第7話 新しい出会いですか?

 オニール様に連れられて、私は気付いたら高級店ブレスコの椅子に座りシャンパンを注がれていた。


 グラスも凄く高級品だろうし、店のカーペットもふわふわで歩いていても気持ちがいい。


 通された部屋は個室で、ブレスコの中でも特別な事が分かる。



「バーキントン嬢。改めて、筆頭魔術士のディラン・オニールです」


「はい」


「どうぞ、食事をしながら話をしよう」


「あ、はい。どうも」


「バーキントン嬢は、先程の恋人に嫌がらせを受けているのだろうか?」


「しっかり断れましたし。もう大丈夫だと」



 話をしながらも、一口分しかない綺麗な料理をパクリと食べて、「ふううう!!!」と美味しくもぐもぐ食べる所から食事は始まった。


 次に私は綺麗に飾られて、何処から食べていいのか分からないようなサラダを、「おおおお!!」っと心の中だけで悶絶しながら食べた。


 私がオニール様を見ると大きな手で綺麗に食べている。パチッと眼が合うと、ふっと笑われた。



「バーキントン嬢は、美味しい物を食べるのが趣味と伺った。私は食べれればなんでも良いと思っていたが、美味しそうに食べるバーキントン嬢を見るのはとても楽しい」


「美味しいは正義だと思います」



 私はコクリと頷き、次のお皿を食べだす。


 美味しく食べる事は良い事だと思う。


 次に出て来たのは、説明されてもなんだか分からないスープだがとにかく美味しい。


 当たり前のようにオニール様から名前を呼ばれていたけれど、「私、自己紹介してなかったわね」と、ご飯を口に入れて気付いた。



「オニール様。今更ですが、私は魔力事務所で事務兼秘書をしています。クレア・バーキントンです。ご挨拶が遅れてすみません。今日はお食事に誘って頂いただけでなく、助けて頂いて有難うございました。所長からは、ご飯を奢ってやるって言われただけでした。オニール様の事を知らず、すみませんでした」


「ああ、勝手に名前を私が呼んでいたので、驚かせてしまった。バーキントン嬢が悪いわけでは。ロジャーが説明を省いただけなので、悪いのはロジャーだ。今度しっかりとロジャーと話をするのでバーキントン嬢は気にしなくていい。さ、スープが冷める」


「あ、はい。スープ、美味しいですね。野菜が聞いた事の無い物でした」


「ああ、最近我が国に入って来た野菜だ。メリア国の物らしい。バーキントン嬢は先程の恋人の事はもう何も想われていないのだな?」


「え?ええ。なんだか一緒にいて疲れたのです。ずっと我儘聞いていると、お礼も言われなくなるんです。逆に、我儘聞かないと文句を言われたりしました。女性もいたでしょう?彼女、彼の従妹なんですけど、彼女の世話迄頼まれることがありました。私の好きな歌を歌った時も、「その歌は似合わないから歌わないでくれ」って言われたり、「その洋服は似合わない」って。ダメな事ばかり言われてました。一緒にいると、自分が嫌いになりそうでした」


「それは相手が悪い。私ならば否定はしない。歌も聞かせて欲しい」


「時間も守らないんです。私が待つのが当たり前。私が少しでも遅れると一日機嫌が悪くなるので、早めに行っていました。機嫌が悪いといっても、暴力振るうとか、暴言吐くとかはないんです。なんとなく無視っぽいって言うんですかね、一緒にいるのに急に本を読んだり、仕事の分からない話をされて私が分からないと、笑われたり。でも、その後、ごめんごめん、とか言われるんです。だから私の気のせいか、とか思うくらい。それでも、一日気を遣うから凄く疲れるんですよね。最近はもう、私もいいやってなって言い返してました。すると、機嫌のいい時は凄く謝ったりしてくれるんです。すると私もやっぱり期待して、裏切られて。でも、もう無理でしたね」



