第2話 アパート『メゾン・ド・ショコラ』

 続いてアレクとアリスとフドウさんは、メインストリートを少し進んで次の内見場所に着きました。


 今度のアパートは『メゾン・ド・ショコラ』。チョコレートの家という意味の名前のアパートです。


 雪の白に包まれた銀世界に、ふとミルクチョコレート色の建物がありました。


「可愛らしい名前ですね。本当にチョコレートの香りがします」

「さすが、チョコレートホームですね」


 アリスの言うチョコレートホームとは、その名の通りチョコレートでできた住宅のことです。ウィンタフルは寒いので、チョコレートで建築しても溶けることがありません。


 ペペペン大陸でのチョコレート人気は異常なまでに高いのです。


 三食チョコレートのペンギン、チョコレートでできたお人形のコレクター、チョコレート細工のみの美術館。

 チョコレートうどん、チョコレート温泉、チョコレートの塔……。

 チョコレートの人口湖で湖畔浴を楽しめる有名スポットもあります。


 そのうちペペペン大陸には雪ではなくチョコレートが降るのかもしれませんね。


 もし誰かへのお土産に困ってもチョコレートを渡せばみんな笑顔になる、愛のお菓子。

 甘いものが苦手というペンギンでもなぜかチョコレートは好きという、奇跡のお菓子。


 それがペンギンたちにとってのチョコレートなのです。


 観光名所にはチョコレートの工場やカカオ農園もあります。

 この世界のカカオは寒さにめちゃくちゃ強いのです。アレクとアリスも、デートで何度か訪れたことがあります。


 アレクはビターチョコレート、アリスはホワイトチョコレートが特に大好きでした。


 それはさておいて。


「ただチョコレートホームは入居条件が非常に厳しいです。アパートの性質上火気厳禁、キッチンにお風呂とお手洗いは別棟の石造りの建物のほうに各部屋ごとに分かれてあります」


 フドウさんがちょっぴり難しい顔で説明します。

 つまり部屋ではお湯も沸かせない、料理もできないということなのです。確かにそれは不便そうですね。


「あらかじめ調べてはいましたが……厳しいですね」


 現状を聞いたアレクはううんと腕組みしました。アリスが疑問を質問します。


「チョコレートホームは住居者の入れ替わりが異常なまでに激しいと聞くんですけれど……やはり人気があるのと、規則が厳しいからでしょうか?」


「そうですね。チョコレート甘い誘惑により入居される方も多いですが、空き室だらけのアパートも多いです。ただ家賃はお安くできますし、災害時などで食べ物が必要な時には壁を食べることもできますね。ハマると一生ここで暮らすという方も結構いらっしゃいますよ」


 中はどこもかしこもとてもチョコレート。

 毎日うっとりしながら生活できそうなくらい甘い香りが漂います。お部屋もワンルームながらとても広いのです。

 これはハマるペンギンがいるというのもわかります。 


「わかりました。このお部屋については、ちょっと考えさせてください」


 そしてチョコレートホーム『メゾン・ド・ショコラ』に住むかどうかを決める前に、三件目の物件に行くことになりました。


 アレクとアリスはわくわくしながら、フドウさんのあとを付いていきました。


つづく

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