第三十三話 珍客

 夜。

 俺はユウキの部屋に来ていた。今日、ハヅキから聞いた片腕の無い男の話をするためだ。

 俺の話を聞くと、ユウキはコーヒーを飲む手を止めた。


「そんな怪しい男を部屋に入れるなんて、お父様らしくありませんね」

「……」


 俺が黙っていると、ユウキが顔を覗き込んでくる。


「? 誰か思い当たる人物でもいるのですか?」

「いや……」


 知り合いに一人いるが、まさかな。そんなわけない。アイツがここにいるはずがない。


「外部から雇った殺し屋とかじゃないのか?」


 俺の問いにユウキは頷く。


「現状、それに類した存在である可能性が高いですね」


 どんな相手だろうが倒す。そのためにあの神竜の中でジックリ修行したんだ。自信もある。負ける気はしない。

 でもなんだ……この胸騒ぎは。なんだか嫌な予感がする。


「ユウキ」

「なんでしょう」

「今日から出発の日まで一緒の部屋で寝ないか?」

「ごほ!」


 ユウキは咳き込み、口に含んだコーヒーを吐いた。


「おいおい、はしたないぞ」

「あなたが変なことを言うからでしょう!」


 ユウキは頬を赤く染めている。

 さすがに年頃の娘か。相手がリザードマンだろうと、異性と同じ部屋に眠ることに抵抗はあるよな。


「一緒の部屋の方が護衛しやすいから、同じ部屋で寝た方がいいと思うんだがな……」

「今回、狙われているのはあなたでしょう? 私を守る意味がありますか?」

「それは……そうだな」

「むしろ、私が近くにいると足を引っ張ることもあるでしょう」

「さすがにそれはない。お前は優秀だ。俺の枷になることはない」


 と正直に言うと、ユウキは頬をさらに赤くする。


「……それは嬉しい評価ですけど、同じ部屋で眠るのは……」


 もじもじとするユウキ。

 無理強いはせず、俺は引き下がる。


「わかった。やめておこう。悪いな、変なこと言って」

「いえ」


 過保護が過ぎたな。主人と従者の関係を越えた発言だった。反省だな。


「でも日中はなるべく一緒に行動してほしい。買い物に行くにしても、ガーデニングするにしてもだ」

「わかりました」


 話を終え、俺はユウキの部屋を出る。

 自分の部屋に戻り、刀を抱いたまま俺は横になる。


「……ザイロス……」


 左腕のない男、その特徴に該当する人物を俺はアイツ以外に知らない。

 ザイロスは執念深い男だ。ここまで俺を追ってきた可能性も僅かだがある。

 だが……もし来たとして、アイツになにができる? ただでさえ実力に差があるのに、さらに片腕を欠かした状態で、聖剣もない状態で俺に勝てるはずがない。さすがに勝ち目のない勝負を挑むほど馬鹿じゃないはずだ。

 気にするだけ無駄か。来たら叩き斬るまでだ。



 ---ユウキの部屋にて---



 ユウキは部屋で一人、読書をしていた。


「なぜ……私は……」


 文字を瞳に映しているだけで、ユウキの手はまったく進んでいない。


(一緒の部屋で過ごすこと。それが最善だとわかっているのに……なぜ私は拒否したのでしょうか)


 ユウキは、先ほどのダンザの提案を突っぱねた自分に疑問を抱いていた。

 ダンザに対し、怖いという感情はない。むしろ逆、安心感がある。なのにどうして、同じ部屋で眠ることを拒否してしまったのか……考えど考えど、答えは出ない。


「みっけ」


 その答えの出ない悩みを抱いていたせいで、彼女は扉から部屋に侵入してきた男に気づかなかった。


「!?」


 気づいた時には口を塞がれていた。素早い動き。ユウキとは違うレベルの人間。

 口を塞がれてすぐに急激な眠気が襲ってくる。


(この香り……! 睡眠を誘う薬……!?)


 ユウキは眠る直前、振り向き、侵入者の姿を見た。

 その男は包帯を全身に巻いていて、その上から黒く、長い服を纏っており、左腕がなかった。

 男は口角を吊り上げ、笑う。


「……はじめようかダンザ。俺とお前の、パーティをさぁ……!」



 ――――――――――

【あとがき】

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