 オニール様も綺麗にスープを梳くって食べ、頷かれて「貴女は悪くない」と言われた。



「先程は別れ話なのにプロポーズまでされて、もう困っていました。私の話を聞かない人だと思っていましたけど驚きました。オニール様が来て下さって本当に助かりました」


「は?プロポーズ?」



 オニール様はスプーンをピタリと止めた。



「ええ。初めてのプロポーズがあんな形だなんて。私の愚痴ばかりですね。ごめんなさい。あ、スープに入っているこれなんでしょう?ナッツかな?美味しいですね」


「・・・ロジャーの魔鳩がもう少し遅ければロジャーを氷漬けにするところだったな・・・」



 オニール様はスープを食べ終わると、私の方に一本指を立てた。



「バーキントン嬢、恋人の事は綺麗さっぱり忘れて新しい出会いを求めてはどうだろうか」


「え?」


「ちなみに七つ年上は駄目だろうか?稼ぎはある。趣味は読書。兄弟はいない。ギャンブルもしない。家族は父が一人。顔を変えることは出来ないが、短髪が好きならすぐに髪を切ろう。食べ物の好き嫌いはない。太った方が好きならば頑張って肉をつけよう。いかがだろうか?」


「え?」


 いかがだろうか?って、どう返事するの?新しい出会いってこんなに早く来るものなの?


 スープを口に運ぼうとした所で、オニール様の説明が始まった。



「私の事を貴女の所長はよく知っている。何か知りたい事や疑問があれば私の履歴書を渡しておこう。普段は王宮魔術棟にいる事が多いが、月の半分は出張で出ている。ああ、筆頭魔術士は転移門が簡単な申請でいつでも使えるので、出張で会ってもすぐに王都に戻ってこれる。もし、バーキントン嬢に呼ばれればすぐに戻って来よう。それに、国内の珍しいお菓子や食べ物をお土産で買ってくる事も出来る」


「私が呼ぶ?え?申請って大変なのでは?お菓子?国内中の?」


「バーキントン嬢を不安にさせる方が大変だ。年に数回だが国外に出る事もある。その時は少し長期になるが外国のお菓子も買ってくることが出来る。お菓子だけではなく本でも、珍しい宝石でも香水でもなんでも買ってこよう」


「外国のお菓子・・・」


「ああ。私の見た目はどうだろうか?」


「見た目?魔術士にとって髪は大切な物ですよね?安易に切る等は言われない方が宜しいかと。オニール様の髪は綺麗な黒髪ですし。あと、健康的な体系が良いと思います」



 私がそう言うと、うんうんと頷かれた。



「では切らずに髪の手入れをしっかりとする事にしよう」


「そうですね。オニール様の髪は珍しい色ですし、お似合いだと思います」


「成程。ああ、私は細身だが健康だ。背が高い男は怖くはないだろうか?眼つきも悪いと言われるが」


「背が高い人が怖いと言うのはないですが、羨ましくは感じますね。オニール様の眼は確かにウサギの様な丸い目では無いですが、怖くはないです」


「それは良かった。私がバーキントン嬢に我儘を言う事も少ないと思う。無いと言えないが、嫌がる事はしない。バーキントン嬢は私に我儘を言っていい。私は甘やかしたいと思っている。なんでも買うし、何処にでも連れて行こう。貴女を否定する事もしない」



 オニール様は確かに眼つきは鋭く、その眼でじっと見られると動けない感じはする。今も私はどうしていいか分からず固まってしまっている。



「私はバーキントン嬢とまた食事をしたいと思っているので、来週のランチの約束だけでも頂きたい」


「・・・先程言われていた、ここのランチですか?」


「ああ、来週。ここのスペシャルランチにスペシャルデザートが付いている」


「ダブルスペシャル・・・」


「どうだろうか?」


「・・・是非」


 私はまんまと綺麗な蜘蛛の糸に絡まっていったのだろうけど、罠にかかっている虫はそんなことに気付かないものだ。


 オニール様はにっこり笑って「それは良かった。ちなみに私は尽くすのは好きだと思う」と頷かれた。


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