第四十九話 三人の守護騎士

 オムライスとロゼが作ったスープを持って部屋に戻る。

 それぞれの机に料理を置き、食事を始める。今日は部屋で食べることにしたが、料理の匂いがつくから明日からは食堂で食べないとな。


「このスープ……とても美味しいですね」

「それは俺じゃなくて向かいの部屋に住む守護騎士さんが作ってくれたんだ」

「そうですか……向かいの部屋の守護騎士、ということはポーラさんの……」


 机は距離を置いて横並びになっている。

 俺は視線を横に向かしてユウキの様子を見る。ユウキはスプーンを止め、なにやら考えているようだった。


「どうした?」

「その……ダンザさんは占いを信じますか? 遠い先の未来を見通す力、なんてものがあるとは思いますか?」

「遠い未来を見通す力……か。さすがにないんじゃないか? 目の前の相手の数秒後の動きを予知したり、明日雨が降るかどうかを予知したり、そういうユニークスキルは見たことがある」


 いや、


「――そういえば、エルフの王族には稀に遠い未来を予言する能力を持つ者が生まれると聞いたことがある」

「詳しく聞いてもいいですか?」

「ああ。俺もエルフの友人から聞いた話で実際に見たわけじゃないんだが、王族の女性エルフの中には遥か未来を予言し、国を導く巫女と呼ばれる存在がいるらしい。200年に1度ほどの頻度で生まれるそうだ」


 ロゼが語っていた話だ。俺がその話を聞いた28年前にも巫女は存在したが、すでに200歳を超えていたそう。ロゼは『頻度的に、ここ20年で新たな巫女が生まれるでしょうね』と言っていた。アレが28年前なのだから、ロゼの言う通りならばもう新たな巫女が生まれているはずだ。


「まさか……いや、そんなはず……」

「? なにかあったのか?」

「いえ。なんでもないです」


 なにかあったな。でも言いたくないなら無理に聞き出すこともない。

 ユウキは疲れが溜まっていたのだろう。食事を終え、歯磨きと風呂を済ませると21時頃には眠っていた。

 明日は入学式。俺はただ見守るだけだが、俺も万全を期すため早めに眠っておこう。22時、ユウキの後を追うように俺も眠りについた。



 ---



 翌日。

 入学式が行われる大講堂に俺とユウキは足を踏み入れる。まだ入学式までは40分あるため、生徒の数は少ない。


「……おい、アレ……リザードマンだ」

「……気色わりぃ」

「……追い出せよ。部屋が臭くなるぜ」


 耳に届く罵詈雑言。戴宝式を思い出すなぁ。


 これぐらいの陰口ではもう全然ダメージが無い。段々とメンタルも強くなってきたものだ。

 陰口を言っているのは全員、帝国の人間だ。陰口言ってるどいつもこいつもが制服の背広の紋章が帝国のもの(鎧騎士の絵)だからな。


 生徒が纏う制服にはそれぞれ出身の国の紋章が背広に刻まれている。ユウキはセレ王国に所属しているためセレ王国の紋章(神竜の絵)、シルフィード聖国の紋章は聖樹セフィロト(シルフィード聖国にある大樹。世界樹とも呼ばれる)の絵で、ガガ魔導国は魔導国らしく杖の絵だ。


 どの国の出身かわかるようにしているのは余計な揉め事を起こさないためだろう。国によってタブーな部分が異なるからな。相手がどの国に所属するかである程度対応や言動は変えなくてはならない。たとえば帝国の人間はヒューマン至上主義だから異種族の存在は関わらないようにしないとならない。俺も帝国人とはなるべく関わらないよう心掛けている。


