第3話 嫌いな男のタイプ

「別れたい」と言って、「さよなら」と言ったのだ。


 こっちはもう会いたくもない。


 付き合って半年だが散々オリバーの我儘を聞いてきた。


 オリバーが交際を申し込んで来たのに、優しかったのは最初の一ヵ月位だけ。残りの五ヵ月は、一緒に住んでいる従妹の世話やらオリバーの仕事の手伝いやらなんやらを頼まれてもう楽しくも何もなかった。


 魔術のレポートを作成するのに私が何回、図書館に通ったことか。オリバーはいつも本を借りるだけ借りて返さない。


「クレア、返しといてくれ」と、簡単に私に本を持って来ては、私が図書館で謝りながら返した。


「次からはちゃんと返して下さいね」と、怒られ、「すみません、伝えます」と言って、オリバーに伝わった試しがない。


「もう、付き合うのは無理かも」と思っていた所で昨日の事があった。遅かれ早かれ、駄目になっていたと思う。



 大体、デートだってオリバーの行きたい所に行くだけ。私の希望を聞かれたのは最初の一回のみ。


 オリバーって私の事を好きだったのかしら?なんで交際を申し込まれたのかしら?


 私はオリバーの顔は好みだったし、魔術士で凄いな、と思ったし、歳も二つしか変わらないし、告白されて嬉しいな、と思ったのに。付き合ってる時は好きだったけど、もう、あんな風にこき使われるのはまっぴらよ。


 心の中で悪口を言いながらご飯をもそもそと食べた。


 だって、好きだったから。


 私がオリバーの悪口を言ってもいいけど、周りから言われるのは嫌だったし。


 もう、別れたから関係ないんだけど、ほんのちょっとだけ時間が欲しい。


 今、顔を合わせてしまってオリバーから「別れたくない」って言われたら心がグラリと揺らいでしまうかもしれないし、いきなり修羅場も避けたい。だからちょっとだけ会いたくない。


 オリバーの前の彼は浮気が凄い人だった。


 私以外に付き合っている人が私が知っただけで三人はいた。そんなにいたら、すんなり別れられると思ったのに、別れると言うと、泣かれた。「他は遊びだから!本命はクレアだけだから!」そんな事いわれて、流石にキュンとはならなかった。


 その前の彼はギャンブルが好きな人で、危うく借金を肩代わりさせられるところだった。


 昼寝をしている時に、急にやって来て、「ここ、サインして」と言われて、寝ぼけながらサインをしようとしていたら、たまたま兄が遊びに来ていて、兄が奥から出てくると走って逃げて行った。


 兄からはその後、長い長い説教をされた。今でも定期的に兄が抜き打ちで遊びに来る。


 何でこんなに駄目男に引っかかってしまうのかしら。


 エマに相談したら、「人を信用しすぎちゃうんじゃない?あと、クレアは尽くしちゃうんでしょうね。ダメ男製造機になりそうね。もっと、クレアに尽くしてくれる男とだったら釣り合うんじゃない?」って言われたけど、何処で私に尽くしてくれる人を探せばいいのかわからない。


 道に立って、道行く人に「あ、貴方、尽くすのが好きですか?尽くされたいタイプ?」なんて聞けるわけないし、オリバーだって、付き合ってみないと分からなかった。


 新しい恋を考え、うーんと言いながらご飯を食べ、とにかくオリバーに会いたくないので魔鳩でも出しておくかと思った。


 私が昼ご飯を食べ終わり、ゴミを片付け、オリバーに「もう会いたくもない、来ないで」と魔鳩を飛ばそうとしていると、所長がひょこっと事務所の裏に顔を出した。



「おい、何隠れてんだ?オリバーと付き合ってるんだろ?さっき来てたぞ。喧嘩か?」


「いいえ、昨夜別れを切り出しました。今朝、ちゃんと別れの手紙も出しました。もう一度今から、ここに来ないでくれって手紙を出す予定です。私、もう、疲れたんですよ。次の恋に走り出しますよ!」


