第12話 壊したペンのお詫びを
寄りたい所がある、と言われてオニール様に連れて来られたのはアンティークショップだった。
「いらっしゃいませ、オニール様」
高そうな店に、高そうな服を着た、品の良い店員さんがドアを開けて礼をしてくれた。
「ああ。ペンを見せて欲しい」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
「さあ、お嬢様もどうぞ」と言われ、私達はふかふかの椅子に座らせられた。
お・お嬢様・・・。そんな事、呼ばれた事ない・・・。
私が姿勢よく座ると、オニール様が私の方を向いた。
「バーキントン嬢。魔鳩でも知らせたが貴女の事務所に立ち寄った際に、私が貴女のペンを壊してしまった。新しいペンを贈らせて欲しい」
「え。わざとじゃないんですし、いいですよ?」
「いいえ。それでは私の気が済まない。バーキントン嬢の(嫌な色の)石が付いたペンを(思い切り)踏んでしまい、(念入りに)壊してしまったのは私が悪い」
なんだか、少し、もごもごと聞こえた。
「いいのですか?それなら、私も食事のお礼に何か贈らせて下さい」
「バーキントン嬢が私にプレゼントを?」
「ええ。なにがいいでしょう?」
キョロキョロと店内を見回してみる。
オニール様の好きな物も何も知らない。こう、嫌がられない物を贈るのが一番いいのかな。
私が店の中を見回すと、ガラス細工の物や品の良いアクセサリー、ブローチやタイピン等も置いてあった。
どれも素敵。
でも、どれも高そう。
いざとなったら、分割払いでお願いしよう。
「ああ、ではおそろいのペンにしよう。私もペンがいい」
「え?じゃあそうしましょう。ペンは何本かあってもいいですものね?」
以前買ったペンも少し高いペンだったけど、ペンなら私でも買えると思う。
オニール様が店員に頷くと店員がカウンターの下からペンを何本も取り出した。
「バーキントン嬢のペンには石が付いていた。やはり石付きのペンがいいだろうか。彫りや飾りが美しい物が良いだろうか?お勧めを出して貰おう」
「綺麗ですね・・・。普段使い出来る物がいいのですけど。仕事中に使える物がいいです」
店員が頷いて、カウンターに並べていくペンはどれも綺麗なペンで、私が使っていたペンよりもはるかに高級な事が分かる。
「成程。いつも使える物と言うのはいいと思う。常に側にある物と言うのは魅力的だ。少しシンプルな物を出してくれ」
オニール様が店員に話し掛けると、店員は頷いて何本かのペンをさらに奥から出した。
「オニール様、おすすめはこちらのブラックダイアモンドが付いたものでしょうか。こちらのルビーも良いですね。ダイアモンドはとても硬い宝石ですので壊れません。またルビーもダイアモンドに次ぐ硬さと言われています。ペン自体も軽く出来ていまして、長く使用しても疲れず、書きやすいでしょう」
「へえ。そうなんですね。私が持っていたのは小さなエメラルドがチョコンと付いた物だったんですけど・・・」
「普段使いには向かないかと。エメラルドは傷が入りやすいですし、脆いものもありますからね」
「そうなんですね。普段使い用じゃなかったのですかね。確かに値段も手頃だったし、あまりいい石じゃなかったのかもしれません。じゃあ、壊れてしまったのもしょうがなかったですね」
「エメラルドは扱いが難しいですね。そのペンは壊れやすいものだったのでしょう」
「ふむ。このペンと同じ装飾の物で石が違う物はあるか?」
「ございます。少々お待ち下さい」
目の前の店員が頷くと別の店員が奥の部屋に入っていった。
「オニール様。私のペンは壊れやすかったみたいです。だから本当に気にしないで下さいね?」
「そう言って頂けると嬉しい。これが私向けのペンか?」
奥に入った店員がカウンターに並べたのは黄色の石が付いたペンだった。
「はい。オニール様にはこちらのイエローサファイアはどうでしょうか」
「オニール様、サファイアって青じゃないんですね?」
オニール様が店員をチラッと見ると店員が微笑んで頷いた。
「はい。一般的にサファイアは青ですか、黄色もございます。そして、赤いサファイアの事をルビーと言うのですよ。同じ石で呼び方は違いますが、お揃いで持たれても仲の良いお二人にはお似合いではないでしょうか?」
「え!お似合いですか?」
「ええ」
びっくりとした私に店員はにこにこと笑いかけてくれるので、私は、かーっと顔が赤くなった。
「ああ、他の石もありますね?」
私は頬を押さえながら店員に他のペンの石の説明をして貰った。
「ええ。こちらはイエローダイアモンドです。オニール様は魔術士ですので、こちらもお勧めですね。魔力が込めやすいかと」
「オニール様には黒の石の方が似合うんじゃないですか?」
私がペンを見ながら店員に聞くと店員は首を横に振った。
「オニール様は普段が黒が多いようですので、本日は違う色をお勧めしようかと。黒い石はもうお持ちですので」
「ああ。成程」
私が頷くと、オニール様もうんうんと頷いていた。
お勧めのペンを見るが値札が無い。今きづいたけれど、どこにも値札がない。
ブラックダイアモンドなんて見たことないし。イエローサファイアなんて聞いた事もない。
私はサーっと顔が青くなりそうになって、オニール様の腕をツンっとつついた。
「あの、オニール様。気に入った物を購入して欲しいのですが、私の手持ちが足りない時はお金を貸して頂いても宜しいですか?値札が無くて値段が分からないですし、持ち合わせで足りないと思います」
ああ、恥ずかしい。私は真っ赤になりながらオニール様に少し顔を寄せて貰ってオニール様にこそっと耳打ちをした。
オニール様は私の言葉に黙って頷くと、店員に、「ダイアの物を包んでくれ。ルビーとサファイアはまた次回頼む」と言った。
私の言葉は届いたのかな?
商品が用意される間、オニール様は少し呪文を唱えていたけれど、身長差があって私には聞き取れなかった。
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