第十二話 守護騎士選抜試験

 ギルド本部の地下で一夜を過ごした後、俺は招待状に書かれた場所に来た。

 とんでもない豪邸だ。城だな。ちっちゃめの城。そういやずっと街のど真ん中にあったなこの城。ラスベルシアの別邸だったのか。


「お待ちしておりました」


 門を開け、出迎えてくれたのはヴァルジアさんだ。


集まっておいでですよ」

「皆様?」


 豪邸の一階、パーティ会場のような部屋。

 俺はそこにいる面子に驚かされた。


 ギルド・雪園の白竜スノードラゴンギルドマスター、雪魔法使いのハッカ=フーロ。同じく雪園の白竜スノードラゴン所属の大剣使いフロート=アッシュ。

 ギルド・幾億千剣ミリオンサウザンドギルドマスター、炎属性と水属性の双剣を使うツインツィール=チェルド。

 ギルド・鬼師団(きしだん)ギルドマスター、鬼使いのランボ=ベッジ。およびその弟二人、リンボ=ベッジとルンボ=ベッジ。


 そんでウチの現ギルドマスター、ザイロス。プラス配下のカリンとムゥ。

 他にも俺の知らない奴らがちらほらいるが、全員その立ち姿から実力者とわかる。間違いない。ここにいるのはクロッセル中の猛者たちだ。


「ちょっ!? なんでアイツがいるんだ!?」

「……不快ですね」


 俺に気づいたカリンとムゥが難色を示す。


「ちっ」


 ザイロスも苦虫を噛み潰したような顔だ。

 他の連中もリザードマンの俺に興味津々だ。気味悪がる奴もいれば、舌なめずりする奴とか、拳を鳴らす奴とか、口角を上げる奴とか……さすがに猛者だけあって、ただ怯える奴はいないな。


 と、挨拶する間もなく、本日の主役の登場だ。

 黒と白の織り交ざった長髪をたなびかせながら、彼女は全員の前に立つ。


「皆々様、本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。私がラスベルシアの子女、ユウキ=ラスベルシアです」


 ザイロスが口笛を鳴らす。それに釣られて、ユウキの容姿に惹かれた連中が汚い言葉……ナンパ文句を口にする。が、白髪のマッチョ老兵ハッカが床を踏み鳴らすと、全員が静まり返った。


「非礼はやめろ蛮族共。場を弁えろ」


 ハッカの一喝。全員が沈黙するが、ザイロスだけは懲りずに舌打ちした。


「すでに知っている方もいらっしゃると思いますが、私はこの春よりカムラ聖堂院に入学します」


 カムラ聖堂院!?

 この世界における最大の学院だ。多くの王、英雄を輩出してきた。

 稀代の天才、もしくは大貴族しか入学できない場所だ。

 そして確か、あそこは変な校風が一つあったはず。


「ですが、未だに学院に連れていく付き人――守護騎士が決まっていません。今日はその守護騎士候補となる方々に集まっていただきました」


 守護騎士。

 カムラ聖堂院に生徒と共に所属し、常に生徒に付き添い手助けをする。

 カムラ聖堂院には王族や英雄の子など、悪党共にとっては喉から手が出るほど攫いたい連中が多い。ゆえに護衛として一人連れてくることを認めているのだ。


「守護騎士に求められる能力は様々……主を導く知力、情報を探る諜報力、他の人間を篭絡する魅力、はたまた主を世話するための家事力など。主によって騎士に求める能力は異なります。私が求めるのは――」


 ユウキは鋭い眼光で俺たちを見る。


「純粋な戦闘力です。性別、種族、年齢、経歴、一切関係ありません。最も強い方を、私の守護騎士にしたい」


 だろうな。

 ここにいる人間で礼儀正しい者や知的な者などいない。

 強さ以外、取り柄のない連中の集まりだ。無論、俺も含めてな。


「私の守護騎士となった暁には我がラスベルシアが叶えられる限りの願いを叶えましょう。守護騎士となれば3年間は私の付き人です。断るという方は退出してください」


 来た! 絶好のチャンス!

 俺が守護騎士になって、告発状をラスベルシアから出して貰えればザイロスをリコールできる。これを逃す手はない……!


 ユウキは一分待つが、誰も退出はしなかった。


「では早速、どうやって一人を選出するかを発表します。実は都合の良いことに、近くにホール型の迷宮が自然発生しました。こちらの迷宮の主を倒した方を守護騎士に任命します」


 迷宮には三つの型がある。塔のような形をしたタワー型、地下を侵食する形で迷路を構築するホール型、巨大生物の姿で誕生するクリーチャー型。

 ホール型の特徴はトラップの多さ。落とし穴、仕掛け矢、天井落とし。まるで人が作ったかのような陰湿な罠が多く張り巡らせており、道は複雑で、魔物も出る。最下層には迷宮の主がいて、これを倒すと迷宮が消失する。


 迷宮には宝物も多く存在し、資源となりえるが、迷宮から魔物が溢れるためいち早く駆除するのが常だ。


「質問でーす」


 ザイロスが手を挙げる。


「どうぞ」

「主を倒した証拠とかってどうするんですか? なにか証拠が無いと誰が主を倒したかわからないですよね?」

「迷宮の主を倒した時、倒した者に宝器が与えられます。迷宮攻略で得たその宝器は世界に二つとない物、これを攻略の証とします。朝の7時から12時まで、私はこの場所で待っています。私に宝器を渡した者を合格とします。それ以外の時間は持ってきても受け取りません」


 こりゃつまり、迷宮をクリアして宝器をゲットしても、ここに持ってくるまでの間に他の人間に取られたらダメってことか。

 もし夜とかに迷宮クリアしたら夜明けまで一切気を抜けないな。


「ちなみに模造品などは持ってきても無駄です。こちらには鑑定のプロがいます。人を雇う、仲間を使うなどの行動に対しては制限を掛けません。人脈は好きに使ってください」


 なぜか、ユウキは俺の方を見てきた。


「……真の強者ならば、如何なる苦難も払いのける」


 なぜだかその言葉は俺に向けられていた気がした。

 きっと勘違いだけど、例え相手が多数でも例え策略に嵌められても、あなたなら越えられると、そう言われている気がした。


 ……そんなわけないのにね。


「最後に原則として街中での戦闘は禁じます。これに反した場合は敗退とみなします。ではこれにて守護騎士選抜試験、開始とします」


 ユウキは場を後にする。

 この試験は早い者勝ちだ。だけど誰も焦って部屋を出ようとはしなかった。

 迷宮攻略は通常、街の最高戦力を集めて行うものだ。甘く見てはいけない。準備もせず挑むのは無謀である。


「おい爬虫類」


 ザイロスが話しかけてきた。懐かしい、いやらしい顔つきだ。


「……どうしました? マスター」

「手を組もうぜ。同じギルド同士なぁ」




 ――――――――――

【あとがき】

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何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!

小説家になろうでも連載中です!

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