「え!お前、別れたのか。そうか!新しく恋人が出来たとかじゃないよな?」


「私が二股したって事ですか?所長、競馬のしすぎで人の話を聞いてませんよね。私、そんなクズ女じゃないですよ。もう、疲れたんですよ。オリバーに面倒掛けられたり、オリバーの従妹の世話をさせられたり。最近はデートもしていませんし。今度は私に合わせてくれて、お互い思いやれるような素敵な人を探しますよ。共通の趣味があればいいですね」



 所長はうんうんっと頷く。



「そうだな、それがいい。でも、さっき来てたな。しっかり別れたのか?相手は未練があるんじゃないのか?どういう経緯で別れたんだ。で、お前の趣味はなんだ?好きな男のタイプはいいとして、嫌いな男のタイプを教えろ」



 所長がぐいぐい聞いてきてしょうがないので、昨日の流れやら、最近の様子を話した。



「好きなタイプは聞かれた事がありますけど、嫌いな男のタイプ聞くって所長、変な人ですね?」


「馬鹿。好きなタイプ聞いても、結局役に立たないんだよ。嫌いな方聞く方が確実だ。ちなみに俺は、「だってぇ」、「でもぅ」、とか言う女は駄目だ。あと、香水の匂いがきつい女も苦手だな」


「あ、なんか分かる。奥さん、スッキリ美人なタイプですものね。私の嫌いな男のタイプ・・・・。そうですね・・・、借金作って人に押し付けようとする人。嘘ついて、デートを掛け持ちして浮気がバレる人。あとは我儘ばかり言って、従妹や自分の仕事を押し付けて私の事は否定する人。ですかね。あ、なんだか落ち込んできた」



 私は遠い目をしながら所長に答える。


 ああ、私の男を見る目の無さがバレてしまう。ズーンっと気持ちが落ちそうになった。



「お前、碌でもないのばっかり引っかかってるな。まあ、大丈夫だな。うん。じゃあ、お前、年上は何個上迄オッケーだ?」


「何個上までオッケーとか考えた事ないですね。年下は犯罪にならなければって思いますけど・・・。うーん。所長は無理かなあ・・・あ、兄より下がいいですかね。兄より上だと、もうお兄ちゃんとしか見れないかも。えーっと兄は12、上ですね」


「お前何気に失礼だな。まあ、俺はいいんだよ。でも、オッケーだな。よし。じゃあ、あと、オリバーは魔術士だったが、お前魔術士はもう嫌か?」


「そんな横暴な。オリバーが嫌なだけで、魔術士の方を嫌いになったりはしませんよ」


「顔はどうだ?お前イケメン好きか?オリバーみたいな爽やかタイプがいいのか?こう、ちょっと眼つきが鋭い背が高い大柄な男は苦手とかあるか?」


「具体的ですね・・・。うーん。そりゃ、みんなイケメン好きじゃないですか?所長の奥さんだって美人だし。でも、やっぱり、思いやりがある人ですかね。太っても背が低くても、可愛い系でも、私は好きですよ。あ、ポチャッとしてる人も結構好きかもしれません。兄が最近お腹が出て来ましたけど、兄は背が低めでお腹が出てても可愛いですよ。ちっちゃな熊みたいです」


「え。細身は駄目か?」


「いえ?私が抱きしめて折れそうだったら心配しますけど、嫌いじゃないですよ。あー。でも、食べ方が汚い人は無理かも。くちゃくちゃは無理です。食べながら話すとか。あと、好き嫌い激しいと食事が楽しめないかも」



 所長はうんうん、よし。と言いながら頷いた。



「はあ。なんで私って男運が無いんでしょうね?オリバーも優しいイケメンだと思ったのに、付き合ったら文句ばかり言われて、用事を押し付けるんですよ」


「まあ、お前はくじ運が悪いんだ。自分で引くから悪いんじゃないか?よし、俺に任せてお前はもう、寄って来る男は無視しろ」


「私はそんなにくじ運が悪いんですかね・・・。所長に任せるのも不安でしかないですけど・・・。所長も競馬で勝ったところ見た事ないですよ」


「買ったときはまた大きく掛けるからな。結局すっからかんになるんだよ。勝負は時の運だからな!」



 わたしは、所長の笑顔にはあっと溜息をはいた。

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