2章
37、喧嘩するほど仲が良い延禧宮
『
四大名家の一つである
二人の妃は、仲が良い。
「宴に参加する妃同士、一緒に準備をしましょう」と決めて、今日から三日間、泊まり込みで詳しい打ち合わせに励むことになったのだ。
なお、皇帝の夜伽は、お休みである。
理由は、「先見密奏により、皇帝に『数日間の女人断ち』が決まった」と布告されている。霞幽の仕業だ。
「他の宮殿に集団でお泊りなんて、すっごく珍しい体験ですね?」
「ええ、前例がないことみたい。もしかしたら、後にも先にも私たちだけかも」
おさげ髪を白い紐で結び、侍女服に身を包んだ紺紺は、
紺紺は「環境を一時的に変えることで、悲しい事件の傷を癒せたらいいな」と思った。
『転地効果』といい、日常いる場所と別の場所で過ごすと、環境の変化で五感が刺激され、心身に良い影響が出ることがある。
もしかしたら
「いらっしゃぁい。
肌の色は、小麦色だ。高い位置で結いあげた髪には、大きな青玉をあしらった
眉が太く、唇はぽってりとしていて、目はニッコニコの垂れ目。
藍蓮花の模様入りの
彼女の腕には、二歳になる
丸い扇で母妃の顔を隠してイタズラっ子の顔で笑っている。可愛い。
「こぉら、
「きゃぁ♪ きゃぁ♪ かんじゃしー、しってう!」
喋る言葉は、微妙に発音が東方訛りだ。この訛りは「猛虎弁」と呼ばれているらしい。
「
耳飾りの水晶が日差しを反射して、きらきらしていた。
繊細に結い上げた髪に挿した簪は、真珠をふんだんにあしらっている。
「かんじゃし、かんじゃし」
しゃらん、と揺れた簪が気に入ったのだろうか、
幼い公主の声に、
「ふふっ、
「あぁ〜! あかんあかん。
「いいんですのよ」
「甘やかしたらあかん。普段から侍女に甘やかされてるんやからぁ」
「ここが裁縫場。こっちは陶芸場で……」
「
「おお! そのつもりで材料準備しとった!」
「まあ! 言わずともわかっていてくださるなんて……あっ、こちらはわたくしのお手製の揚げ芋さんです。お土産ですの」
「
二人の妃は、普段からよく贈り物をしあっている仲らしい。
お友だちなんだ~! 仲良し、いいな! と、紺紺が和んでいると。
「あの小娘ちゃんが可愛いからって宦官や妃にモテモテの子か? なんぞ主上にも気に入られてるって? ンン?」
あれぇ? 嫌われてる……。
紺紺は目を丸くした。
「しかも病弱で仕事がままならんって?
「
立て板に水を流すように話す
「
「はあ? うちは善意で言ってるんやで! ダメな子が休んでる横で真面目~に仕事する方の身になってみぃ。『うちも休みたいのにな~、ずるいぃ』ってなるやん」
「休みたいと言ったら休ませてあげます。わたくし、いざとなったら侍女を全員休ませて自分でお掃除やお料理やお裁縫をしますから」
「はあぁ!?
わあ、わあ、仲が良かったお二人が喧嘩し始めちゃった!
「あっ、あっ、あの! ……私、元気です! お仕事いっぱい頑張れます! お休みしてごめんなさい、休んだ分、取り戻します!」
紺紺が慌てて両手をあげて元気さを主張すると同時に、
「ふ、ふええぇえん! けんか、やぁなの……!」
公主が泣きだしたのもあって、妃たちの喧嘩は収まった。
子供をあやし、「喧嘩していませんよ~」と笑顔になる妃たち。
侍女たちも気を利かせ、「さあさあお茶をどうぞ」とか「
「気を取り直して、陶芸しよか」
「そうですわね」
ハラハラしながら妃たちを見守っていると、
「えっ、私も陶芸体験をしていいんですか?」
「ええよ。やりたければみんな平等にできる。それがうちの公平や」
二人の妃は一瞬お互いの顔を見て、ぷいっと顔を背けた。
「ふん」
「ふんっ」
最初はあんなに仲が良かったのに!
紺紺がおろおろしていると、
「時間が経てば元通り仲良しになるわ」
「そ、そうなんですか~っ?」
「喧嘩するほど仲が良いって言葉があるでしょ」
なるほど、それなら気にしないでおこうかな?
「北方では『割れやすいことから仲が割れる』って言われて嫌がる人らもいるらしいけど、
「なー!」
作るものは、茶杯に決めた。
「二個つくって
頭の中にぴっかぴかの完成品を思い描くと、わくわくする。
『このぴっかぴかの茶杯をお嬢様が!? なんと、石家の繁栄を願ってくださったのですか?』
『紺紺さん、白家の繁栄を願ってくれたのかい。これは私も心を入れ替えて徳を積まないといけないね』
わぁぁ! 喜んでほしい~!
「繁栄♪ 繁栄♪」
「あんえー♪ あんえー♪」
自分の歌につづく元気な声が聞こえて見てみると、
公主は目が合うとニッコリしてくれた。
無邪気だ。可愛い。
妃二人の会話も、聞こえてくる。
「
「
「傾城様を悪く言うことも、許しませんの!」
……この二人、本当に仲良しに戻るんだろうか?
「あ~、そうそう、
「あら、
「主上がうちらに頭が下がらん今が好機や。お外に買い出しにも行きたいなぁ」
「うふふ、わたくしたちは難しいかもしれませんが、侍女たちを遊びに行かせてあげたいですわね」
あっ、戻った。
「
「まあ、素敵。お風呂は一緒に入りましょうね♪」
侍女たちは顔を見合わせ、「よかったわね」と安堵した。
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