第10曲 セトリとライヴ・ハウスの相関関係:春奈るなワンマン・ライヴ「Stella Sign」

 二〇二四年五月二日、アニソン・シンガー、春奈るなさん(以下、〈るな氏〉という愛称で記述)がメジャー・デビュー十二周年を迎えた。

 そのデビュー曲こそが、TVアニメ『Fate/Zero』セカンド・シーズンのエンディング曲、「空は高く風は歌う」である。

 

 そして、『Fate』シリーズというビック・コンテンツのテーマ曲にてデビューを果たした後のセカンド・シングルが、その半年後の、同年二〇一二年の十一月にリリースされた、『ソードアート・オンライン』(以下『SAO』と略記)の第一期・第二クール「フェアリィ・ダンス編」のエンディング曲である「Overfly」で、同じ『SAO』関連で言うと、二〇一四年夏クールに放映が開始された、『SAOⅡ』の第一クール「ファントム・バレット編」のエンディングが、るな氏、六枚目のシングルである「Startear」である。

 さらに、二〇一三年にリリースされた、四枚目のシングルの「アイヲウタエ」と、五枚目の「snowdrop」は共に、『化物語』シリーズのエンディング・ソングになっている。


 TV版であれ、劇場版であれ、アニメ作品がシリーズ化されているという事は、作品それ自体のコンテンツとしての〈強さ〉を意味しており、かくの如く、『Fate』(最初のアニメは二〇〇六年)や、『SAO』(最初のアニメは二〇一二年)、あるいは、『化物語』(最初のアニメは二〇〇九年)といった、十年以上に渡って制作され続けているアニメ作品の主題歌を担当してきた、という事実は、春奈るなという歌い手のアニソン・シンガーとしての確かな実力を示しているようにさえ思われる。


 さて、もし仮に、〈春奈るなといえばこの作品の主題歌の担当者だよ〉と、アニソンに興味を抱いたばかりの知人に、るな氏の代表曲を〈推す〉ことがあるとしたら、書き手は、『冴えない彼女の育てかた』(以下『冴えカノ』と略記)を以てして、るな氏を紹介するであろう。


 『冴えカノ』は、その第一期が二〇一五年の一月期に、第二期が二〇一七年の四月期に、そして、物語の完結編である『冴えない彼女の育てかた Fine』が二〇一九年十月に劇場公開された。

 この作品は、丸戸史明氏のライト・ノヴェルを原作としたラヴコメなのだが、完結までアニメ化される事が非常に稀な昨今の原作付きのアニメ事情にあって、最初のTVアニメから劇場版まで足掛け五年をかけ、アニメでは描かれなかった原作のエピソードもあるものの、物語の結末まで描き切った稀有な作品の一つであり、このレアリティこそが、『冴えカノ』のコンテンツとしての強さを示していよう。

 その『冴えカノ』の主題歌を、るな氏は、一期のオープニング「君色シグナル」、そして二期のオープニング「ステラブリーズ」、そして、劇場版の主題歌である「glory days」と、二度のTVアニメと劇場版、これら全ての主題歌を担当しており、それゆえ、『冴えカノ』と言えば〈春奈るな〉、〈春奈るな〉と言えば『冴えカノ』と言っても過言ではないように、書き手には思える次第なのだ。


 ちなみに、劇場版公開の二〇一九年十月に合わせて、ミニ・アルバム『glory days』がリリースされたのだが、このアルバムには、自身が担当したTVアニメ第一期・第二期のOPだけではなく、沢井美空さんが歌唱した一期のEDの「カラフル。」と、二期のEDで、妄想キャリブレーションさんが担当した「桜色ダイアリー」、この二つのEDも、るな氏がカヴァーしており、それゆえに、るな氏が『冴えカノ』の全ての主題歌を歌唱するこのミニ・アルバムは、るな氏を他者に薦める場合の必聴のマストCDだと言えるだろう。

 

