第三十二話 心は別ですよね?
とりあえずアイとハヅキには帰ってもらい、ユウキには明日事情を話すことを約束して俺は寝た。
ハヅキ襲撃事件から一夜が過ぎ、早朝。俺はユウキに、俺の命が当主に狙われていること、その刺客としてハヅキが送られてきたことを話した。
「そういうことですか」
ユウキはモーニングコーヒ―を一口入れる。ユウキの口がコーヒーで埋まっている内に、俺は先手は打つ。
「アイと同じように逃げろとは言わないでくれよ」
ユウキはため息混じりに、
「あなたは逃げろと言っても逃げないでしょう。それぐらいはわかっています。こうなったら仕方ありません。カムラ聖堂院に入学するまでの間、お父様の刺客を跳ねのけましょう」
「そうこなくっちゃ」
「ヤマタノオロチとフェンリルに屋敷の見張りをさせます。ヴァルジアにもこのことを共有して警備を強めましょう。多少とはいえ、この屋敷も罠の
誤って俺が罠を起動させないために俺はユウキより罠の位置と種類を聞く。
「ただこの屋敷の設備をお父様が知らないはずがないので、罠は気休め程度です。そもそも、あなたなら魔神でも出てこない限りやられることはないでしょう」
「まぁ、あの戴宝式に来てた連中には誰一人負ける気はしないな。唯一、ドクトだけは未知数だけど」
心配ご無用というか、正直なんの対策もいらないかな。
狙われているのがユウキならともかく俺だからな。
「話は終わりだな。すまないが、ちょっとばかし本邸に行ってくる」
「なにか用事があるのですか?」
「お見舞いだ。ハヅキのな。なんかアイツ、風邪引いたらしい。さっきヴァルジアさんが言ってた。昨日雨に濡れてたからなぁ……」
「気を付けてくださいね。あそこはあなたの敵ばかりだということを忘れずに」
「大丈夫。刀はちゃんと持っていくさ」
手ぶらでもそんじょそこらの刺客に負ける気はしないけど。
---
本邸の一階、医務室。
そこのベッドにハヅキはいた。ハヅキは上半身を起こしており、ハヅキの膝の上ではアイが涎を垂らして眠っていた。夜通し看病してたんだろうな。
「ダンザ……さん」
「よう」
俺はアイを隣のベッドに寝かせ、アイがさっきまで座っていた椅子に腰を掛ける。
「調子はどうだ?」
「平気です。コンバートで免疫力を下げたまま、雨を浴びたのが間違いでした」
コンバートの対象は免疫力にも及ぶのか。俺が思っている以上に効果対象の幅は広いみたいだな。
「身の振り方、もう決めてあるのか?」
「もちろん、アイ様の守護騎士を続けます。私がついていないと心配ですから」
ハヅキが笑顔を見せた。あの無表情で一切表情を動かさなかったハヅキがだ。
顔の血色もいい。
心配はいらなそうだな。
「元気そうでよかったよ。それじゃ、うるさいお姫様が起きる前に逃げようかな」
「あ、ダンザさん。少し話したいこと、聞きたいことがあるのですがよろしいですか?」
「ん? どうした?」
「ダンザさんは……歳の差はいくつまで許容範囲内ですか?」
「……は?」
質問の意図がわからない。なにを聞いているんだこの子は?
「えっと、質問を変えますね。年下は恋愛対象として見れますか?」
「えぇ? いや、別に見れると思いますけど? それがどうしたの?」
「人間は恋愛対象ですか?」
「恋愛対象です。え? さっきからなにを聞いているんだ?」
「私、どうやらあなたに惚れたみたいです」
「はぁ!!?」
大声を出してすぐ口を手で塞ぐ。後ろのベッドで寝ているアイが「うぅん……」と寝返りを打つ。
「……なに言ってんだ。俺はリザードマンだぞ。しかも歳は38……じゃなくて39のオッサンだぞ!」
「大事なのは外見でも歳でもありません。私、強い人が好きなんです。あなたは強く、そして優しい。惚れて当然です。実は戴宝式の時から気にはなっていたんですよ」
目がマジだ。冗談とかじゃ無さそう。
「私、暗殺に失敗したの初めてなんです。だからですかね、意地でもあなたを殺したくなったのです。もちろん物理的にではありませんよ? 悩殺、という言葉をご存知ですか?」
女性が男性をその魅力で落とすことを、悩殺と言う。
「私はどう足掻いてもあなたの体を殺せません。でも……心は別ですよね?」
ハヅキは小悪魔のようにクスりと笑う。
「考え直した方が良いと思うよ……」
「さすがに14歳はダメですかね?」
「ダメだね。君に手を出したら俺は犯罪者だ」
「この国では14歳から結婚できるはずですが」
「そういう問題じゃなくて!」
「14歳とはいえ、私、結構発育がいいので、ロリコンってことにはならないと思いますよ?」
なるよ! 十分なるよ!
確かに胸とか大きいし、顔もキリっとしてるけど、全然幼いって!
「返事はまだいいです。これからゆっくりと口説いていきますから。あなたが私の最後の
ハヅキは美人、というか美少女だ。まつげ長いし、肌は綺麗だし、体は引き締まっているし、出るとこ出てるし。首元まで伸びている黒髪も艶があって色気がある。
でも14歳らしい幼さが所々にちゃんとあって、俺のような成熟した女性が好きな人間からすると、やはり恋愛対象としては見れない。つーか14歳って守る対象であって、あれこれする対象として見れないっての!
ここは逃げるが吉だな。逃げて、それ以降は知らんぷり大作戦だ。
「じゃ、じゃあ俺はこれで失礼する!」
「あ、待ってください! まだ話があります」
ハヅキが手を掴んで止めてくる。
その顔はさっきまでと打って変わって真剣なものだ。
「実は以前に、ゾウマ様……ご当主様の部屋に、ある不気味な男が入っていくのを見たのです」
「不気味な男?」
「はい。一応、共有しておきます」
ハヅキはその特徴を言う。
黒装束で包帯まみれ。それでいて左腕のない男。
俺の頭にはある人物が浮かんでいた。
――――――――――
【あとがき】
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小説家になろうでも連載中です!
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