第五十話 守護騎士チーム結成

「今年は大変ね」


 入学式に飽きたのか、ロゼが口を開く。


「あぁ~。確かに、パラディンクラスはちと面倒だよな」


 ドクトがウンウンと頷く。俺には何の話かサッパリだ。


「大変? なにが?」

「あなた知らないのね。今年のパラディンクラス、王族が四人もいるのよ」

「四人も!?」

「ええ。シルフィード聖国第33王女ポーラ=シルフィード。ラヴァルティア帝国第2皇女ノイシェ=ラヴァルティア。ガガ魔導国第3王女ルル=ガガ。そして――セレ王国第1王子ユーリ=セレフィス」

「ユーリ様もいるのか!?」

「これぐらい調べておきなさいよ。ちなみに、あなたのお姫様の隣に座っているのがユーリ様よ」


 ユウキの方を見ると、ちょうどユウキがユーリ様に話しかけられていた。ユウキはぎこちない動きで応対している。王子相手に緊張しているみたいだな。

 ユウキはこのこと知ってたはずだよな。教えてくれてもいいのに……もしくは当然知っているモノだと思っていたのかな。


「ユウキぃ……無礼なこと言うなよ……!」

「大丈夫だろ。あの子はラスベルシア家のご令嬢の中じゃ一番礼儀正しい。心配なのはウチの悪ガキだぜ……」


 ノゾミちゃんは良くも悪くも誰に対しても正直で真っすぐだからな。王子相手でも物怖じとかしないイメージではある。アイはまぁ、目上の人間に対しては猫被るだろう。

 そういや、アイはいるけどその守護騎士であるハヅキの姿が見えないな。


「ふぁーあ。さすがに形式通りの挨拶ばっかで飽きてきたな」


 ドクトは集中力を切らし、欠伸を漏らす。

 入学式も中頃、俺も肩が凝ってきた。

 少しばかり姿勢を崩そうとした時、背中をツンツンとつつかれた。

 振り返ると、メイド服の少女――ハヅキがいた。


「……すみませんダンザさん。声を出さず、一旦外に来てくれませんか?」


 その言葉を聞いていたドクトとロゼは空気を読み、ハヅキに対してリアクションをしない。ハヅキは思いつめた顔をしている。只事じゃなさそうだ。

 俺は小さく頷き、ハヅキの背を追う形で大講堂から出た。

 大講堂から距離のある、人気のない第17校舎の廊下にて、話を聞く。


「なにがあった?」

「……私が昔所属していた暗殺部隊カクレ。その構成員を今日の朝、見かけました」


 暗殺部隊カクレ。ハヅキが以前所属していたどんな暗殺も金次第で受ける凄腕の暗殺者集団。

 そんなのを見たとなっちゃ、気が気でないだろうな。


「聖堂院の人間にはそのことを伝えたのか?」

「いえ。確証があるわけではありませんし、見間違いの可能性も高いです。それに……」

「それを説明すると、お前が暗殺部隊に所属していたことがバレちまうか……」


 カクレの構成員の顔を知っている、となればハヅキの素性を隠すのは難しい。

 ハヅキは言わば前科持ちだ。非合法の暗殺部隊に所属していたとバレればカムラ聖堂院から追い出されかねない。


「状況次第じゃ聖堂院の手も借りないとならない。それはわかってるな?」

「はい」


 ハヅキの身を案じ、聖堂院にこのことを隠したまま誰かが暗殺されるのは最悪だ。


「とりあえず初動だけは俺たちだけで動こう。手が足りなさそうなら聖堂院に報告、協力して敵を捕まえる」

「了解です」

「相手の名前、容姿、見かけた場所は?」

「名前はジェイク=ブラッドリー。オールバックで、頬に傷があります。幹部クラスでA級冒険者並みの力を持ちます。見かけた場所はクイーン寮の前。私は四階の窓から正面の倉庫に隠れている彼を見ました。距離があり高低差もあったので、違う可能性もあります」

「どこに行ったかわかるか?」

「いえ、あちらもこっちの気配に気づいたのか、私が見るとすぐに身を隠しました」

「ユニークスキルは?」

「ユニークスキルは『影分身シャドウコピー』。自身の影を立体化させ、動かすユニークスキルです。影の実力は本人の実力に比例します」


 ドクトのユニークスキルと同系統だな。あっちは無生物対象だったが、こっちは自分だけ対象か。


「俺は正直、こういう捜索向きの能力を持っていない。応援を呼ばせてくれ。その辺の能力に長けた奴がいる」

「応援ですか。相手が相手なので、中途半端な実力の人間だと足手まといになりますよ」

「その辺りは心配いらない。な? そうだろ」


 俺たちの会話を、隠れて聞いていた二人に声を掛ける。

 廊下の曲がり角から男女が現れる。俺たちが大講堂を去ってから後をついてきていた槍兵と褐色エルフだ。


「あーらら、バレてたか」

「まさかダンザ坊やに尾行を勘づかれるとはね」


 親し気なロゼのセリフに思うところがあるのか、ハヅキはムッと眉間に繭を寄せた。


「ドクト様はともかく、あのエルフの方は何者ですか?」

「ロゼッタ。俺の旧友で、こういう時に頼りになる奴だ」

「ロゼって呼んでね。可愛いお嬢さん」


 ロゼがポンポンとハヅキの頭を叩く。ハヅキは「やめてください」とロゼの手を払う。


「可愛いわね~。ほっぺたにチューしたい」

「相変わらずのロリショタコンだな。今は自重しろ」

「んなっ!? ショタコン!? そんじゃ俺にチャンスは……いや、エルフから見たら俺はまだまだショタの範囲内か!! なぁダンザ!!」

「話を脱線させんな! 今は無駄話してる状況じゃない。――ロゼ。妖精魔法で追跡できるか?」


 ロゼは手でOKのサインを出す。


「特徴がわかってれば十分。任せなさい」




 ――――――――――

【あとがき】

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