第7話 黄巾の乱
太平道の創始者、張角は天公将軍と自称し、黄巾の乱を起こした。
弟の張宝、張梁にはそれぞれ地公将軍、人公将軍と称させた。
張角は冀州鉅鹿郡の出身。そこで乱を起こして、冀州中を荒らし、やがて幽州へ移動した。
幽州刺史の郭勲と広陽郡太守の劉衛を殺害した。
豫州では波才が、荊州では張曼成が暴れ、黄巾の乱は後漢朝廷を震撼させた。
ときの皇帝、霊帝は何進を大将軍に任命して、首都洛陽を守らせ、盧植、皇甫嵩、朱儁を将軍に任じ、乱の平定に当たらせた。
劉備の師、盧植は幽州広陽郡へ向かった。
広陽郡は涿郡の東隣。
「盧植将軍はおれの師匠だ。軍に入れてもらおう」
劉備はそう言って、義勇軍を率いて、広陽郡へ行った。
盧植は四万の兵を擁していた。
劉備はわずか二百の兵力しか持っていないが、盧植は快く会ってくれた。
「先生、お久しぶりです」
「よく来てくれた。ともに戦おう。きみと同窓の公孫瓚もいるぞ」
将軍は従兵を走らせて、公孫瓚を呼んだ。彼はこのとき、涿県の県令となっている。
「公孫瓚殿、出世したなあ」
「おう。しかし、黄巾賊を倒さねば、おちおち県令もやっておられんからな。盧植先生のもとへ馳せ参じた」
「立派な心がけだ。おれも戦うよ。義勇兵を連れてきた」
「劉備もがんばっているじゃないか」
劉備は公孫瓚と握手した。
「公孫瓚、劉備、きみらは先鋒となってくれ。公孫瓚が先鋒隊長、劉備が副隊長だ」
盧植が命じた。
先鋒の一翼を任されて、劉備は武者震いした。
張角軍は十万の大勢力だった。後漢政府に不満を持つ農民が太平道軍に身を投じ、さらに膨れあがりつつある。
彼らは広陽郡の原野を西へ進んでいる。
盧植軍は東へ向かっている。
両軍は激突しようとしていた。
広々とした野原で、ついにふたつの軍は対峙した。
白馬に乗った公孫瓚が、「進め!」と叫んだ。
「関羽、張飛、行け!」と劉備も声をあげた。初陣である。
数では黄巾賊が圧倒していたが、盧植軍は健闘した。
関羽と張飛は、劉備が予想していた以上に強く、無敵のようだった。彼らが進むところ、血の雨が降り、敵兵の首がぽんぽんと飛んだ。
公孫瓚軍の中にも、とてつもない豪傑がいた。槍を巧みに使い、血河をつくった。劉備は何者だろうと思って注目した。
盧植は軍事の才能を持っていた。
騎兵隊を使って、黄巾賊の背後から攻撃させ、張角を敗走させた。
黄巾賊を撃滅するには至らなかったが、広陽会戦で勝利した。
「先生、勝ち戦おめでとうございます」と劉備は言った。
「きみらのおかげだ」
盧植は謙虚だった。
「劉備、きみの軍の中に、すごい将がふたりいたな」と公孫瓚が言った。
「関羽と張飛という。公孫瓚殿、そちらにも豪傑がいた」
「趙雲という」
「会ってみたい」
「いいとも」
公孫瓚に連れられて、劉備は趙雲に会った。
身長は八尺、年の頃は張飛と同じくらい。さきほど賊軍を薙ぎ倒したとは思えない女性的な容貌の美青年であった。
「劉備玄徳です。見事な戦いぶりでした」
「趙雲子龍です。私など、まだまだ未熟です」
落ち着いた声だった。劉備は素晴らしい若者だと思った。
「おれのところには、関羽と張飛という剛の者がいるのですが、趙雲殿は彼らに勝るとも劣りません」
「見ていました。すごい戦いをするふたり。私はあの人たちに及びません」
「いや、きみは素晴らしい!」
劉備はよい若者を見ると、目を輝かせて、心の底から褒める。
趙雲は感激した。
「おい劉備、趙雲を取らないでくれよ」公孫瓚が苦笑した。
その後、盧植軍は張角軍を追い、二度、三度と勝ち、張梁を戦死させた。
張角と張宝は広宗城に逃走し、籠城した。
この頃、変事が起こった。
盧植軍内に小黄門の左豊という者がいて、軍を監察していた。彼は盧植に賄賂を要求したが、清廉な将軍は応じなかった。
左豊は朝廷に讒言した。
「盧植は城を包囲するばかりで、戦おうとしません」という言葉が、霊帝の耳に入った。
盧植は有能な将軍で、張角軍を撃ち破る寸前だったのに、北中郎将の職を解かれてしまった。
劉備は憤慨したが、後漢朝廷の人事に口出しできるはずもない。
後任の将軍は董卓という陰気で太った男だった。
董卓は軍の指揮が下手で、黄巾賊に敗れ、早々に任を解かれた。
「あいつはなにをしに来たんだ……」
劉備はため息をついた。
荊州の黄巾賊を討伐した皇甫嵩が転戦してきて、張角軍と戦った。
彼は優秀な将軍で、賊軍を大いに破った。張宝は斬り殺された。張角は逃亡したが、まもなく病死した。
184年10月に、黄巾賊は瓦解した。残党が各地に残ってはいるものの、乱はおおむね収束した。
劉備は功績を認められ、冀州中山国安熹県の尉に任命された。現代で言えば、警察署長のような役職である。
「みんな、よく戦ってくれた。この劉備、心から礼を言う。ありがとう」
劉備は二百人の義勇兵に功労金を渡して、軍を解散した。
彼を慕い、どうしても別れたくないと言う三十人ほどが、安熹県へ同行した。
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