2-4 コンビネーション

 イカラビのリンク解消を見計らってダンジョン内に戻ると、有識者のコメントを参考にしながら、<絶対領域アイギス>の検証をする事にした。


 まずは、強度。


 ナデコ得意の回し蹴りも、俺のドス突き刺しも、不可視の壁に阻まれ弾き返される。手で触れてみると弾力性のある透明マットのような触り心地で、とても何かで壊したり、斬り裂いたりできるものではないと感じる。


 次に、拡張性。


「イメージさえできれば、通路いっぱいに<アイギス>を広げる事もできるし、お茶碗くらい小さくする事もできるみたい」


 アイギスで造った器にイカラビの魔石を何個か入れて、嬉しそうに見せびらかす委員長。ナデコはまじまじ不可視の小物入れを見つめると、パッと紫眼を輝かせる。


「これでご飯食べれば、お茶碗洗わなくていいから便利だね」

「うんうん。お米が宙に浮いてるみたいに見えて、かわいいし!」


 空気読めないナデコと、意外と芸術肌の委員長――、


「じゃあお昼はアイギス弁当で……って、ダンジョンでご飯食べるの!?」


 どこかズレてる女子トークに、俺がノリツッコミを入れる。


「これ、小皿みたいにいっぱい出せないの?」

「うーん。アイギスをお小皿サイズにはできるんだけど、二個出しちゃうと最初の一個が崩れちゃうみたい」

「一汁三菜、アイギス食器で並べたらかわいいのに」

「もっと慣れてくれば、いっぱい出せるかも?」


:スキルは練度が関係してくる事がほとんどだから、そのうち複数個出せるかもね

:アイギス弁当……これは売れる!


 なら耐久性はどうなんだ? 俺やナデコの攻撃は弾き返せても、魔物のトンデモパワーを喰らったら、すぐに崩れちゃうかも?

 ナデコも同じ事を思ったのか、ダンジョン奥を指差した。

 

「次は、アイギスでフロアボスの攻撃が受け止められるか、試してみよう。向こうにいるから案内するよ」

「うん。でも、あの、猪高くん。そろそろ紹介してくれると、嬉しい……かな?」


 そういえば、委員長とナデコは初めて会ったんだっけ。

 改めてナデコを紹介しようとするが、俺も知り合ってまだ二日目。昨日一緒にデビラビを倒した、元アイドルのDストリーマって事だけ紹介した。


「あの、よろしくお願いします! 私、委員長って呼ばれてるけど本当は――」

「ああっ、ああっ! 本名はダメだよ! 配信してるから!」


 慌てた俺に「あ、そっか」と口元を両手で隠すと、委員長は改めて自己紹介する。


「猪高くんのクラスで委員長してる、ホナミです。よろしくね、ナデコさん」

「ナデコでいいよー、私も委員長って呼ぶから」

「そこはホナミじゃないんですか⁉」

「ユウヘイが委員長って呼ぶなら、委員長。ホナミって呼ぶなら、ホナミ。ここはユウヘイのチャンネルなんだから、チャンネルオーナーに統一した方が視聴者さんも分かりやすいんじゃない?」


:珍しく俺たちを気にするナデコ

:いっいんちょ☆彡 いっいんちょ☆彡

:名前呼びイベントは、後に取っておくのがよいでござるよ


 委員長は頬を赤らめ、モジモジしながら俺を見つめてくる。


「じゃあ私も……ユウヘイくんって呼んでいい?」

「もちろんだぜ、委員長!」

「よろしくねー、委員長!」

:いっいんちょ☆彡 いっいんちょ☆彡

「私って、やっぱり委員長呼びから離れられないのっ!?」


* * *


 フロアボスとは、各フロアの下層階に通じる部屋を守るボスの事だ。もちろん同フロア内で最強ランクの魔物が配置されている。


 第一層のフロアボスは、マジギレラビット。

 昨日のデビラビより数ランク劣るウサギ系魔物で、<兎特攻>を持つナデコなら楽勝で突破できる相手だ。

 しかし今回は、委員長の<アイギス>がマギラビの攻撃を受け止め切れるかどうかがポイントとなる。


 しかし、そんな心配は杞憂に終わった。


 委員長の<アイギス>は余裕でマギラビの突進をガードすると、背後のナデコが攻撃をしかける瞬間、不可視の盾を解除した。

 ナデコ得意の後ろ回し蹴りがマギラビの頬を踵で捉え、一撃で魔石に変える。


 :すげえええ! タイミングばっちり!

 :【鉾盾】ナデコの相棒、ついに見つかる【コンビ】

 :ユウヘイ、出番なしwww


 ふん、分かってないな。

 このちょい下からナデコのハミケツキックを撮る、俺の撮影テクニックを!

 コメントも大盛り上がりで、視聴者数、チャンネル登録者数とも順調に伸び続けているようだ。

 手応えを感じた俺たちは、意気揚々と二層への階段を降りて行った。


 第二階層に入っても、ウサギの魔物がイヌネコの魔物になっただけで、そこまで一層と変わらない。ナデコも<兎特攻>じゃなくなった影響を感じさせないほど、簡単に魔物を倒していく。二階のフロアボスも余裕で討伐できた。


 第三階層の魔物は、シマウマ、イノシシ、モグラだった。絶妙に強くも弱くもない獣系魔物は、走り回るか突撃するか潜るかだけのワンパターン。

 どの魔物も<アイギス>の盾を打ち破れず、ナデコの蹴り技の前に沈んでいった。


 それにしても……初めて組んだとは思えないくらい、ナデコと委員長のコンビは完璧だ。

 オフェンスとディフェンスが嚙み合った攻防一体のコンビネーションは、三層クラスの敵でも危なげなく撃破できる。


 おかげで無一文スキルなし状態な俺の仕事は、有識者のアドバイスを参考に、いい角度で二人のバトルを配信に乗せる事くらい。


:ナデコたん最高、委員長の<アイギス>もバカ強い!

:ハマムスでやってた頃より、生き生きしてるな

:おい債務者、カメラワークニキの言う事しっかり聞けて、偉いぞw


 カメラマンとして成長を見せる俺に、いよいよ第三階層フロアボスが待ち構える。


 どう激熱アングルで撮ってやろうか考えつつボス部屋に入ると、広場に入って来た俺達を出迎えたのは……真っ赤な炎を両拳に宿す金髪碧眼のギャング娘。

 その傍には、消えかかっている三層フロアボスのガチギレイノシシが横たわる。


「てめえ……ダンジョン潜る時は連絡よこせと、あれほど言っておいただろおおおがあああ!」


 俺たちを見るなり、拳の火柱が天井を焦がす。

 いっけね。ダンジョン探索が楽しすぎて、すっかり連絡忘れてた。

 なんて言い出せないくらい……アメリアさん、めっちゃ怒ってるううう!

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