第2話 それでも好きになっちゃうのよ
私は次の日、仕事の早番の為に朝五時に起きて、家を六時すぎにでた。仕事場に六時半に着き、六時四十五分には仕事が開始出来るようにし、七時には夜勤の人が帰れるように十五分で申し送りを聞いた。
申し送りが終わり、私が自分の机の上に置いてある急ぎの書類を片付けようとしていると、帰ろうとしていた同僚が私の隣の席に座り話し掛けてきた。
「で、クレアが機嫌悪いのはどうして?」
「え。分かる?」
同僚のエマに私の頬をツンツン突かれて、「ん。分かる」と頷かれた。
「うーーー。オリバーと別れたの!」
「あら。振られたの?」
「振ったのよ!オリバーの大事な従妹のお守りをさせられて、もう疲れたの。昨日も夜中まで同窓会の送り迎えさせられて最後にはお礼を言われるかと思ったのに、オリバーに文句を言われたの!私には思いやりが足りないんですって。後、配慮だの、優しさが無いだの、色々言われたわよ!鼻の穴が気になってちょっと覚えてないけど、プツンとなんだか我慢の糸かな?なんだか分からないのが切れちゃったの!で、もう無理だから昨日の帰りに別れを言って、今朝、時間指定でお別れの手紙を送ったの。次よ!次の恋を頑張るんだから!」
「あー、成程。無理に探すと、また変な男に引っかかるわよ。クレア、恋人募集中組にようこそ。お祝いに夜食で持って来てたお菓子をあげるわ。コレ食べて元気出して。季節限定の味ですって。明日でもゆっくり話を聞かせて。じゃ、お疲れ様ー」
勢いよく話した私にエマはクールに答えると、セサミ&ベリーと書かれたビスケットを机に置いてくれた。
「え?限定?エマ、有難う。美味しそう。エマもお疲れ様、気をつけて帰ってね。今日は一つ良い事があって、幸せ。食べた事が無い物を食べると百日寿命が延びるって隣のおばあちゃんが言ってたけど本当かな?」
「ふふ、だといいわね。ええ、また明日。それ、美味しかったら食堂の横の売店で売ってたわよ」
そう言うと、「おやすみー」と言って、眠い目をこすりながら同僚のエマは帰って行った。
私はオリバーと別れるとスコンと気持ちが楽になった。
もう別れたので振り回されることも無いだろう。思いやりのない優しさの無い私はすっかり忘れてやる事にする。
オリバーは下級魔術士だが、見た目もいいしモテていた。
魔術を自在に操れる魔術士は一昔前までは、王宮や貴族に多く取り込まれていたらしい。
今は余程魔力か多い者か、才能がある人は貴族の養子に望まれたり婚姻を望まれたりもあるようだけど、そんな話はあまり聞かない。
まあ、特別に才能がある人は魔術士だけに限った事ではなく、騎士だって文官だって貴族は取り込みたいだろう。
それでも魔術士が人気なのは不動な事で、今でも子供が憧れる職業ベストファイブにいつもランクインされているし、魔術士のローブは高給取りでもあるので男女問わずモテる。
そのモテるオリバーと私の出会いはよくあるような、無いような、普通の出会いだった。
近くの食堂で店の人から相席をお願いされた相手がオリバーだった。
ただそれだけ。
それからオリバーの勤める魔術局と私の職場の魔力事務所が近い事から、偶に会うと挨拶するようになった。それから食事に誘われて、何回か食事をして告白された時は驚いたけど、優しいし格好良いし、やったー!と思ったのにな。
そりゃあ、私は惚れっぽいかもしれない。
でも格好良い男の人から、「可愛い」「素敵だ」「好きだ」なんて言われたら、少しはドキン!とするわよね?
