~エピローグ~
「それじゃあ、ぼ……私はこっちのバスなので、失礼しますね」
「ほーい」
「春日さん、さようなら」
軽くお辞儀をすると、それぞれのスクールバスに乗り込む。バスに乗り込んでから数分後、緋織は深いため息を吐いた。
「どうしたんだ、お前。浮かない顔しながらため息なんてついて」
「……今日の五限目を無断欠席したことに、気が重いだけです」
「あぁ。でもあれ、人命救助のためって言ったら納得してくれたじゃねぇか。なーんでか、あたしだけは信じてくれなかったけど」
「それは、幸村さんの普段の行い……あ、いやなんでもないです」じとりと睨まれ、目線を逸らしながら口早に誤魔化す。
「と、とにかく、なんとか先生は説得できましたけど、なにより心配なのは両親で……」そこまで言いかけ、緋織は顔を曇らせて口をつぐむ。
その様子を横目に見ながら、鬱屈とした空気を吹き飛ばすかのように、氷咲は彼女の背を平手で強く打つ。
「イッ⁉︎」
思ったよりも痛かったのか、食いしばった歯の奥から、捻り出すような声を上げる。周りの目を一身に受けた緋織は、羞恥心にどんどん赤くなる顔で、キッと氷咲を睨む。
頬を膨らませて、緋織はぽこぽこと怒り出す。謝ろうとも許す気はないと言わんばかりに、そっぽを向く彼女の頬を突きながら謝罪するが、氷咲は余計なことまで口にしてしまった。
「悪かったって。謝ってんだから、そんな赤大福みたいになるなよ」
「あかだ……! もう、絶対許しませんから!」
更に赤くなった顔と赤い髪、まるで林檎のようだと思いつつ、これ以上怒らせまいと口を噤む。
しかし、バスを降りるまでは、一切口を聞いてくれなかった緋織であった。
―了―
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