この作品の視点は低い位置にある。
昆虫に滅ぼされた終末世界に取り残された
彼と彼女の旅は、自然の美しさの中で
滑走してゆく。
一つひとつのディテールが美しくも醜悪な
ミクロの世界を描き出し、それに加えて
胸苦しい程の愛憎が、壮大なポスト・
アポカリプスの物語の根底に控える。
これほどの『物語』に出会う事は、
そうはないだろう。
本作品は某『昆虫学の権威』に捧げられた
ものと記される通り、果たして詳細。
実は虫が苦手なのだが、それでも美しさに
促されながら、敬虔な心持ちで醜悪さへと足を踏み入れて行く。
終末世界を旅する彼らの、ラストの圧巻。
その美しい昇華はきっと、いつまでも心に
残る事だろう。