同僚のダニエルだって、綺麗なお姉さんからウインクされただけで、「やべ、俺、惚れられた?マジ、あの脚いいわー」っていいながらムフムフしている。
あ、これはちょっと違うか。
とにかく。偶然、食事中にオリバーの手が私の手にチョンっと当たって、ニコッと微笑まれて、「ごめん。小さくて可愛い手だね」とか言われたら、「え。好き」とか思うわよね?
エマからは「クレア、チョロい」と言われ、自分でもそうだなと思う。
それでも好きになっちゃうのよ。
エマにオリバーを紹介した時も、「今度はまともそうじゃない?クレアはいつもダメ男ホイホイだから」と言われたが、エマからも「魔術士だし(ちゃんと働いている)、年も近いし(既婚者じゃない)、まともそう(だったらいいわね)」と言って貰えた。
副音声が若干聞こえた気がするがその時は、ルンルンして聞こえないふりをした。
それなのに。
オリバーは良い彼だと思ったのに!!
付き合ってからの変わりようは何よ!!
私は皆が来るまでの時間、書類に八つ当たりをしながら仕事を片付けていった。
ええ。魔術師はモテるでしょう。でも、魔術士もモテるが私だってそれなりにモテるのよ!
ええ、それなりに。
特別美人じゃないけど、「愛嬌があって、可愛い」と昔からよく言われたし、おじいちゃんおばあちゃん、犬、猫にはそれはそれは昔からモテた。
それに、何故か綺麗系の女友達ができやすい。皆、私より背が高く、脚が長く、綺麗だ。
私は友達に比べたらチビポチャでも、彼女達は皆私を褒めてくれるし、私も自分の事は嫌いじゃい。
勤め先だって、自分の子供が勧めたら嬉しいと親に人気の王都魔力事務所。(子供達からはそんなに人気はない)
魔力が少なくても魔力技師にはなれるのが人気の職業の理由だと思うし、危険も少ないのに給料はまあまあ良い。魔道具の需要は増えているし、減る事はないので魔力技師は安定の職業とされている。
地味だが、手堅くて親世代には人気の職業だ。
私が就職した時は年の離れた兄がすごく喜んでくれた。
国中に魔力を循環させたりする魔力事務所は、国民生活で無くてはならないものだし、なんといっても、公務員だ。
私は魔力が無いので魔力技師にはなれないが、上級事務員試験を受かったので、ここで事務員兼秘書をしている。秘書というと恰好良い感じだが要するになんでも事務員と言う感じだ。
おかげで早番もしなくてはいけないけれど、エマのように魔力技師は夜勤がある事を考えたら、遅番と早番しかない私はまだ楽だとおもう。
楽だと思うが、オリバーの夜の送迎はもう嫌だ。
仕事の早番、遅番は手当てが付くがオリバーからの仕事は文句しか付かない。
今更恋人の一人や二人、いなくなったところで痛くも痒くもない。
うん、痒くはない。少しポカリと心に穴は開いたけど。
私が仕事を片付けていると続々と皆が出社してきた。
「おーっす」
「おはようー」
「おー」
「おはようございます」
挨拶をそれぞれかわし、皆が作業服に着替えて仕事をこなしていく。
魔力塔に検査に行く者、国中に流れている魔力が適正なのか調べている者、書類仕事に頭を抱えている者、こっそりと競馬新聞を読んでいる者。
私は各自の仕事を助けながら書類を仕分けし、競馬新聞を取り上げ、仕事を片付けて行った。
お昼になり私がお昼ごはんを食べていると、元恋人のオリバーが事務所にやって来た。
「すみません、クレアいますか?」
来るだろうな、と思っていた私は事務所の裏で隠れてご飯を食べていた。
「うん?いないな。飯、外に食いにいったんじゃないのか?用事か?伝言は?」
「いえ・・・。自分が来たって伝えて下さい」
そう聞こえ、ドアが閉まった音がした。
帰った帰った。
私は、暫く顔も合わせたくないので、チョロいと言われる私は無視をする事にした。
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