第17話 優しくされたら
「クレア。天気もいいし。外で食べましょ」
「うん。事務所の裏のベンチに行こう」
ベンチに座って、二人でご飯を食べているとエマが胸元のポケットに挿しているペンを指さした。
「あら。新しいペンね。昨日のデートで買ったの?」
「そう。オニール様から。オニール様が前のペンを壊したって、所長が言っていたでしょ?お詫びにって言って買ってくれたの。石は違うけどオニール様とおそろいなの」
「ふーん。おそろいなんて、いいんじゃない。ん?んん?ちょっと見せて?うわー。そう。うん、はい、返す」
「このペン、凄く書きやすかったわ」
「そう・・・。落とさない様にしなさいね」
「うん。コレ、やっぱり高価よね?」
私がペンを胸元のポケットに挿してエマに聞くと、エマはぶほっとむせた。
「ぐほっほっほ。え?なに?値段、知らないの?一緒に買ったんでしょ?」
「値札が無かったの」
「うわ。流石侯爵家で、筆頭魔術士。まあ、オニール様が購入するなら金額は分からない様に店側もするわよね。それにしてもお金の使い方がエグいわ」
「普段使いしたいって言って選んで貰ったわよ?石も小さいのを選んで貰ったし、飾りや彫りがシンプルな物にして貰ったのよ?」
「は?普段使い?貴族の基準ってどうなの?あーでも、オニール様なら普通なのかしらね」
「エマ・・・。私、値段聞かない方がいい感じ?オニール様の分は私が買おうとしたんだけど断られたの」
エマはもう一度ジッと私の胸元を見ると、「はー、クレアがポンと買える値段じゃないわね」っと息を吐いた。
「ちょっと魔力がある人なら、まずそのペンに気付くわ。そして、それ。小さい石でそれだけ魔力が付与されているんだもの。ダイアでしょ?しかもブラックダイア。黒い石を持たせたかったのは分かるけど、オニキスでいいじゃないの。ブラックダイアねえ・・・。で、ペン全体に魔力が回りやすい様にプラチナが蓋と軸に入ってるわね。魔力が付与しやすい様にされているから特注品でしょうね」
「はああ?」
「オニール様は何も言わなかったの?」
「うん。前のペンを壊したお詫びって。店の人からのお勧めを見せて貰ったわよ!」
「ふああ。成程ねえ。ペン一つ贈るのにそれになるの?うーん、私達が買う婚約指輪よりも高いわよ?」
「ひえ!!」
私は胸元を抑えた。マジか。
「そうか、クレアは魔力が無いんだったわね」
「どうしよう。知らなかったから、有難うって言って受け取っちゃった。お礼は名前呼びでいいって。コレ、返した方がいいのかな?」
あたふたする私にエマは首を竦めて眉毛を片方上げた。
「もう、素直に貰っときなさい。返したりしたら失礼になるわよ。暴走するかもしれないし。死神の暴走なんて恐ろしいわ。ペン、なくさないようにね。で、魔力がある人はもれなく、それが高位魔力持ちで金持ちからの贈り物って気付くわね。だからクレアには魔力持ちは近づかない」
「ひええ・・・・」
「ねえ。オニール様とのデート、大丈夫だった?変な事はなかったの?」
「多分。もう変な基準が分からないけど」
私は少し考えて、コクリと頷く。でも、変な事はなかったはず。
私は指を折りながら、昨日のデートを思い出していく。
「噴水前で待ち合わせしてオニール様は先に来て待っていてくれてたわ。魔法も使って見せてくれて綺麗だった。その後、手を繋いで歩いてアンティークショップに行って、ペンを選んで名前呼びをする事になったの。まあ、職場じゃ恥ずかしいからオニール様って呼ぶけど。そして、ブレスコでスペシャルランチとスペシャルデザートを食べた」
「問題ないわね」
「あ。ブレスコの予約の取り方、エマ知ってる?ああいう高い店って、普通に予約を取っていいの?なんだか、高級店って高級店のルールがある事に気付いたの」
「ああ、成程。そうね、オニール様の紹介で予約を取らせて貰うのがいいだろうけど。直接行って予約取るのは駄目よ。手紙で予約を取って、自分の魔鳩番号を書いておくといいはずよ。うーん、所長の名前が使えるかも。所長に聞いてみたら?」
「成程ね。近所のカフェや食堂なら、魔鳩でオッケーだったり、会計の時や、ふらっと立ち寄って予約するじゃない?エマに聞いてよかったわ」
「なんだか、大変ね。ちゃんと付き合えそう?」
「うん、オニール様は優しかった。王立公園歩いた時も歩くペースを合わせてくれたし、ベンチにハンカチを置いて座らせてお茶を買ってくれたわ」
「流石。紳士ね。貴族って感じがするわ」
「で、お付き合いの返事をしたら、あの、指にね、キスをされたの!あ!一瞬よ?一瞬!でも、なんだか凄くて!こう、なんだろう色気?色気がブアーって出てたわ!あれが魔力だったのかな?」
私は思い出して、耳が熱を持ったのが分かって押さえた。
赤くなってるかも知れない。
「え?キス?うん。うーん、貴族の方って、確か挨拶なんかで手にキスをするフリみたいな事するわよね?」
「あ。挨拶なの?絵本でしか見た事が無い事だったから驚いちゃって。うわあ。私、凄く恥ずかしがっちゃったかも。それの方が恥ずかしい・・・。そっかあ。挨拶なのかあ。挨拶で色気が出るのかあ。貴族って凄い。で、公園でお話をして、遅くなる前に家まで送って貰った」
「うん、最初のデートで高級店でおそろいの物を買って、お洒落なお店でランチ。公園を散歩しておしゃべり。って事よね。良いデートじゃない?オニール様、いい感じね。でもクレアだからとにかく油断しちゃだめよ?」
「エマ・・・。私だからって言うのが酷いけど、否定出来ない。でも、オニール様は優しいと思うわ?」
「ああ。もう、チョロいわね。まあ、クレアはそこが可愛いんだけど。いい?しっかりするのよ?」
「うん、でも、オニール様は優しいと思う。皆、怖いって言ってたけど、紳士だし、身体大きいのも私、結構好きだと思う。顔もね、怖い感じかも知れないけど、綺麗な顔よりも恰好良いと思うの。歩く時にゆっくりと歩幅を合わせてくれたのも素敵だった」
私は「えへへ」と言いながらエマに話していくが、やっぱりディラン様を好きになってると思う。エマの言う通りチョロいとは思うけれど、でも格好良く見えたらもうその人がタイプだ。
「もう。クレアが幸せならいいけど。優しいのはいいわよね」
「そう!優しいの!!」
私達は全然食べ進まないサンドイッチを手に持ったまま話し込んでいた。
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