 その春奈るなさんは、たしかに毎年ではなく、デビュー日その日の開催ではないものの、五月初旬のデビュー日のGWのいずれかの日に、ワンマン・ライヴを開催する事が多い。

 そして、今年、二〇二四年に関しては、五月五日の日曜日に、鶯谷の「東京キネマ倶楽部」にてワンマン・ライヴが開催され、書き手も、そのライヴに参加した。ちなみに、この日のセット・リストは、るな氏のオフィシャル・サイトにて公開されているのだが、そのページを参照してみると、先に見た、『冴えカノ』の「君色シグナル」は、アンコールの最後に歌われている事が確認できるので、この事実もまた。〈春奈るなといえば「君色シグナル」〉の一つの根拠と言えるかもしれない。


 さて、書き手は、デビューから十二支が一巡した今回のライヴは、ある種の原点回帰であるような印象を受けた。

 そもそも、デビューを記念した周年ライヴなので、高確率で、デビュー曲の「空は高く風は歌う」は歌われるだろう、とは思っていたのだが、一曲目に『SAO』のOPである「Overfly」がきた後、アニメやゲームのタイアップで、シングルの表題曲になっている「桃色タイフーン」や「Windia」を差し挟みながら、二曲目に「I WANNA 電磁的 DO」、そして、四曲目に「LOVE TEARS」が歌唱されたからである。

 ちなみに、これらの二曲は、一枚目のシングル『空は高く風は歌う』の収録曲で、前の辰年、すなわち、初期の頃からるな氏をおしてきたヲタクたちには喜ばしい選曲だと言い得るだろう。


 最初の歌唱ゾーンにて一気に上記の五曲が歌われた後、マイク・パフォーマンスも為されぬまま、るな氏はステージから姿を消し、繋ぎのバック・バンドの楽器演奏の後、再度、サイド・ステージに姿を現した。

 「東京キネマ倶楽部」というこの施設は、実は、元々はキャバレーなので、キャバレー時代のステージがそのまま残されており、このキャバレーの特徴とは、メイン・ステージの下手側に、一段高くなったサイド・ステージが存在する点である。

 このように、一段高い位置で歌唱することによって、観客全てに、るな氏の姿ははっきりと見えたのではなかろうか。


 さらに、元キャバレーにて、るな氏がライヴをした事の意義は、このようなサイド・ステージの利用に留まっていように思える。


 ステージに再登場してから本編終了まで、るな氏は、小休止を一切いれず、最後の曲まで一気に歌い上げた。それらの曲の中には、「終焉の魔法、終天の真意。」「空は高く風は歌う」「狂想リフレイン」といった、ファースト・アルバム『OVERSKY』の収録曲が含まれており、この事は、今回のライヴのセトリ全体における初期曲の多さが感じられるのだが、そんな中にあって、本編の終盤に歌われた「ルパとアリエス」と「回転木馬」は、「東京キネマ倶楽部」という元キャバレーの雰囲気にピタリ合っているような印象を書き手は受けたのだ。


 断言はできないのだが、ライヴのセトリを決める際に、そのワンマンの会場となった〈場〉の性質が、今回のワンマンの曲を選定する上で何らかの影響を与えた可能性もあるかも、そのように思う書き手であった。


〈参考資料〉

〈WEB〉二〇二四年五月八日閲覧

 『東京キネマ倶楽部』

 「SET LIST公開!」(二〇二四年五月六日付)、『春奈るなOFFICIAL SITE』


〈曲情報〉

 「空は高く風は歌う」「LOVE TEARS」「I WANNA 電磁的 DO」、『空は高く風は歌う』、レーベル:SME Records、二〇一二年五月二日発売。

 「Overfly」「ネバーランド」「狂想リフレイン」「終焉の魔法、終天の真意。」「空は高く風は歌う」、『OVERSKY』、レーベル:SME Records、二〇一三年八月二十一日発売。

 「君色シグナル」、『君色シグナル』、レーベル:SME Records、二〇一五年一月二十八日発売。

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