第13話 閉じ込めたい程可愛い人 オニール視点
クレアたんの息が耳にふっとかかった。
あ。もう、うん。なんだろう。今、天国にいるんだな。
私がふわふわと魂を飛ばしていると、天使の声が耳をくすぐった。
お金を貸して欲しい?いくらだ。いくらでも出そう。
ああ、今のこの耳に掛かった息が売っていたら俺はいくらでも買うのに。夜寝る時に耳元で「ディラン・・・、ふー・・・」ってやってくれないかな。
あ。それ、すごくいいな。すぐに寝れそうだし、逆に寝れなさそうだ。
安眠なのか、不眠になるのか。
二秒位そんな風に意識を飛ばしてハッとした。
頭の先から抜けかけた魂を戻してクレアたんを見ると、恥ずかしそうに目元を潤ませて、口元を結んでいた。
「優勝」
いや、優勝だ。完全優勝だ。三冠王だろ。可愛い部門一位。耳ふー部門一位。恥ずかし顔部門一位。うん。控えめに言って最高だ。
私は呟いて、魔術原理を頭に占める事にした。
「やばいやばいやばい。可愛い可愛すぎる。いくらだ、いくら欲しいんだ。いくら積めばいいんだ。ああ、水、火、闇、光、風。三以上の自然数Nについて、ああ、ダメだ。魔力を爆発させると爆発時間は徐々に質量を失っていく。よって、平均密度、魔力エネルギーを考え・・・。ああ、やばいやばいやばい」
いかん、集中出来ん。
大体、今日のデートでも、緊張のしすぎで魔力漏れが酷かったのに、ロジャーから急に魔鳩が届き何事かと思って急いで読むと「クレアが可愛い洋服を買ったとエマが言ってたぞ。デートを楽しみにしてるんじゃないか、良かったな。頑張れよー」と書いてあった。手紙を読んだ瞬間にドン!!っと音と同時に魔力が溢れ出た。口を押えて、気持ちを落ち着かせようと思ったが、溢れ出した魔力は噴水を凍らせて発散するしかなかった。
だって、クレアたんが私の為に可愛い洋服を着ている。
それはどういう意味だ?
・・・・。
うん。ちょっと落ち着こう。
ゆっくりと息を吐いて落ち着いたおかげで噴水を凍らせるだけに留められた。しかも、優しいクレアたんが「凄い!」と凍った噴水を褒めてくれたので結果オーライだ。
私は、ここまでの事を思い出しながらふーっと息を吐き、クレアたんを見た。
「バーキントン嬢、これは私のお詫びの品だ。お揃いで私に買わせて頂きたい」
「え。私からのお礼が出来ないんですけど」
「ならば、クレア嬢と呼ばせて頂いても?」
私はクレアたんの手を取った。
ああ、ペンを選ぶためにほどかれてしまった手。
すっと、ほどかれた時は寂しくてどうしようもなかった。
「えっと、はい、どうぞ」
私の言葉にクレアたんが恥ずかしそうにコクンと頷いた。その顔は少し赤くて、私はまた頭がおかしくなりそうだった。
なに、そのコクン。コクン部門一位だな。
「もう、連れ帰って閉じ込めよう」
思わず、本音がぼそっと出てしまった。店員がビクッとしてこちらをみたが、お茶を置いて去っていった。
「私の事はディランと呼んで欲しい」
「ディラン様?」
「あ。やばい」
「え?」
なに、その聞き方。「ディラン様?」ってなんで、?が付くの?
私も聞いていいのかな。「クレアたん?」「なーに?ディラン様?」「いや、別に?」「えー。なに?」「いや、なんでも?」ああ。なんだ、?っていいな。そうか、永遠に会話が終わらないのか。
部下に「オニール隊長、この予算は何故このように?」なんて聞かれたら「馬鹿か?その前の文を読め」としか思わなかったが、クレアたんが使うと威力が凄い。
破壊力満点だ。
私は黙ってお茶を飲むと世界の素晴らしさを噛み締め頷いた。
馴染みの店員と目が合い、私が頷くと相手も頷いた。
事前に説明をしていたとはいえ、ここの店員はいい仕事をしてくれた。クレアたんの髪と眼の色、壊したペンの事を伝え、絶対緑は選びたくない事を伝えていた。そして、黒か赤をクレアたんに勧めるようにお願いをした。
私からの贈り物と伝えているので、勿論値札が付いている物なんてない。
亡き母の友人だった店主は俺が恋人を連れていくと言うと、泣いて喜んでくれた。
「お母さまも空の上から喜んでおられるでしょう」と言ってくれ、色々と考えてくれたおかげで、良い買い物が出来た。
今度またここでルビーとイエローサファイアのおそろいの物を何かを買おう。クレアたんの髪の毛に着ける物がいいな。
髪の毛をくるっとまとめてあげよう。「こら、クレア。動いたら綺麗につけれないだろ?」「あ、ごめんなさい」なんて言って恥ずかしがるクレアたんを見たい。
私が、チラリと店員を見て、クレアの髪を見て奥のアクセサリーの方を見ると、店員は黙って頷いた。
うん、今ので伝わったな。次回はもう準備をされているだろう。
揃いの物となると、私には何がいいだろうか。クレアたんがくれるものならなんでもいいが。
カフスボタンが良いだろうか。「ディラン様。私が着けますよ。手を出して下さいね?」「ああ」「あ、動かないで下さいね。もう、動かないでって言ってるのに。着けれないじゃないですか」ちょっと怒って、ぷんっと頬を膨らませたりするのかな。
「ああ。すぐに買おうかな」
私がお茶を飲み、クレアたんがカップを置くと店員が商品を持ってきた。
「こちらでございます」
「また来よう」
私が商品を受け取って立ち上がるとクレアたんは「?」の顔をして店員に椅子を引かれ、同じように立ち上がった。
「では、オニール様、またの御来店をお持ちしております」
店先まで案内をされて俺達が出ると、クレアたんは不思議そうに俺の方を見た。
不思議そうにしている顔もいい。
何が不思議なのだろう。困っているのか。考え込む顔が何でこんなに可愛いのか。
少し歩いてから、クレアたんがちょっと顔を上げて俺に話し掛ける。
「ディラン様、聞いても宜しいでしょうか?」
「なんだろう?」
ああ。私は背が高くて良かった。その仕草はいい。
「あの。ディラン様。先程のお会計は?」
「ああ。まとめて我が家に届く。気にしなくていい」
「え?」
「さあ、ブレスコへと行こう」
「はい。なんだか、私、知らない事ばかりで。恥ずかしい事をしてしまったり、マナーがおかしかったら教えて下さい・・・」
クレアたんが小さくシュンとしている。
「うん。連れて帰ろうかな」
これはもう、家に連れて帰って保護する案件ではなかろうか。そんなに気落ちをしなくていいのに、と思いながらも私は頷いた。
「クレア嬢に恥ずかしい事はない。会計もあの場でしてもいい事になっている。今回は我が家が贔屓にしている店だからあのような会計をとっていただけだから。さあ、楽しい食事が待っている」
「はい。ディラン様は優しいですね」
ふわっと私をみたクレアたんは輝いていた。
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