 陰口には慣れたものの、俺のせいで評価を落としてしまっているユウキには申し訳ない気持ちだ。


「悪いなユウキ……俺のせいで悪目立ちしちゃってさ」

「今更気になりません。悪目立ちには慣れっこですから」


 ユウキは帝国の人間を小馬鹿にするように微笑んだ。この子、昔に比べて表情が豊かになってきたな。気も強くなった。嬉しい限りだ。

 さすが若者、成長するのが早いね。


「守護騎士は後ろで立ち見みたいだから、ここでお別れだな」

「はい。おとなしく、静かに見守っていてくださいよ?」

「人を聞かん坊みたいに言うな」

「この前の戴宝式であなたが起こしたこと、お忘れですか?」


 それを言われてしまうと何も言い返せない。


「言いつけ通り、おとなしくしています……」

「お願いします」


 ユウキは椅子の並ぶ生徒席へ、俺は生徒席の後ろにある守護騎士の立ち見スペースへ行く。

 守護騎士は生徒と違い、入学式への出席義務はない。途中退席、途中入場、どちらもOKだ。立っているのに疲れたら部屋を出て適当なところで休んでいていい。


 俺は帝国の人間が集まっている場所を避け、なるべく人がいないところへ行く。帝国人でなくともリザードマンに好んで近寄ってくる奴はいない。入学式の時間が迫り、人口密度が増えてきても俺の周囲2メートルほどはポッカリ空いていた。風通しが良くていいけどね。


「おはよ。ダンザ」


 孤立している俺に、褐色エルフが声を掛けてくる。


「ロゼ。てっきりお前はサボると思ってたよ。こういう堅苦しいの苦手だろ?」

「まぁね。でも私の担当している子、シルフィードの王女様だから目を離すわけにもいかないのよ」

「王女!?」

「そ。ほらあの子よ」


 ロゼの指さす方を見る。

 白肌金髪のエルフだ。とても上品そうな立ち振る舞いをしている。


「王女と言っても継承権33位の末端の子だけどね」

「シルフィードは女性優勢の女王国家だったよな。33位ってことは、第33王女。今の女王の33番目の娘ってことか」


 エルフの寿命は300歳ほど。死ぬまで若さを保つため死ぬまで子を産むことができる。だから娘が33人いてもおかしくないのだ。


「あなたの担当は?」

「先頭にいる白と黒のツートンカラーの女の子だ」

「ああ。あの子……え!!?」


 ロゼは驚き、目を擦った。


「どうした?」

「あの子……二重人格か何か? 魂が二つ見えるし、片方の魂えぐいんだけど」


 エルフは魂を観測できる。恐らく、アルゼスブブの魂を観測したのだろう。

 もっとも、エルフとはいえロゼぐらいの手練れじゃないとアルゼスブブの魂まで観測するのは不可能だろうけどな。


「さぁな。人格がもう一つあるとか聞いたことない。気のせいじゃないか?」


 とぼけてみるも、ロゼは俺の言うことを信じてないみたいだ。ジトーっと俺の顔を見た後、ため息をついて腕を組んだ。


「んなぁ!?」


 視線の先、ドクトがこっちを見て大げさに驚いた。

 ドクトは俺の横にいるロゼに駆け寄ってくる。


「な……なんだこの美人エルフは!?」

「俺の旧友のロゼだ」

「よろしく」


 ドクトは俺の喰肉黒衣スカルベールを引っ張る。


「ちょいちょい! ダンザちょい!」

「なんだよ」


 ドクトは俺を引っ張りロゼから距離を取った後、肩を組んでコソコソ話を始める。


「やべぇよ、ドンピシャだよ。俺の性癖にスーパーヒットだよ!! アンタ、あの人とどんな関係だ!?」

「さっきも言ったが旧友だ。昔、一緒に冒険してたことがある」

「マジか!」

「ちなみに、アイツも俺たちと同じ寮だぞ」

「マジんか!! ああ……ポーン寮で良かった。本当に良かった……!」


 昨日と言ってることが真逆だな……。

 ドクトはコホンと咳払いし、キメ顔でロゼに向かっていく。


「俺はドクト=レーム。22歳独身デス! よろしく!」

「私は144歳の独身よ。名前はロゼッタ。ロゼって呼んでね」

「144歳ですか。全然お若く見えます。具体的に言うと20歳ぐらいに!」

「よく言われるわ」


 そりゃエルフだからな。

 カランカラン、とチャイムが鳴る。どうやら入学式の時間がきたようだ。

 俺はドクト、ロゼと並んで立ち、入学式を見守る。




 ――――――――――

【あとがき】

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