1-4 スキル獲得したけれど!?
「あ、もしもし? オレオレ。違うよ、詐欺師じゃないよ優平だよ」
ヨコハマダンジョンは、石造りの平た~い古墳のような形状をしており、その大きさは両辺約一〇キロメートル。東京ディスティニー・リゾート五個分もある。
「ちょっと気になる事があってさ。もし知ってたら教えてほしいんだけど」
出現した一年前、邸宅一軒程度の大きさだったダンジョンはどんどん膨張し、半年経つ頃には、北は中華街入口付近、西は国道十六号線まで。東と南はそれぞれ、湾岸道路ギリギリまで達するに至った。
実に横浜市中区の半分近くが、ダンジョンに飲み込まれてしまったのだ。
「どうやら俺、借金二億あるらしいんだけどさ。どうしてそうなったか、何か知らないかなっと思って」
付近の住民は住み慣れた家を追われ、不動産価格は暴落し、どこまで続くのかと皆が戦々恐々とする最中、ダンジョンの膨張はピタリと収まった。
ひとまず胸を撫で下ろす横浜市民と日本政府だったが、いつまた膨張し始めるか分からない。
ダンジョン探索と膨張の原因究明を急ぐ政府は、これまで禁止していた一般人によるダンジョン探索を解禁。全国の十六歳以上二十歳未満の若者に耐性検査を行い、耐性アリと認められた者のみ探索を許可した。
「あー、違うんだ。お金せびってるわけじゃなくって。だから詐欺師じゃないってば! ただ誰の借金なのかな~って、気になって連絡しただけで」
ダンジョンの東西南北には入口となる階段が設けられており、東口は一層、西口は四層、南口は七層、北口は十層への直通階段となっている。
いわゆるダンジョン配信者――通称Dストリーマは、エンジョイ勢とガチ勢に分かれ、一から九層までを探索をするのがエンジョイ勢、十層より下層に挑戦するのがガチ勢と言われている。
階層が深くなればなるほどより強力な魔物が出現し、倒せばその強さに見合った魔石が手に入る。彼らが持ち帰った魔石は全て管理局が買い取るシステムとなっており、これがDストリーマの主な収入源となっている。
「そっかー、毎日暑いもんね。うん。俺も毎日忙しいけど、そのうち顔出せると思うから。先生の言う事しっかり聞いて、ゆっくり休んでてよ。そんじゃね」
当然、初心者の俺は第一階層から始めるわけで。
スマホに付いた汗をジャージの裾で拭ってから、俺はダンジョン東口にあるDストリーマ管理局に入っていった。
* * *
スプレーでダンジョン大気を吸う耐性検査をパスすると、免責事項の書いてある書類にサインを済ませ、箱型の機械を渡される。
これは超高性能AIを搭載した自動追尾型ドローンで、Dストリーマは必ず、このドローンと一緒にダンジョン探索しなければならない。
ドローンは所有者に設定したDストリーマの行動を逐一記録または配信し、ダンジョン内で犯罪行為に及ぼうものなら管理局に通報。映像が動かぬ証拠となり即逮捕される。
ちなみに、記録のみか配信も行うかは各人に任されている。
記録のみとした場合、管理局によるチェックを受けた後アーカイブされるだけだが、配信を行った場合その視聴者数や投げ銭によって、副収入を得る事ができる。
つまりダンジョンの稼ぎ方は、魔石メインか配信メインかで、その性質は大きく変わる。
戦いが苦手なDストリーマは攻略なんてせず、ダンジョン内でなんらかの企画配信をしてチャンネル登録者数、視聴者数、投げ銭を稼げばいい。
その代わり、よほど人気のDストリーマにならない限り、食っていけるほどの収入は見込めない。
逆に戦いに自信のあるDストリーマは、信頼できる仲間とパーティを組んで、どんどん下層を目指せばいい。
凶悪な魔物と命を賭けたバトル配信は、自然と数字も上がっていく。倒した敵から得られる魔石と合わせれば、メンバーと山分けしても相当な収入になるはずだ。
もちろん、強敵によって全滅するケースもままあるが……免責事項に同意した上で危険な探索を行ったのだから、それは自己責任と言われても仕方ない。
最長でたった四年しか潜れないダンジョンを、どう攻略していくのか?
その判断は各人に任されるべきだし、その問いに正解はない。
自らの技量、授かったスキル、所属するパーティをよく考えて、許容できるリスクとリターンを見極める事こそ、Dストリーマ成功の秘訣なのだ。
――と、先輩Dストリーマの『今日から始めるダンジョン探索!』動画をスマホでおさらいした俺は、おっかなびっくりダンジョン東口の階段を下りて行った。
俺には、特技も経験も仲間もない。借金だけはたんまりあるが。
そんなヒキコモリ債務者が、ただダンジョンで配信してもほとんど稼げないだろう。
ここはやはり、魔物を倒し魔石を手に入れ、それを収入源とするしかない。
ドローンは俺の斜め後方を飛び、ビビリまくりな初心者Dストリーマを全世界に配信しているが……目の端に映るライブ視聴者数はゼロ。分かっていても、ちょっと悲しい。
まぁそんな事、今はどうだっていいさ。
この階段を降りきったら、いきなり本日最大の盛り上がりイベント――ダンジョンスキル授与が待ってるんだから!
もし<
そこまであからさまなスキルじゃなくても、即死ドスアタックとか、超強力大魔法とか、強いスキルならなんだっていい。
とにかく神様、お願いします!
借金二億のヒキコモリに、超絶超レア超チートを!
ラノベ主人公がもらうような、一見役立たないけど実は最強スキルを!
よろしくお願いします!
俺は両足揃えてジャンプすると、祈るような気持ちで階段下まで降りきった。
その瞬間、どこからか能天気なファンファーレが鳴り響き、獲得したスキルがズ
バーンと、俺の頭の上に浮かび上がった。
――スキル<
どおおおしてだよおおおっ!!!
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