第8話 初デートを終えて 

 オニール様との初デート?はとても美味しいデザートで締めくくられアパート迄魔動車で送って貰った。


 帰りの車の中でもオニール様は優しく紳士だった。



「バーキントン嬢。今の私に対しての気持ちはどうだろうか?今後も親しくしていきたいと私は思っている」



 オニール様はゆっくりと話されて、低い声も穏やかだ。見かけは確かに大きくて、眼も鋭くて、ローブを着ている姿はちょっと威圧感があって怖い感じだけど、優しい見た目なのに意地悪な人よりもいいと思う。



「オニール様の事はお会いしたばかりですのでよく分かりません・・・。オニール様は筆頭魔術士という凄い方で、とても紳士的な方だと思います。ただ、今は私も恋人と別れたばかりですし、すぐに恋愛感情を持つことは難しいかと」



 うん、とオニール様は頷かれた。



「ああ。そうだな。正直で良いと思う。その上で、私はバーキントン嬢と交際をしたいと思っている。どうだろうか?」


「ええっと、今、恋愛感情を持つことは難しいといいましたが?」


「それでもかまわない。バーキントン嬢は難しいと言われたが、嫌な事は嫌だと言うと思う。バーキントン嬢の失礼な恋人にはしっかりと断られていた。嫌いだから断ったのだろう」


「そうですけど・・・」


「そうだろう?」



 自信満々に頷かれると困ってしまう。



「確かに、お断りする理由がないんですけど、交際する理由もないような・・・」


「断る理由が無いのなら、交際を始めてよいのでは。駄目ならそこで交際を終わらせればいい。バーキントン嬢も知り合いからケーキを出された時にお腹が一杯でも、ここで食べてもよし、持ち帰っても良し、と言われればケーキを貰う事にするのでは?」


「まあ、ケーキなら・・・」


「そうだろう?何事も始めてみないと分からない。・・・まあ、終わらせる気はないが・・・」


「?」


「いや、私の事が嫌でなければどうだろうか?」



 私は少し考えて、オニール様を見た。



「やっぱり・・・オニール様の事を良く知りませんし。なので」



 いい加減な事は駄目よね、と断ろうとすると、オニール様が私の言葉を遮った。



「そうだな。無理強いはやめよう。バーキントン嬢を困らせたくはないし、嫌がる事もしたくない。だが、私がバーキントン嬢の事を好ましく思っている事を知って欲しい」



 私は魔動車の中で飛び上がりそうになった。



「好きだ」



 にこやかに微笑まれるが、私は口をパクパクしてどうしていいのか分からない。



「あ、あの、私達、今日初めてお会いしたんですよね?」


「さあ、どうだろうか」


「え?」


「答え合わせは今度のランチでしよう」


「は、はい」



 話しを終えるとアパートの前に着き、部屋の前まで送られて私はお礼を言って部屋に入った。



「なんだ、なんだったんだ・・・。料理は美味しかったけど・・・。悪い人ではないのよね?え?告白されたのよね?あれ?私、どういう返事になったんだっけ?あ、考えるのか・・・」



 私はオニール様の事を考え、なんだかゾクッとしたり、少し恥ずかしくなったりした。



「エマに報告すると、チョロいって言われそう・・・。でも、優しいし、筆頭魔術士で所長の紹介なのよね・・。凄くいい人なのかな・・・。どこで会った事があるんだろう・・・。好きって本当かな・・・」



 シャワーを浴びて、ベッドに横になった所でオリバーの事を少しも思い出してない事に気付いたけど、ジュリアと幸せに、と思って寝る事にした。





 休み明け、私が仕事に向かおうとするとげっそりとした顔の所長が迎えに来た。



「おはようございます、所長。元気ないですね?」


「ああ・・・。おはよう・・・。報連相ほうれんそうって大事なんだよ・・・。とにかく、もう一週間はお前は誰かと一緒に行動する事が決定した」


「え?この間、オリバーとジュリアが来たからですか?」


「まあ、そうだな。一週間で全部解決するから、お前は大人しく言う事を聞いてくれ。それが皆の平和に繋がる。世界平和の一歩だな」



 職場迄の道を歩きながら、げっそりとした顔の所長の話を聞く。



「ところで、ディランはどうだった?」


「ところで、じゃないですよ。オリバーもジュリアと突撃してくるし、所長は眺めているだけだし。でも、ブレスコ、とても美味しかったです。オニール様が今度、ランチにも連れて行ってくれるそうです。オニール様は噂と違って優しい方ですね」


「お、おう・・・。そうか、良かったな。まあ、優しい・・・だろうな。クレア限定で凄く優しいと思うぞ。沢山食べさせてもらえ。あと、コレ、忘れないうちに渡しておく、ディランの履歴書だ」


