2-6 パーティメンバー
右拳から強烈な光が漏れだし、委員長とアメリアがこちらに振り返る。
――お金が、足りません。
えええ? 魔石じゃダメなの!?
――魔石を円に変換し、<散財>を発動する事は可能です。しかし手数料がかかるため相場より不利なレートとなりますが……それでもよろしいですか?
換金レート管理してるスキルって、どういう仕組みなんだよっ!
てゆーか、不利ってどれくらい不利なんだ⁉
――詳しくは、平日午前四時にアップデートされる<散財為替レート表>をご覧ください。各国通貨と魔石の大きさに対応した……。
もういいよ! どうせ見ても分かんないから、とにかく魔石でやってくれ!
――分かりました。スキル発動に必要な魔石を確認しました。発声をお願いします。
「二人とも! こいつは俺からのおごりだ。受け取れ、<散財>!」
ナデコが取り分けてくれたほとんどの魔石が、光の粒となって消え失せる。
それと同時に、委員長とアメリアを中心に小さなボトル類が宙を舞った。
「えっ、なっ? ……これ⁉」
「もしかして、これって!」
正直、俺にはよく分からんのだが……。
今回散財したのは、有名デパートの一階でよく見かける、化粧品の数々――ナデコおすすめスキンケアシリーズだ。
一応アイドルDストリーマとして活動していたナデコだけに、スキンケアには相当気を遣ってるそうで、女子垂涎のラインナップをいくつか教えてもらった。
ファイターとして人一倍、身体を動かすナデコが選び抜いたコスメは、同じ前衛職の委員長、アメリアも興味は持つはずーって話だったんだけど……。
ホントなんだな!
アメリアはバトルそっちのけで、宙に湧いて出た高級コスメを、落としてなるものかと受け止める。
委員長はアイギスをでっかい受け皿にして展開し、アメリアの手の届かない範囲のコスメグッズを優しくキャッチ。
「ダンジョンってさー、魔素の影響か、長時間籠ってると肌荒れしやすいんだよね」
そんな二人に近付くナデコは、化粧水とファンデーションを手に、その効能と使い方を語り始めた。有名デパート美容部員なみの丁寧な説明に、二人は真剣に耳を傾けている。
「これ付けてから、こっち付けるの。あ、それ結構いいヤツ。こないだキララんが絶賛してた」
「え、ホント?」
「おい、どれだ。あたし持ってないぞ」
「これ、貸したげる」
「鏡持ってる?」
女子三人、ボス部屋の地べたに車座になり、スキンケア講座が始まってしまう。
やれエスケースリーだ五生堂だ、男の俺には一ミリたりとも興味が湧かん。
それでもナデコの言う通り、いつの間にか事態の収拾はついたようだ。
:これはまぁこれで、良かったのか?
:やっべ、全然興味ないw
:<散財>って、なんでも出せるんだな……
:今度予約販売のプラモ、散財してくれよユウヘイ。
コメントニキたちも熱いバトルが中途半端に終わってしまい、冷めた空気が漂い始める。
同接数もすごい勢いで減ってくし……いくら喧嘩を止めるためとはいえ、あまりに代償大きすぎない?
そしてもちろん、最大の代償と言えば――、
「あああ、俺の魔石があああ……」
俺の取り分の魔石はほぼ、今回の<散財>で消え失せていた。
* * *
すっかり肌つやっつやになった三人と一緒に、第四階層に降りていく。
結局委員長とアメリアは、互いにスキンケアに悩む女子として、意気投合したようだ。
元々ヤクザとストリートギャングという、荒くれバックグラウンドを持つ二人だけに、腹を割って話せば共感できるところも多かったのだろう。
仲睦まじく話しながら階段を降りてく二人を見て、ナデコは得意げな顔を向けてくる。
「だから言ったでしょ? 昨日の肌荒れ今日のスキンケアって」
「昨日の敵は今日の友的に言うな。それにスキンケア、間に合ってねーじゃん!」
そうだったそうだったー、とお気楽に笑い飛ばすナデコ。
テキトーというかなんていうか……ナデコはホントに、不思議なヤツだ。
空気読めない不思議ちゃんかと思えば、二人に何を<散財>すれば仲良くなるか、瞬時に見抜いてしまう。
見方を変えればそれって、二人の空気が読めてたって事じゃない?
「ごめんね。ユウヘイの魔石、いっぱい使わせちゃって」
「まぁ、それはもういいよ。それより……ありがとな、ナデコ」
「なんだよー、惚れちまったかー? 彼氏いるぞ私ぃ!」
「マジで!?」
「うっそぴょ~ん。ここ二年くらいいないも~ん」
「それはそれで、アイドルが言っちゃダメなヤツー!」
:出た。ナデコの匂わせコイバナ。
:アイドルが自分の恋愛遍歴、語りだすなwww
:嘘かホントか、さっぱり分からねえw
ナデコの古参ファン――いわゆるナデキッズたちにとっては、いつもの与太話に過ぎないらしい。
それはそれでよく訓練されてるとゆーか……それでもナデキッズでいられるのは、ナデコの裏表ない性格や、マーシャルアーツの技術に惚れ込んでるからだろう。
階段を降りながらコメント読み上げ、相変わらず突拍子もない事を言い出すナデコは、いつも笑顔で楽しそうだ。
空気が読めない代わりに、普通のヤツじゃ絶対思いつかない発想を持っている。
それってDストリーマとして強みだろうし、俺も見習わなきゃなあ。さっきの<散財>だって、俺一人じゃ絶対あんな使い方思いつかないだろうし……。
お金さえ出せばなんでも出てくるんだから、俺ももっと、常識に捉われない<散財>をしていかなきゃいけないな。債務者だけど。
「ユウヘイくん、ナデコ」
先に階段を降りきった委員長とアメリアが、後ろの俺たちに振り向いた
「アメリアとも話し合ったんだけど……私たち、正式に二人のパーティメンバーに入れてもらえないかな?」
「あたしらも一緒の方が、より多く魔石を稼げるだろ? 上がりが良けりゃ委員長と分け合っても返済額は増えるって事で、さっきの化粧品代くらいは手伝ってやるよ」
「私はとりあえず、夏休みが終わるまでだけどね。できるだけ下層まで潜って、魔石稼ぎしてみようよ!」
委員長はともかく、アメリアの思わぬ申し出に、俺は目頭が熱くなってしまう。
隣を見るとナデコが「ふふっ、感謝しろぃ」と言わんばかりに腕を組み、片目を瞑って得意げな顔を見せる。
「こっちから、お願いしたかったくらいだよ。よろしくな委員長、アメリア」
「よろしくね、ユウヘイくん」
「バトルじゃ役に立たないんだから、索敵でキビキビ働け! 多重債務者!」
:イイハナシダナー;;
:この四人なら、ガチ勢パーティにも負けねえんじゃね?
:委員長がタンク。ナデコ、アメリアがファイターで、ユウヘイは……w
:ユウヘイは<散財>芸人。パフォーマー枠だな。金ないけどw
:そりゃ索敵くらいしねーとなw
コメントとアメリアに背中を押され、俺は仲間となった四人の先頭に立って、第四階層に足を踏み入れた。
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