2章

第11話 はぐれないように

 今日はオニール様とのランチデートの日。


 私は今日はお付き合いの返事をするのだ。


 昨日新しく買ったブラウス、通勤でも使えるけれど可愛いレースが付いたスカート。靴は買うお金はなかったけれど綺麗に磨いた。


 オニール様に会うのも一週間ぶりで告白をされて以来だ。


 昨日、食事休憩中にエマにお付き合いする事について相談をしたら、「迷ってるなら付き合えば?別に駄目と思ったら別れればいいんだし。それに、相談する時は、付き合いたいって思ってるのよ」と言われた。


「え?そうなのかな?私、付き合いたいのか」と聞いたら、「そうよ。不安があるならクレアが努力したらいいんじゃない?オニール様が頑張るのが絶対じゃないでしょ」と言われた。


 確かに。


 付き合うのなら私も良い関係を作れるように努力をしなければ。


 お付き合いをするなら相手に我儘ばかり言っては駄目だ。うん、何処かの誰かを駄目な見本①としよう。



「エマは偉い」と、私が頷きながら言うと、「まあね。私も頑張ってるのよ」と答えが返ってきた。



 皆で食事をしていたので(オニール様からのランチの差し入れ)同僚達にも聞いてみた。



「オニール様?筆頭魔術士なんて金持ちだよな。それに、オニール様の家って侯爵家だっけ?それだけで付き合っていいと思う」とポール。


「え?あんまりお金持ちだと、ちょっと引かない?程々の付き合いならいいけどね。家の家格が違うのやだー」とハナ。


「とにかくさ、俺らにもこうやって飯も奢ってくれてるしさ、いい人なんじゃないかな?オニール様を悪く言うのって妬みもありそうだしさ。死神とかさいうけど、死神が飯くれる?エマが言う通り、好きって言われて迷う位なら付き合った方がいいよ。ていうかさ、オニール様って好きとか言うんだ」と、ダニエル。


「まーねー。金持ちだけどオニール様は悪い人じゃないかも」と、またハナが言う。


 ハナは確か親戚に金持ちがいたはず。何か嫌な思いをしたのかもしれない。


 お金の事は大切だ。そうだ、ダメな見本②がいた。


 それにしてもオニール様の同僚達からの評価が凄く高い。



「そっか、うん。そうだよね。別れてすぐに付き合うのって変かなとか思ってたんだけど」


「「「「変じゃないよ」」」」



 皆の声が揃う。



「侯爵家って貴族でしょう?身分が違いすぎだよね?筆頭魔術士ってだけでも凄いのに」



「「「「関係ないよ」」」」



 エマがサンドイッチを飲み込んで、続けた。



「クレアが二股してて、相手を切ってすぐに別の子と付き合うとかなら引くけどね。でも、別れた後の出会いでしょ?何も変じゃないわよ。それに、今は昔とは違うわよ。貴族って言っても名前だけの家も多いわよ。確か、所長も貴族よ?競馬新聞読んでる所長がよ?まあ、オニール様の家は違うけど、でも身分差で結婚が出来ないなんて時代は百年以上昔の話よ」


「あ、そうか。所長もか」



 私がサンドイッチを眺めながら言うと、エマが呆れた声をだした。



「貧乏でも苦労するし、浮気で苦労したり、ギャンブルで苦労する事に比べたらちっちゃな事よ。クレアが変な男ばかり引っ掛かるのは、クレアの責任でもあるのよ?ちゃんと自分の眼を鍛えなさい。オニール様自身をしっかり見て、決める事が大事よ」



「「「そうだ、そうだ」」」



 皆も頷く。エマは凄く頼もしい。



「そうか。そうだね、エマの言う通り」


「まあ、しっかり考える事は悪い事ではないわね」



 エマは頷いて、サンドイッチを再び食べた。



「エマ、私オニール様の事は凄い人だって思うし親切だとは思うけど、好きかどうか聞かれたら好きではないんだよ?あ、あのこう恋愛的な意味でね?その上で、そういう、まだふらーっとした気持ちなのに付き合っていいのかな?とも思う訳ですよ」


「面倒ね。関係ないわよ。迷ってる段階で、もう、好きの方に傾いてるわよ」



 エマが話した後にダニエルも頷く。



「そうだな。大体さ、嫌いな物勧められて食べないだろ?腹いっぱいなのに食べるかどうか迷ってるって、好きな物だよ。と言う事は、クレアはオニール様の事、好きなんじゃないかな」



 自分の気持ちなのに、何故周りの方が分かっているように言うのか。


 不思議だ。


 ハナは食事を終えて、お茶を皆に淹れてくれながら頷いた。



「結局、自分に自信が無いのはクレアなのよ。でも、もう相手はクレアがいいっていってんだから、オッケーしたら早いんじゃない?」



 エマはお茶を飲みながら言った。



「そうかな?」


「「「「うん」」」」


「そうなのか・・・」



 私はふむ、と頷き、休み時間が終わった。仕事を終えると家に帰って明日の準備をして寝た。





 そして冒頭に戻り、今日はランチデートの日である。


 私は洋服や髪をチェックすると、アパートを出て、アパートとブレスコの中間位にある大通りの噴水の前に向かった。


 私が待ち合わせぴったりに噴水前に行くと、噴水は見事に凍っていた。なんだか、モヤも出ていて、幻想的な雰囲気だ。



 うわー。綺麗だなー。


 凄い、彫刻のようだなー。


 でも、なんで凍っているんだろう?


 私は「ほー」と見惚れて噴水前に近づくと、ちょうど反対の噴水の前に「ゴゴゴゴゴ!!!」と言う効果音が背後から聞こえて聞こえそうなオーラを出しているオニール様が噴水をジッと見つめているのが見えた。


 あ。もう来てる。


 そして、なんだかすごいオーラ。


 魔力が分からない私でも分かる。


 いつもは噴水の周りにカップルや親子連れが沢山いるのだけれど、今日は噴水の周りは私とオニール様だけ。


 分かりやすくて凄くいいけど、皆も凍った噴水に驚いているのかな?


 少し離れて遠巻きに人はいるけど誰も噴水の側に近寄ってこない。



「オニール様。お待たせしましたか?すみません」



 私は急いで反対側まで小走りで近づくと、オニール様がハッと顔を向けた。


 私の声にオニール様が振り向くとオニール様は手紙を読んでいたのか、急いでポケットに手紙を押し込めた。



「バーキントン嬢・・・。ああ・・・。待っていない」


「良かった。ローブではないオニール様を見るのは初めてです。私服も黒なんですね。でも、黒は似合ってると思います」


「ああ、有難う。バーキントン嬢は大変可愛らしい洋服だ。よく似合ってる。バーキントン嬢、ブレスコの前に少し寄りたい所があるのだがいいだろうか?」


「ええ、いいですよ」


「では、少し歩こう」


「はい」



 私がそう言うと、オニール様はニコリと微笑んだ。



「噴水はオニール様が?綺麗ですね?」



 私が凍った噴水を指さすと、オニール様は「ああ」と言って杖を出して振った。


 杖からキラキラが飛び出して、噴水の氷に降り注ぐと、「パリン」と噴水の氷が弾けて水に変わった。



「わあ。綺麗ですね。オニール様は凄いですね」


「いいえ。さ。はぐれるといけない。手を」



 ゆっくりと手を差し出せれた。


 あ、なんか恥ずかしいけど、はぐれない為か、うん。と思いながら、私はオニール様の手を握ると私達は歩き出した。

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