はリアルの友人に会っている数よりも圧倒的に上で、もはや、これは〈親友〉レヴェルの頻度と言えるであろう。
四十二日間というと、本当に様々な事が起こり得る期間で、特に、八月・九月と言えば、台風が日本列島に頻繁に襲来する時期と重なり、事実、ワンマン初日の大阪公演の折には、書き手が乗る予定の飛行機が運休になってしまい、別便で前日に大阪入りをせざるを得なくなったり、名古屋のリリイヴェの際には、台風によるJR東海の計画運休のために、乗る予定だった列車から、急遽、高速バスに移動手段を変更したりなどと、悪天候のせいでイヴェントへの参加が危ぶまれる事態も起こった。
また、この期間内には、イヴェントそれ自体が中止になるケースもあり、実際、ASCAさんが参加予定であった愛知での『二十四時間テレビ』のイヴェントは台風のために、九月の『みゅじろく』は大人の事情で中止を余儀なくされたのであった。
さらに、一か月という長丁場の間、ベスト・コンディションをキープし続けるのは、ステージに立つ演者だけではなく、〈おし〉と一緒にツアーやリリイヴェを巡っているヲタクにとっても同様に容易い事ではなく、叫び過ぎて喉を痛めたり、動き過ぎて筋肉痛になったりもするのだ。
そのような様々な事が起こった四十二日間だったのだが、ステージに立つ演者たるASCAさんも、彼女を全力で〈おし〉ている、書き手を含めたヲタク達も何とか無事に、九月末に国内のツアー・ファイナルを迎える事ができたのは、この上ない幸運だったと言えよう。
さて、今回のワンマン・ツアーは、二〇一七年十一月に、このアーティスト名でメジャー・デビューをした「ASCA」さんが五周年イヤーを終えた事を記念して、六年目の二〇二四年の春にリリースした三枚目のアルバム『VIVID』を引っ提げた、いわゆるアルバム・ツアーである。
ところで、アルバム・ツアーというものは、概して難しいものなのではなかろうか。
というのも、ワンマン・ライヴは、アンコールも含めて二十曲前後で構成される事が多いのだが、今回のワンマンがアルバム・ツアーである以上、アルバム収録曲のほとんど全てをセット・リストに入れざるを得ないという〈縛り〉が生じる。事実、アルバム収録曲の十二曲のうち十曲が今回のツアーで歌唱され(一度も歌われなかったのは「No Voice, No Live」のみで、「Stellar」は札幌公演から新曲にチェンジ)、また、八月にリリースされたばかりの新曲や、配信で歌っただけで未だリリースされていない「最前線」、十一月にリリース予定の「明日世界が終わるとしても」もセトリに入ってくるとなると、今回のワンマンで歌える曲は飽和状態になってしまう。
事実、今回のアルバム収録曲と直近にリリースした二つのシングル曲以外で、ライヴ全体を通して毎回歌ったのは「リインカネーション」(二〇一七年)と「OVERDRIVE」(二〇二〇年)、アンコールの「NO FAKE」(二〇一九年)だけで、それ以外だと、初日の大阪のアンコールの最後で「セルフロンティア」(二〇一九年)、二日目の福岡で同じくアンコールの最後で「RESISTER」(二〇一九年)を歌唱したに留まり、つまるところ、二〇二〇年以前の曲は、これらわずか五曲のみだったのだ。
つまり、アルバム曲をライヴの軸に据える以上、ライヴ全体を通底するコンセプトがあるにちがいなく、思うに、アルバム『VIVID』の中軸は、「上海小夜曲」、「あげる」、「あなたが居ないこの世界でも」という、ASCAさん自身が「恋愛三部作」と呼んでいる三曲で、必然、アルバム以外からセトリに組み込んでくる曲も「Stay Gold」や「Gift of Life」といった大人しめで、〈恋愛三部作〉と親和性の高い曲が選ばれる事となる。
こうしたセトリの途中に、突然、強い曲をポンと入れるのは難しく、結果、これまでの五年もの間歌い込んできた、「ASCA」を象徴するような、こう言ってよければ、いわゆるヲタク一般を湧かせ、叫ばせるような、BPM速めの強い曲、例えば「RESISTER」、「CHAIN」、「Howling」などは、今回のライヴのセトリの間に入れる余地は無くなってしまったのではなかろうか。