「え、三枚もあるんですか?所長、私、お付き合いを申し込まれたんですけど、オニール様は私が好きじゃなくても言いそうなんですよね。私、紹介されたの初めてで、よく分からないんですけど。好きでもないのに付き合ったら不誠実じゃないですか?所長も嫌ですよね?」


「いや、嫌じゃない。もう付き合っていいと思うぞ。向こうがそれでいいんだろう?まあ、お前の嫌な事はしないだろう。筆頭魔術士で金も持ってるし、見掛けだって眼つきは悪いし、ちょっと怖いかも知れないがお前を大事に大事にしてくれるだろう。うん、大事に・・・」



 私は顔が赤くなってるだろうなと思ったが、オニール様の事を聞いて見た。



「所長、私とオニール様って以前どこかで会ったとか知ってますか?」


「あ。俺は何も言わん。でも、ディランはいい加減な奴じゃない。考えてやってくれ」


「はい・・。何処で会ったんだろう?」


「まあ、良い方向で考えてくれ。俺の平安の為にも。本当に悪い奴じゃないんだ」



 私達はそんな風に話をして職場に向かった。


 お昼休みになると職場の近くのレストランからオニール様からの差し入れが皆に届いた。


 それから毎日、何かしらの差し入れが届いたので所長に「オニール様にお礼を伝えたい」と言うと、所長がオニール様の魔鳩コードを教えてくれ、私が魔鳩を飛ばすとすぐに返信の魔鳩が届いた。


 オニール様からの返信はとても丁寧で、私からの手紙が嬉しかったと書いてあった。


 お礼を言われるなんてオリバーから言われた事が無かった。


 所長にその事を話し、「オニール様は優しいですね」と言うと、所長からは「まあな、あいつは優しいが、お礼を言うのは普通だぞ。お前も大分、疲れてるな」と言われた。その後も、同僚達が心配してくれたり、エマが話を聞いてくれた。



「所長。私、男運ってないかと思ってましたけど、こうやって皆が私の事を心配してくれているから、私、仕事運と友情運はバッチリありますね!!ここに就職できてよかったです!」


「クレア!お前、本当、アホだけどいい子だよなあ」



 所長から失礼な事を言われながらも、私は書類を片付けていった。



 ◆◆◇◇◇



 時は少しだけ遡り・・・、クレアがオリバーと別れたと聞いた次の日。エマは仕事場に行くと所長にすぐに呼ばれた。



「おい、エマ」



 クレアが席を立った途端、所長がちょいちょいと手招きをして所長室へと呼ばれた。



「なんですか。クレアの事ですか?」


「ああ。俺の友人の筆頭魔術士のディラン・オニールをクレアに紹介する。急いで飯に誘う様に魔鳩を飛ばした」


「え。「死神」の?、オニール様ですか?泣く子が大泣きする「冥府の魔術士」と呼ばれてる?」


「凄い二つ名が増えてるな。死神だけじゃないのか。あいつ、ずっとクレアに片思いしてるんだ。クレアの事で煩いんだよ。もう一年以上片思いしてるのか?まあな、黒髪だし大柄の三白眼で見かけはやばい奴だよな。それに敵に容赦はない「死神」だが基本悪い奴ではないんだ。よく見ると顔はそれなりに整ってるしな」


「所長、褒めてませんよ。それにしても「死神」のオニール様がクレアに・・・。さすがクレアと言うか・・・」


「なあ、協力してくれ。クレアにもいい話だと思う」


「そうですね・・・。クレアに変な男が寄ってくるのは仕方がないなら、もう凄く強くてクレアを愛してくれる変な男にするしかないでしょうね。そう考えるとオニール様はお似合いかもしれません。クレアは外見は気にしませんし。オニール様はクレアに尽くしてくれそうですか?」



 所長はうんうんと頷く。



「あいつは尽くすぞ。今でもクレアクレアクレアクレアと早口言葉みたいに煩いからな。なんでも買ってくれるんじゃないか?ついでにあいつはギャンブルもしないし、浮気もしない。クレアに付き合いたいタイプ聞いたが、大丈夫だ。そう言う事だから、エマ、頼んだぞ!」


「はあ、なんですか、その高いようで低いハードル。分かりましたよ」



 私はそう言うと所長室を出て席に座った。クレアはお手洗いに行ってたのか席にすわりながら、「今日のお昼は何食べようかな」と呑気に話していた。


 ま、なるようになるでしょ。


 私はクレアを眺めながら、クレアの幸せを願ったがその願いは意外と早く叶う事になる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る