第6話 三人の武器

「武器をつくろう」

 劉備が義弟たちを見つめて言った。

「よいですな。私もいい武器を所持したい」

 関羽は古い刀しか持っていなかった。

「お金はあるの?」

 張飛が義兄たちに問いかけた。

「問題はそれだ……」

 劉備は頭を抱えた。


 三人は馬商人の張世平に会いに行った。彼は巨大な馬牧場を有する豪商である。

「張世平殿、お願いがあります」

 劉備は頭を下げながら言った。

「黄巾の乱が起こりました。おれたちは戦おうと思っています。しかしろくな武器を持っていないし、それを買うお金もないのです」

「つまり金の無心ですな」

「はい……」

「劉備殿が挙兵なさるのなら、出資しましょう。私はあなたに期待している。よい武器を買うだけでなく、兵を揃えなさい」

 張世平は劉備に大金を渡した。

「こんなに?」

「兵を揃え、食わせるのは並大抵ではありませんぞ」

「確かに」

「蘇双殿にも頼んでみなさい」


 劉備は手広く飲食店を経営する蘇双のところにも行った。

 頼むと、大金をくれた。彼も劉備を見込んでいたのである。

 挙兵するのに十分な資金が集まった。


 義兄弟たちは、涿県で一番大きな鍛冶屋へ行った。

「青龍偃月刀をつくってもらいたい」と関羽は注文した。

「安物ではなく、重くてしっかりしたものを」

 青龍偃月刀とは、長い柄の先に湾曲した刃がついた武器である。刃の部分に青龍の装飾を施す。


「おれは蛇矛がいい」と張飛は言った。

 彼は成長し、自分のことをおいらとは言わなくなっていた。

「長めの矛をつくってくれ」

 蛇矛とは、刃の部分が蛇のようにくねくねと曲がっている槍のような武器。突き刺すと、くねっているがゆえに致命傷を与えやすい。


「おれは双股剣を」と劉備は頼んだ。

「剣を吊るための帯革も買う」 

 双股剣とは、雌雄一対の剣。短剣で、女性が護身用に使うことも多い。

 劉備は義弟たちに比べると非力で、戦闘はふたりに任せようと思っていた。


「あんたら、金は持っているのか?」

 鍛冶屋の主人がじろりと劉備を見た。

 彼は革袋から、じゃらじゃらと多くの金銭を出した。

「よい品をつくってくれ。黄巾賊と戦うから、急ぎで頼む」

 劉備は目に力を込めた。

 貧乏ななりをしているのに、大金を持っている。

 鍛冶屋は驚き、「わかりました」と答えた。


 鍛冶屋に武器をつくらせている間に、劉備は義勇兵を募った。

 金があり、飢えさせることはないと宣伝すると、二百人ほどの若い男たちが集まった。

 劉備は彼らを関羽隊と張飛隊に分けた。

 関羽と張飛は、すぐに練兵に取りかかった。ふたりは真っ当な軍事訓練を受けたことはないが、けんかは滅法強く、兵を使うコツのようなものを持っていた。

 雑務は簡雍に任せた。彼は嫌々ながらも、うまく兵隊を管理した。意外と実務能力が高い。

 

 しばらくして、義兄弟たちは再び鍛冶屋へ行き、できあがった武器を受け取った。

 関羽の青龍偃月刀の重さは、八十二斤。彼はふつうの兵士ではまとも扱えない重量の刀を、軽々と振るった。

 張飛の蛇矛の長さは、一丈八尺。長すぎる矛を、彼はくるくると簡単に振り回すことができた。

 劉備の双股剣は短いが、切れ味は抜群であった。

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