V(五)年以上、ASCAさんを追って来たヲタクとしては、彼女を象徴するような、強く激しい曲の生歌を、今回のライヴであまり聴けず、ぶち上がれなかった事に寂しさを覚えなくもないのだが、しかし、四十二日間・十三現場、ASCAさんのパフォーマンスを近くから観てきたからこそ、思う事がある。
プロとはいえども、いつもいつでもベスト・パフォーマンスが出来る分けではない。だが、失敗や調子の悪さなどを経験値に変換しながら、チッタのステージで堂々と歌唱しているASCAさんが放った視線の強い鮮やかさに、書き手は、名状しがたい心の震えを確かに覚えたのだった。
〈スケジュール(時系列順)〉
凡例:ワ:ワンマン・ライヴ、リ:リリース・イヴェント、フェ;アニソン・フェス、一:一般イヴェント
八月十七日(土):ワ:大阪、心斎橋JANUS
八月十八日(日):ワ:福岡、DRUM SON
八月二十五日(日):ワ:愛知、新栄シャングリラ
八月二十七日(火):リ:神奈川、タワーレコード川崎店
八月二十八日(水):リ:東京:アニメイト秋葉原1号館7F
八月三十日(金):フェ:Animelo Summer Live 2024 -Stargazer-・初日、埼玉、さいたまスーパーアリーナ
(中止)九月一日(日):一:24時間テレビ47「愛は地球を救うのか?」、中京テレビ スペシャルLIVEステージ、愛知
一部:ささしまパークステージ
二部:イオンモール名古屋茶屋
九月二日(月):リ:愛知県、HMV栄店
九月七日(土):リ:茨城県、WonderGOO守屋店、二部制
九月十四日(土):リ:北海道、HMV札幌ステラプレイス
九月十五日(日):ワ:北海道、SOUND CRUE
(中止)九月十六日(祝日):一:みゅじろくライブ!SOUND & SMILE Vol.2〈GIRLS POWER〉、東京、TOKYO FMホール
九月二十一日(土):フェ:ナガノアニエラフェスタ2024・初日、長野、佐久市 駒場公園
九月二十七日(金):ワ:神奈川、川崎CLUB CITTA
〈「ASCA LIVE TOUR 2024 -VIVID-」セトリ〉
〈*〉付きはアルバム『VIVID』収録曲
01「命ノ証」*
02「私が笑う理由は」*
03「Stellar」*〈大阪、福岡、名古屋〉
03’「Maze」(『FACELESS』所収)、〈札幌、川崎〉
04「上海小夜曲」(Shanghai Serenade)*
05「Stay Gold」(『紫苑の花束を』所収)〈大阪、福岡、名古屋〉
05’「Gift of Life」〈札幌、川崎〉
06「あげる」*
07「リインカネーション」(二〇一七年リリース)
08「君が見た夢の物語」*
09「 最前線」(未リリース)
10「リンネ」*
〈衣装チェンジ〉
11「Departure」*
12「紫苑の花束を」(二〇二三年六月リリース)
13「あなたが居ないこの世界でも」*
14「カルペディエム」*
15「FACELESS」(『FACELESS』所収)
16「OVERDRIVE」
17「VIVID WORLD」*
〈アンコール〉
〈大阪・福岡・名古屋〉
18「NO FAKE」〈名古屋のアンコールはこの曲のみ〉
19「セルフロンティア」〈大阪〉
19’「RESISTER」〈福岡〉
〈札幌〉
18「明日世界が終わるとしても」(未リリース)
19「NO FAKE」
〈川崎〉
18「NO FAKE」
19「明日世界が終わるとしても」(未リリース)
19「Pieces」(『FACELESS』所収)
〈参考資料〉
〈WEB〉二〇二四年九月三十日閲覧
「INFORMATION」「LIVE」「DISCOGRAPHY」、『ASCA オフィシャルサイト』
『ASCA Music Entertainment』
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