ペンギンさんの物件探し

七草かなえ

第1話 アパート『クリスタルパレス』

 お砂糖みたいに真っ白な雪と、透き通った氷に覆われた世界ウィンタフル。


 ペンギンたちの楽園ペペペン大陸のちょっと大きい街ゴンザレス・シティーにて、新居を探す青年ペンギンがいました。


 その青年ペンギンの名はアレクサンドロス。みんなからの愛称はアレクです。

 アレクにはとびきりキュートでコケティッシュな恋人がいます。彼女の名はアリストテレス、愛称はアリスといいました。


 ペペペン大陸のペンギンたちは全員、長めのファーストネームと愛称がセットであるのです。


 さて、アレクとアリスはよちよちと、不動産屋のフドウさんに連れられて二人で同棲するためのアパートの内見にやってきました。


 今日はまずは『クリスタルパレス』というアパートです。水晶の宮殿という荘厳なネーミングの割には、なんか普通のアパートみたいです。


「駅からすぐなんですね。帰りが遅くなってもこれなら安心です」


 アレクが微笑みます。これなら多少残業や飲み会が入っても、長く真夜中の暗い道を歩かなくて済みます。

 

 ウィンタフルには夜遅くになるとなんか不審なペンギンたちが出現するのです。

 コンビニの前でたむろしておでんを食べたり大合唱しているのはまだいいほうです。怖いですけど。


 きれいなお姉さんやお嬢さんを見て「へい彼女ォ!」と奇声を発したり、道路に勇者を召喚するため(という脳内設定の)魔法陣を描いたり、道行く者に片っ端から「君は実にいい目をしているねえ」と難癖(?)つけて決闘を挑んだり。

 不審なペンギンたちは、検挙にいとまがありません。


 アレクにもそんな不審なペンギンにまつわる記憶がありました。


「僕も少し前、帰り道で頭にネクタイ巻いた酔っ払いにしつこく話しかけられて大変でした」


「うわー。それは災難でしたね」


 アレクとアリスを先導しているフドウさんも、思わず苦い顔です。


「いきなり頭にレモネードかけてくるとかよりはまあマシなんでしょうけども、実際遭遇するとどれも厄介に変わりないですからね」

「それも実家のすぐそばだったんで最悪でした」


「家まで追っかけられたら大変じゃないですか」

「追っかけられましたよ。家の中まで」


「え、それアレクさん大丈夫だったんですかっ?」

「その酔っ払いは僕の父親だったんです。母にぶっ飛ばされてました」

「ああー。それは災難でしたね……」


 アレクとフドウさんが男性同士で盛り上がっている中、アリスは周囲をきょろきょろ見回しています。ゴンザレス・シティーのメインストリートにはおしゃれなカフェやレストランもあります。


「この辺りって、ラーメン屋さんないんですか?」

「駅に戻ることになりますね。醤油ラーメンのお店があります」

「いいですね」


 フドウさんから情報を得たアリスはよし、とうなずきました。


 そうこうしているうちに『クリスタルパレス』に到着しました。


 二階の部屋に向かいます。


「きれいですね。新築みたい」


 アリスが歓声を上げました。


「この部屋はまだ、どなたも入居されたことがないんですよ」

「あれ? このアパート建ってから何年か経ってますよね?」


 誰も入居していないなら事故物件というわけでもでもないでしょう。

「ええ……ここのアパートの空き部屋、かつては最初にヤの付く反社会的な方々のたまり場になっておりまして。何度も壁や床壊されて直してそんなに経ってないので真新しく見えるんです。なので正直私からはおすすめしにくいんですよね」


「…………え」

「…………ちょ、ちょっと僕それは困りますね」


「次、行きましょうか……」


 苦笑いするフドウさんに、二人も「はい」とうなずきます。



つづく

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