私って男運ないんですか?~駄目男ホイホイの主人公がやばそうな男にロックオンされるまでのお話~
サトウアラレ
1章
第1話 「君が悪い」って何よ?
私は恋人のオリバーの従妹、ジュリアの送迎を終えると溜息を一つついた。
ああ、疲れた。
空を見上げると月が真上にのぼっていた。本当ならもうベッドの中なのに。両親から就職祝いで貰った懐中時計を開くともうすぐ10時45分だった。
家に帰って顔を洗って、着替えて、ベッドに入るのは11時半すぎるわね。
「ふう。さ、帰ろ」
運転席の脇のポケットからビスケットを取り出すと、私は大きな口で一口で食べた。
誰も見てない。
帰ってからどうせ歯磨きしなきゃいけないんだし。夜にビスケットを食べないとやってらんないわよ。明日は早出出勤で、五時には起きないといけないのに。
ジュリアがオリバーの家に入り、ドアが閉まるのを見届け、私は口の中のビスケットをむしゃむしゃごくんと飲み込むと魔動車を発進させた。すると、ジュリアと入れ違いに家から出て来たオリバーに呼び止められた。
「おい!クレア、ちょっと待ってくれ!」
慌ててドアから出てきたオリバーに私は急いで魔動車を止めた。
「オリバー。何?忘れ物?」
私は窓を開けると顔だけ出して返事をした。それともジュリアを送迎した事のお礼を言われるのかしら、と首を傾げた。
「君が悪い」
私はポカンと口を開け、突然、「悪い」と言った恋人に間抜けな声をあげた。
「は?何?急に。私、帰りたいんだけど。え?」
私が声を出すと、小さな子に言い聞かせるようにオリバーは優しく声を掛けてきた。
「だって、考えてもみろよ。君がジュリアに、「迎えに来て」って
「何?なんの話?私が悪いってどういう事?言葉が足りなさすぎじゃない?ジュリアに頼まれた?今日の送迎の事?貴方が私に頼んできたんじゃない」
「そうだったか?どっちにしろ、君がジュリアの同窓会の送迎をお願いされて、了承したんだろ?それなのにジュリアが車に乗り込んだ所で文句を言ったんだろう?家に帰って来たジュリアが言っていたよ。どう?君に分かるように説明しているだろう?」
「は?え、文句。ああ、そう。ジュリアがそう言ったの?私が店に送った時もこの家の前で三十分もジュリアを待ったのよ?仕事を慌てて終わらせて急いでここに来てみたら三十分待たされたのよ?で、乗り込んで来たジュリアは「遅れちゃうから急いで」よ?」
私はシートベルトを外した。
本当、オリバーは説明が下手だ。
「で、ジュリアを店に送って、自分の家に帰ってご飯食べてのんびりしてもう寝たいのに、ジュリアを迎えに行ったら、今度は店の前で一時間半も待たされたのよ?車に乗り込んで来た時も、彼女、なんて一番に言ったと思う?「疲れた。クレア、ドアを開けてくれてもいいんじゃない?」よ。これが貴族のお嬢様ならそう言うでしょうし、従者なら言われても仕方無いでしょうね。でも、私は貴方にお願いされて迎えに行ったわよね?彼女からは「迎えに来てくれて有難う」も、「待たせてごめんなさい」もないのよ?私がジュリアに言われて、「一時間半も待って疲れてしまった。魔鳩の返事が欲しかった」って返事をしたのは文句なの?」
「実際は一時間だろ?それに近所じゃないか。そんなに強く言わなくてもいいだろう」
「近所なら送迎車を予約しておけばよかったじゃない。高くはないわよ。それに待った時間は近所だろうが遠くだろうが変わらないわ。いい?一時間じゃないわ、一時間半よ。送りの分も合わせると二時間だわ。「同窓会が終わる三十分前に来て欲しい。早く終わってクレアを待つのが嫌だから」って言われて私は断ったのよ?それなのに、貴方からも「早く行ってやってくれ」って言われたわよね?だから十五分前に待ってるって連絡したの。十五分は待つのは仕方無いと思ったわ。でも、遅くなるようなら、魔鳩で知らせてって何度もお願いしたのよ?」
「しょうがないだろ、連絡できなかったんだから」
オリバーは、やれやれと言う感じで魔動車に寄り掛かって喋っている。止めて欲しい。汚れたらどうするのよ。たださえ、クレアが乗ったらいつも汚されるのに。
「出来なかったのか、しなかったのか、する気もなかったのかは分からないわ」
私はオリバーを睨んだ。
「おい、そんな意地悪な事を言うなよ。君には優しさが無いんじゃないか?相手を思いやる配慮とかさ」
「・・・店からジュリアの同級生が十五分後には大勢出て来たわ。でも、ジュリアがなかなか出てこないから何かあったのかと心配で何度も魔鳩を飛ばして、魔鳩は読まれた形跡はあるのに返事はなし。それからさらに十五分経って、店にも連絡したらやっと何人かと一緒に店から出て来たのよ。そしたらまたそこから店の前で一時間も喋っているのよ?貴方から遅いって文句の魔鳩が来て、私ちゃんとその都度、貴方に魔鳩を飛ばしたわよね?彼女を待ってる事、私が連絡するけど、返事が無い事、目の前で喋っているけど帰る気配がない事。説明したわよね?私、今日仕事は早番で疲れていて、明日も早いからすぐに寝たいって言ったわよね?もういいかしら?帰って寝たいの。今何時だと思ってるの?」
「でも、君が見える所で喋っていたんだろう?安全じゃないか?」
「あのね、そんなに言うなら、
「はあ・・。俺は君という恋人がいるのに、夜に俺が迎えに行くのは変だろう?そんな非常識な事出来ないよ」
全くクレアは分かってないな、なんて言ってふっと鼻で笑った後、オリバーはやれやれと首を振っている。オリバーは自分の顔の良さを知っているから、こうやって首を振る時も背が低い私に上目遣いになるように少ししゃがんで髪の毛をかきあげたりする。
イライラしている時にその仕草は格好良いとは思わない。
「ねえ、じゃあ、私が悪いって何?」
「ああ、ジュリアが帰って来て、一番に言ったことが分かるか?「クレアに文句を言われて、悲しかった」だ、君はせっかく楽しく同窓会に遊びに行ったジュリアを迎えに行ったんだったら、最後まで楽しく迎えにいってやれよ。思いやりが足りないんじゃないか?卒業して一年ぶりに友人にあったんだぞ?積もる話もあるだろう?文句を言うのは家に帰ってからゆっくり落ち着いて話せばいいだろう?」
プツン・・・
私の中で確かに何かが切れる音がした。
「は?ああ、そう。私、もう無理」
「無理ってなんだよ?一言謝ってやれよ」
「オリバー。私、もう無理」
私はそう言うと両手を上げて、「オリバー別れましょ。貴女がジュリアの面倒を見てあげて。さよなら」と言うと、魔動車を発進させた。
優しくない私は止まってあげない。
もう知るか。
「おい!」と声が聞こえたけど、私はシートベルトを着け気持ちよく魔馬車を飛ばしアパートへと戻った。
ミラー越しにオリバーの家のドアの隙間からジュリアが笑っていたのが見えたが、もう振り返りもしなかった。
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