第22曲 ボトムアップ・スクウェア:ReoNa「SWEET HURT」
二〇二四年七月十五日の〈海の日〉、五月中旬から行われてきたアニソン・シンガー「ReoNa(れおな)」さんの日本国内を巡回した全国ツアーが終了した。
もっとも、七月後半から八月の頭にかけて、台湾・香港・上海を巡る(東)アジア・ツアーを四本控えているので、ライヴ・ツアーそれ自体は未だ完結していない、とも言い得るのだが、とまれかくまれ、国内に関して言えば、鹿児島の天文館のライヴ・ハウスでの公演をもってして終了を迎えたのであった。
その日本国内ツアーの内訳は、関東が埼玉の二公演、関西が大阪の二公演、中国・四国が広島と香川、東北・北海道が宮城と北海道、そして中部が愛知、最後が九州の福岡と鹿児島である。
この随筆の読み手様の中に、ReoNaさんのライヴへの参加者がいたかどうかは分からないのだが、国内ツアーが行われている間は、ライヴ内容に関する、いわゆる〈ネタバレ〉を避けるために、今回のライヴ・ツアーに関して語る事を控えていた書き手だったのだが、国内ツアーが終了した今、自らに課していた言及統制を解除しても問題はないであろう。
ReoNaさんが、このアーティスト名でデビューを果たしたのは二〇一八年の夏で、したがって、〈二〇二三〜二〇二四年〉は〈五周年イヤー〉に当たり、それゆえに、今回のライヴ・ツアーは、その五周年を締め括る意味もあって、次のようなツアー・タイトルが付けられていた。
『ReoNa 5th Anniversary Concert Tour “ハロー、アンハッピー”』
今回のツアーは日替わりの曲が何曲かあったものの、セット・リストはほぼ固定で、大別すると、四つのブロックに分けられていたのだが、今回の論考では、その最初のブロックの七曲に照明を当てたい。
最初のブロック、仮にこれを「ファースト・ブロック」と呼ぶ事にするが、その構成は以下の通りであった。
1「SWEET HURT」(二〇一八年八月)
2「forget-me-not」(二〇一九年二月)
3a「Untitled world」(二〇二〇年七月)
3b「Alive」(二〇二二年十二月)
4「R.I.P.」(二〇二三年十一月)
5「ないない」(二〇二一年五月)
6「生命線」(二〇二一年九月)
7「Believer」(二〇二一年九月)
一曲目は、「ReoNa」名義でのデビュー曲で、二〇一八年・夏クールのTVアニメ『ハッピィーシュガーライフ』のED、二曲目は、二〇一九年・冬クールの『ソードアート・オンライン アリシゼーション』の第二クールのEDで、三曲目とその日替わり曲、加えて四曲目は、ゲーム、後にTVアニメ化された『アークナイツ』の主題歌で、五曲目の「ないない」はTVアニメ『シャドーハウス』の主題歌である。
ファースト・ブロック最後の六曲目と七曲目は共に、二〇二一年九月に発売されたミニ・アルバムに収録されていた曲で、このアルバムの収録曲は全て、ゲーム『月姫 -A piece of blue glass moon-』のテーマ曲である。
つまるところ、〈ファースト・ブロック〉は、アニソンやゲーソンを、初めて担当した年代順に並べたゾーンで、この七曲の中で、書き手が特に着目したいのが、ライヴのオープニング曲として歌われた「SWEET HURT」である。
この曲は、ReoNa名義でのデビュー曲という事もあり、これまでのライヴの中でも最も数多く歌われてきた「お歌」の一つなのだ。
翻ってみると、ReoNaさんをそのデビュー当初のリリース・イヴェントや、その翌年の二〇一九年の春に行われた最初のツアー、『ReoNa Live Tour 2019 “Wonder 1284“』から〈おし〉てきたヲタク達にとっても、「SWEET HURT」は最も多く〈生〉で聴いてきたお歌だと言い得るであろう。
だから、「SWEET HURT」は、演者であるReoNaさんとヲタク達、みんなで育ててきた曲なのだ。
そして、こんな風に「みんなで育ててきた曲」と言い得るのは、「SWEET HURT」の二番の中に、次のような振りが認められるからである。
具体的に言うと、二番の歌詞の冒頭部に「四角い」というワードが含まれた箇所があるのだが、そのフレーズに合わせて、ステージ上にいる歌い手のReoNaさんが指で四角を描く。
一方、ライヴに参加しているヲタク達の中には、その演者の振りに合わせて、四角を描く者もいるのだ。
この情景を目にした者は、ヲタクの中には、ReoNaさんの〈振りコピ〉をしている人もいるんだな、と思うにちがいない。
しかし、実はそうではないのだ。
このように演者と観客が四角を描く箇所は、実は、最初のリリイヴェの際に、歌詞に合わせて、ヲタクの誰かがやり始め、やがて、それを他のヲタクも真似をし、いつしか、演者であるReoNaさん自身も四角を描くようになった、という経緯があるのだ。だから、こう言ってよければ、四角(□)の振りは、ヲタク側からのボトム・アップによって生まれたパフォーマンスなのである。
そして今や、この〈□〉は、ReoNaと分り手のヲタクとの間で共有している、「SWEET HURT」の定番パフォーマンスになっている分けだ。
もちろん、観客の中には初見の人間やライトなヲタクもいるので、観客席の全てが「SWEET HURT」の二番の〈□〉を描けるべくもないのだが、いつの日にか、全てのオーディエンスが、演者と同じタイミングで四角を描けたとしたら、それはきっと壮観な光景に違いない、と夢想する書き手であった。
*
この随筆を書いている七月十八日は、実は、アジア・ツアーの初日、台湾公演の日なのだ。
残念ながら、今回のアジア・ツアーには、書き手は参加しないのだが、開場十八時半・開演二十時、今は、日本時間二十時四十五分、台湾と日本の時差は一時間なので、もうそろそろ開演かな、と思いながら、最後の「。」を打った書き手であった。
〈曲情報〉
「SWEET HURT」、『SWEET HURT』所収、レーベル:SACRA MUSIC、二〇一八年八月二十九日発売。
作詞・作曲:ハヤシケイ(LIVE LAB.)
編曲:PRIMAGIC
〈参考資料〉
〈WEB〉
「ReoNa 5th Anniversary SPECIAL SITE」「ライブ/イベント」「ディスコグラフィ」、『ReoNa オフィシャルサイト』、二〇二四年七月十八日閲覧。
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