第05曲 絡まる:ReoNa「ガジュマル ~Heaven in the Rain~」
新曲がリリースされた際に催されるリリイヴェには、様々な参加者選抜方式がある。
三月の中旬に書き手が参加したASCAさんのイヴェントの場合、いわゆる〈フラゲ日〉に店頭でCDを購入した者に先着順でイヴェント参加券が配布されるようになっていた。
一方、三月末に催されたReoNaさんの『ガジュマル ~Heaven in the Rain~』の場合は、店頭、ないしは、WEBでCDを予約し、その際に渡されたシリアルナンバーで応募した後に、抽選で当選者が選ばれる、という形式を採っていた。
書き手は、このCDのリリイヴェのうち、大阪の二か所、東京の一か所に当選し、幸運にも三か所に参加できた。
このCDの表題曲である「ガジュマル ~Heaven in the Rain~」(以下、「ガジュマル」と略記)は、二〇二三年の十月期、および、二〇二四年の一月期、二クール・全二十五話で、日曜日の夕方五時から地上波で放映されていたTVアニメ『シャングリラ・フロンティア』(以下、『シャンフロ』と略記)の二クール目、すなわち、一月七日放映の第十四話から、エンディング・テーマとなった曲である。
『シャンフロ』は、同名のVRMMOゲームを物語の舞台としているのだが、その第二クール目は、ゲーム内に七体しか存在しない最強種たるユニークモンスターの一体、「墓守のウェザエモン」と、主人公のサンラク、オイカッツォ、アーサー・ペンシルゴン等三人の戦闘を描いたエピソード「刹那に想いを込めて」を軸とする物語内容がピークになっている。
墓守のウェザエモンという、外見がサイボーグのような鎧武者であるユニークモンスターは、事故で亡くなってしまった妻「セツナ」の墓を守る為に、アンデット・モンスターになってしまった元・人間である。
ペンシルゴンは、そのセツナの生前と同じ姿をした、いわば、幽霊の如きNPCを「セッちゃん」と呼び、長い間交流を持ち続け、いつしか、彼女に感情移入してしまう。やがて、ペンシルゴンは、墓守のウェザエモンとの対決を決意し、サンラクとカッツォに協力を仰ぐ。
このエピソードの最後に、闘いに敗れたウェザエモンは、妻の墓を守り続けるという妄執から解放され、姿を消し、直後に、セツナのコピーであった「セッちゃん」もまた消滅する。
率直に述べると、『シャンフロ』は全体的に楽しいゲーム物語という印象なのだが、そういった作品を通した明るさの中にあって、ウェザエモンのエピソードは少しテイストが異なっていて、キャラクターの消滅と別れを描いているが故にか、切なく物悲し気な雰囲気を纏っている。
そうした物語と、ReoNaさんが歌唱する「ガジュマル」は、スローな曲のテンポや、優しいメロディー、さらには、歌詞内容が、実にマッチしているのだ。
それゆえに、こう言ってよければ、「ガジュマル」は、第二クール全体のエンディング・テーマというよりも、むしろ、墓守のウェザエモンのエピソードのテーマ曲になっているように感じられる。
そして、『ガジュマル』の「期間生産限定盤」、通称〈アニメ盤〉のジャケットが「遠き日のセツナ」のキャラ絵になっている事からも、「ガジュマル」と、セツナやウェザエモンのエピソードの関連の糸の太さが窺い知れよう。
さらに、である。
第十八話、「刹那に想いを込めて其の四」のエンディングは、通常のエンディングとは異なる、在りし日のウェザエモンとセツナが描かれた特別仕様のエンディングになっていた。
それにしても、だ。
愛しい人へ大切な言葉を告げられなかった事の後悔を物語った曲のモチーフが何故にガジュマルなのであろうか。
『ガジュマル』の「通常盤」や「初回生産限定盤」のジャケ写の背景となっている木がガジュマルで、〈我樹丸〉という漢字が充てられる事もあるそうだ。その常緑樹の樹高は二〇メートルにもなり、沖縄では、ガジュマルにはキジムナーが住んでいる、という伝承があるのだが、つまるところ、ガジュマルは沖縄における呼び名なのだ。
幹や、地上に出ている根、つまり、気根(きこん)が分岐し、絡み合うような形状になっているガジュマルのその名は、真偽のほどは定かではないらしいのだが、〈絡まる〉が訛ったものだとも言われているらしい。だが、その姿を一目みれば、この俗説にも説得力があるように思えてしまう。
というのも、伸びた気根は地面に向かって垂れ下がり、かつ、絡み合っているからで、さらに、その姿は、雨降りを連想させるので、〈雨の木〉という別名もある、との事である。
このガジュマルの分布地は、スコールが起こる亜熱帯から熱帯地方なので、もしかしたら、その天候状況も雨の木という名と関連があるかもしれない。
ガジュマルは沖縄の木という印象なのだが、その実、日本では、種子島や屋久島以南、奄美大島などでも見止られ、ReoNaさんの出身地が奄美である事も、この曲名に大きく関わっているようにも思われる。
曲名と言えば、サブタイトルに「Heaven in the Rain」も、〈雨の木〉というガジュマルの異名と関係があるだろうし、〈雨〉と言えば、墓守の〈ウェザ〉エモンという名それ自体が、天候(ウェザー)に由来している分けで、こう言ってよければ、「ガジュマル」は様々な要素が気根のように絡み合っている、とも考えられよう。
そして、『シャンフロ』が最終回を迎えた三月三十一日、その放映開始時刻の十七時と、東京でのイヴェントの開始時刻が完全に被ってしまった為、『シャンフロ』の最終回の視聴回後ミニ・ライヴが行われるという、イヴェントが、その日その回だけの特別仕様であった事もここに書き添えておこう。
〈参考資料〉
〈WEB〉
「Information」「Discography」、『ReoNa オフィシャルサイト』、二〇二四年四月三日閲覧。
「登場キャラクター」「主題歌情報」「あらすじ」「用語集」、『シャングリラ・フロンティア』、二〇二四年四月三日閲覧。
〈作品〉
『シャングリラ・フロンティア』第十四話〜第二十話、二〇二四年一月期放映。
〈曲情報〉
「ガジュマル ~Heaven in the Rain~」、レーベル:SACRA MUSIC、二〇二四年二月二十八日発売。
作詞:ReoNa、ハヤシケイ(LIVE LAB.)
作曲:毛蟹(LIVE LAB.)、
編曲:Pan(LIVE LAB.)、宮野幸子(SHANGRI-LA INC.)
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